第二十七話 終末
一か八かの賭けだった。
スピカにありったけの魔力を吸わせ、増幅。
さらに流星の能力、発散を適応させた。
込めた魔力を一気に解き放ちながら、スピカを振り抜く。
どうなるかは私にもわからなかった。
それでも神は私に微笑んだらしい。
スピカを振り抜いた瞬間、目の前の空間が爆ぜた。
いや、どちらかというと斬ったのかもしれない。
ともかく爆発が全ての剣を弾き落とした。
「強くなったねぇ…流石アタシの妹だなぁ…」
「うるさい…馬鹿!」
ヴィリアールをスピカで刺した瞬間に、刀身へドス黒い魔力が流れ込んでくるのを感じた。
この魔力には覚えがある。
八年前、義父さんから感じた魔力と全く同じ。
つまり傀儡術だ。
「なんで教えてくれなかったの?なんで頼ってくれなかったの?私はそんなに頼りなかった?」
「ううん、違う…。あの傀儡術師を倒すのは私の仕事だから…アイラを巻き込むわけにはいかなかった。」
この人はいつもそうだ。
いつも最後は一人で行ってしまう。
自分の行動が最善であると信じて疑わない。
何でも一人で解決しようとする。
力を持っているが故の傲慢だ。
「傀儡術師はお姉ちゃんが殺したんじゃなかったの?」
「殺したのは…あいつの依代だけ。本体は一度も…姿を…」
ヴィリアールの目がどんどん虚になっていく。
このままじゃすぐに死んでしまう。
「お姉ちゃん、もう少し我慢して。すぐに助けてあげるから。」
「あいら…もういいから。このままアタシは…」
「黙って。このまま死んで逃げるなんて許さない。」
まだまだ言いたいこと、怒りたいこと、謝りたいとこがいっぱいあるんだ。
ここで終わらせるわけにはいかない。
この人には頼らないつもりだったけど、今はそんなこと言っていられない。
「レイン!そこにいるんでしょ!」
私は誰もいない空間に向かって声を張り上げる。
それで隠れているつもりなのか。
戦闘が始まる前からずっとそこにいたくせに。
「驚いた。よく大迷宮の障壁を見破ったね。」
突如として空間がゆらめき、一人の男が現れる。
四大英傑、白銀。
なんで彼がここにいるのかは知らないし、気にしていられない。
「レイン、お姉ちゃんを助けて。この借りは必ず返すから。」
「キミはそれでいいのかい?彼女に何度も殺されかけたんだろう?」
「御託はいい。早くして。」
「…そうだね。元より同僚を見捨てるつもりはなかったしね。」
レインが指を鳴らすと、大迷宮が発動した。
周辺の空間が揺らぎ、私たちは迷宮の中に転送された。
「白銀…なんでここに…」
ヴィリアールが苦しげに言葉を絞り出す。
「それは気にしないで欲しいね。僕にも色々と仕事があるんだ。」
「それで、レイン。お姉ちゃんは助かるの?」
「助かる。僕を舐めないで欲しいね。でも完治にはかなり時間がかかる。おそらくキミの新しい武器の効果だろうけど、魔力による治癒が阻害されている。」
どうやらスピカの特性はただの魔力吸収なんて代物ではないらしい。
あの鍛治師はなんてものを作ったんだ。
「それじゃ、お姉ちゃんをお願い。私は行かないと。」
「…一応言っておくけれど、戻れなくなるよ。」
レイン言葉に私は頷く。
戻れなくなる…確かにそうだ。
今から私は帝国内に侵入した王国軍の掃討に加わる。
王国軍の兵士を討てば、本当の罪人になる。
濡れ衣などではなく、正真正銘の裏切り者に。
「それでも行かなくちゃ。どうせもう王国に私の居場所ない、そうでしょ?」
「…。」
レインは無言だ。
ならばそれは肯定ということだろう。
今更王国に戻ったところで、私は受け入れてもらえない。
なら、私は友人を助けに行かなきゃ。
「キミの旅路に幸あれ。アイラ、武運を。」
「ありがと。お姉ちゃん、またね。」
もうヴィリアールは眠っていた。
その寝顔を最後に目に焼き付ける。
次に会うのはいつだろう。
二度と会わないかもしれない。
それでも私は夢見てるんだ。
私たちが姉妹に戻れるその時を。




