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永夜の流星  作者: Ragna
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第三十三話 約束

「ヴィル、本当に行くの?」


ヴィリアールと食事をして、宿で休んだ翌朝。

私たちはあの浜辺に戻ってきていた。


「うん。これからは調律者を探そうと思って。」


ヴィリアールが去る。

それはわかっていたことだった。

私たちは多分、もう二度と同じ旅路をたどることはない。

それでもいざこの時になれば、名残惜しくなるものだ。


「アイラ、会えてよかったよ。元気にしとくんだよ?お姉ちゃんとの約束。」

「…うん。もう私を殺しに来ないでね。」

「あははっ、するわけないじゃん。」


ヴィリアールは笑って歩き出す。

今度こそ、お別れの時だ。

仮にまた会うことがあるのなら、それはいつになるのだろうか。

少し寂しいけど、私もそろそろ戻らなければ。


「あなた、もういらない。」


酷く冷たい声がした。

背筋が凍るような、何の感情も感じられない声。

本能が告げている。

今すぐ逃げろ、と。


「ごみは、捨てないと、だめ。ばいばい。」

「ヴィル、危ない!!!」


嫌な予感がして叫ぶ。

スピカを抜いて地面を蹴る。

間に合え間に合え間に合え!!!


「…え?」


血が噴き出し、ヴィリアールが崩れ落ちる。

誰に何をされた?

全く見えなかった。


「あなたは、殺せない。残念。」


背後から声がする。

一気に吐き気が昇ってくる。

ここまで不快な殺気を未だかつて感じたことがない。


「お前は…誰だ!」


恐怖を押し殺して振り向く。

そこには私と同じくらいの背丈で、長い銀髪の女がいた。

見た目だけみれば18歳ほどの少女。

しかしその目には何も映っていなかった。


「わたし、アオイ。あなた、知ってる、せんき。」


女が口を開いた瞬間、私は地面を蹴った。

こいつは生きていてはならない存在だ。

今すぐ殺さなければ、多くの命が散ってしまう。


「あなた、弱い、期待外れ。」

「…は?」


視界が一気に揺らいだ。

足の力が抜け、地面と激突する。

あの一瞬で全身を斬られた。

あいつはほんの少しも動いていないのに。


「命令、あなた、殺せない。王に、感謝して。」


女は私に目もくれず、歩き出す。


「やめ…ろ…!その人に…近づくな!!!」

「ごみは、捨てないと。」


女がヴィリアールの首を掴む。

ヴィリアールは全く動かない。


「これで、終わり。やっと、帰れる。」

「待て…!なにを…した!」


ようやく女が振り向き、私を見る。

その視線に射抜かれた瞬間、息が詰まる。


「自分で、確かめて。」


次の刹那、女の姿が消えた。

あたり一帯を包んでいた殺気が消え去り、空気が軽くなる。


「ヴィ…ル…」


足が全く動かない。

筋が斬られているのかもしれない。

それでもヴィリアールのところまでいかなければ。

せっかく助けたんだ。

ここで死なせるわけにはいかない。


「ヴィル…立って…お願い…」


這って何とか進む。

あと少し。

あと少しでヴィリアールのところに着く。

まだ助かる。

絶対に助かる。


「ヴィル…!」


ヴィリアールの倒れている場所まで何とかたどり着く。

彼女はぐったりしていて動かない。


「ヴィル、聞こえる?ヴィル!」


彼女は動かない。

嫌だ嫌だ嫌だ。


「起きてよ、お姉ちゃん!」


何度ゆすってもヴィリアールに反応はない。

嫌だ。

受け入れられない。

受け入れたくない。


「お姉ちゃん…寝てちゃ駄目だよ…」


ヴィリアールは動かない。

その目はもう何も見ていない。

分かっていた。

もう手遅れだ。

ヴィリアールは、私のたった一人の姉は、死んだ。

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