第三話 敗北
「むぅ…。この縄きつく縛りすぎだよ。」
「それは悪かったね。でも立場上仕方ないんだ、我慢してもらえるかい?」
あの戦闘から大体1時間ぐらい経った。
あの後どうなったかって?
私は吹っ飛ばされてそのままあっけなく意識を失った。
そして今はお縄についている。こんちくしょー。
「それにしても驚いた。あれを受けて生きているどころか、もう目を覚ますなんて。」
「…ふん。どうせ今から殺すくせに。」
それにしてもこの死神騎士には驚きだ。
まさか私を一撃でノックアウトなんて。
「自身を中心に一定範囲内の敵を吹き飛ばす魔術…いや斬る魔術。本当に小癪だね。」
「本当に君はすごいな。もう俺の魔術のからくりが分かったのか。」
彼は心底感嘆した顔でこちらを見る。
なんだその顔。
殴ってあげてもいいんだよ?
「君の推測は正しい。俺が使うのは領域魔術。俺の周囲の空間に斬撃を飛ばせるんだ。君はとっさに短剣でガードしたから斬れなかったけどね。」
「ふん。おかげで私の短剣は真っ二つだよ。」
そもそもこの世界で魔術を扱えるのはほんの一部だ。
剣技といい魔術といい、この人は本物の天才なんだろう。
「さて、そろそろ自己紹介をしとこうか。俺はウル・ラディア。知っての通り巷じゃ死神騎士なんて呼ばれてる。」
「それはどうもご丁寧に。何も話すことなんてないからさっさと殺してくれない?」
「そう怒らないでくれると助かるんだけどな。俺は君に聞きたいことがあるんだ。その返事次第で見逃してあげてもいい。」
この人は何を言ってるんだろう。
まがいなりにも騎士なら罪人を見逃すなんて発言はだめでしょ。
「俺が君に聞きたいのは二つ。まず一つ目だ。四大英傑、戦姫アイラ・フォード、君はなぜ城塞都市アルカを滅ぼした?」
「…。」
やはりそれか。
どうせ聞かれるだろうとは思ってたよ。
私が英雄から大罪人になった原因を知りたいと思うのはまあ当然だろう。
「…話したくないんだけど。」
「俺はかの戦姫が、何の理由もなく都市一つを吹き飛ばすなんて信じられないんだよ。君の王国へのこれまでの献身を知らない者はいないからね。」
「…。」
「まあいいさ。二つ目の質問だ。四大英傑が一人、獅子王レオ・アイアスの失踪について何か知っていることは?」
「…。」
ウルの質問に私は答える事ができない。
どんな弁明をしようとどうせ信じてもらえない。
事実として、私のせいで城塞都市アルカは消し飛んだんだ。
「答える気がないなら、俺の推論を聞いてもらえるかい?」
「勝手にしたら?」
「じゃあそうさせてもらおう。僕はね、アルカを吹っ飛ばしたのは君ではなく、獅子王だと考えているんだ。そして君は獅子王を止めようと戦ったが、敗れた。違うかい?」
その推論を聞いて私は目を見開いた。
「なんでそう思ったの…?」
「そもそも君には動機がない。そしてさっき実際に戦って分かった。君には城塞都市一つを消し炭にする力なんてない。君の能力は対人特化のはずだ。」
「でもそんな証拠ないよ…?」
「物的証拠がないだけだ。それに俺は自分の感を信じてるんだ。君、さっきの戦闘で自分の魔術を使わなかっただろう?」
やめてくれ。
それ以上続けるな。
それ以上は我慢ができなくなる。
「すべての攻撃に俺を殺さないよう細心の注意を払っていた。俺は殺すつもりで戦ったのにも関わらずだ。君は優しい人なんだよ。」
その言葉を聞いているといつの間にか涙があふれていた。
彼の言葉は、私をこの一週間の地獄から少しだけ解放してくれたような気がした。