第三十五話 旅
レインが去って数日。
私とリアは馬車に乗って帝国領を後にしていた。
リアはあの後すぐに目を覚まし、ケロッとしていた。
本当に悪いことをしたと思って何度も謝ったら、タコ焼きを奢るのを条件に許された。
おかげで財布が空っぽだ。
「それでお姉さんを殺した奴なんやけどな?話を聞く限り、蒼冠で間違いないと思うねん。」
「あいつはアオイって名乗ったよ。」
「なら大正解や。アオイ・ユベルが蒼冠の本名やで。」
アオイ・ユベル…奴を思い出してみる。
少し黒みがかった長い銀髪、何も見ていないような虚ろな目。
そして心臓が直接つかまれているかのように感じるほど邪悪な殺気。
今でもあの姿を思い浮かべるだけで腕が震える。
そしてレインの発言と行動からすると、おそらく奴が宵闇の3人目で間違いないだろう。
「リア、教えて。あいつの能力の詳細が知りたい。」
「うーん、ウチもあんまり知らんのや。そもそもあいつとまともに戦闘出来た人間がおらんから、情報がほとんど残ってない。分かってるのは、素手で触れた相手を即死させるってことだけやねん。」
あまりに情報が少なすぎる。
これでは対策を立てられない。
奴に近づこうとした瞬間、全身を斬り刻まれた。
あれがなんなのかも全く分かっていない。
「アイラはこれからどうするん?」
「…王国に一度戻ろうと思う。王国に行けば私の知りたいことが全部わかる気がする。それに会いたい人もいるしね。」
アイラの目が一気に見開く。
「ま、まじで?そんなん危険すぎるわ!」
「いや、今だからこそだよ。獅子王は失踪中で、女皇は死んだ。そして戦姫…私は裏切った。今王国で危険な人物は白銀だけ。手薄な今がチャンスだよ。」
「レインに襲われたらどうするんや?」
「そうなればむしろ運がいいよ。倒すべき敵が自分から寄ってきてくれるんだから。」
それに私は大迷宮を破れる自信がある。
奴に不利は取らないはずだ。
「そこまで言うんなら、わかった。その代わりウチも行くで。」
「…え?き、危険だよそれは。」
「アイラにそんなこと言う権利はあらへんで。何と言われようがウチは付いて行く。」
リアが頬をぷくーっと膨らませて私を見ている。
これは怖いよりもかわいいが勝つんだけど。
まあこうなったリアは一切他人の言うことを聞かない。
反論するだけ無駄だろう。
「…わかった。リアの好きにしていいよ。その代わりそれなりの覚悟をしてね。」
「任せとき!ウチがアイラ守ったるわ!」
意気揚々と答えるリアには困ったものだ。
実際かなり危険な旅になる。
私は王国領に一歩でも入れば大罪人だ。
すなわち王国には誰一人として味方はいない。
誰からの支援も期待できない。
「まあリアと一緒なら何とかなるか。頼りにしてるよ。」
「にしし!我が剣は汝の元に、やで!」
「あはは。よく覚えてたね。」
そんな軽口を交わしつつ、二人で王国への旅をする計画を立てる。
王国を追われてからたったの一月ちょっとしか経っていないが、早くも里帰りの時がやってきた。
待ってろ私の故郷を食い荒らす蟲ども。
絶対に殺してやるから。
次回から王国編開始です。
お楽しみに。




