第二十八話 宵闇
太陽が沈み、月が姿を現す。
夜は影を育む。
決して日の元で生きられない怪物を。
「結局助けたのか?」
深く外套を被った男が二人。
この森は闇を歓迎する。
「あぁ、僕にも立場があるからね。結果、キミは人形を失わずに済んだ。」
「あんなものはもういらない。期待外れだ。」
月明かりが二人を照らす。
今宵彼らの密会を知るものはいない。
しかし闇はさらにはい出てくる。
「あなた、甘い。いつも、殺さない。つまらない。」
陰から出てくるのは一人の女。
その目は虚ろでありながら、全てを見通す。
銀の悪魔と呼ばれし、人を辞めた怪物。
「あの人形は8年のも間、私の魔力で汚染された。どうせもはや長くない。放っておくといい。」
男が外套を下す。
深い緑の髪、全てを否定する目。
その者は見たものすべてを支配下に置く。
「相変わらずなんだね、キミたちは。あれでも彼女は僕の遠縁にあたる人物だ。見逃してあげるのが筋ってもんだろう?」
その男は闇に交じりえないほどの純白な髪を持つ。
迷宮を操り、迷宮に住まう者。
その男の本性など、誰一人として知らない。
「それで、彼はいつ来るんだい?」
「ずっと、いる。そこに、いる。」
女が闇を指さす。
そこから本当の悪がはい出る。
「この俺を呼び出すとは、随分無礼な真似をしてくれる。」
この男がひとたび口を開けば、大気が震える。
いかなる手段を尽くそうと、この純金の髪が目立つ男を殺すことはできない。
風格がそう告げる。
「いやぁ、少々面倒なことになってね。戦姫が王国軍の遊撃部隊を殴殺した。これで彼女は王国に戻ることはない。」
「それがなんだというのだ。まさかその程度の細事で俺を煩わせたわけではあるまいな?」
「いいや、ここからが問題だ。それだけならまだ力押しで何とかなる。でも戦姫は姉にかかっていた洗脳を解いた。」
金の男の目が動く。
かの者は自身の興味にのみ従って動く。
「ほう、あの小娘がか。調律者よ、ぬかったのか?」
「私がぬかったのではない。いきなり人形とのつながりを断ち切られた。」
「はっはっは、あの小娘はいつでも俺を興じさせる。」
金の男は嗤う。
その男の考えを推し量ることなど、許されない。
しかし今の彼は誰が見ても喜びに満ちていた。
「あれ、殺す?わたし、殺せる。」
「あれは俺の所有物だ。あれに手を出すなら気様とて殺すぞ、蒼冠。」
女は一歩下がる。
この男に逆らってはいけない。
「あれが古代の呪いを打ち破るほどの力を得たというのであれば、やはり我が妾になるにふさわしい。」
「それで、僕たちはこれからどうすればいいんだい?」
「変わらん。今まで通り好きに戯れ、好きに喰らい、好きに殺せ。それが我ら宵闇の掟だ。」
金の男は踵を返し、歩き出す。
それはこの密会の終わりを告げる合図。
「ただしわきまえよ。あの娘は俺の物だ。傷つけることまかりならん。」
「「「御意に。」」」
夜は更けていく。
四つの闇はそれぞれの旅路に戻る。。
その闇を知るものは誰もいない。
しかし確実にこの世を貪る。
大地は宵闇と共にある。




