第二十五話 弾幕
女皇は戦場において絶対的な力を持つ。
以前私に向かって飛ばしてきた木や石よりも、はるかに優れたものが無限に転がっているからだ。
それは剣や槍など、持ち主の死んだ武器である。
「アタシも立場上負けるわけにはいかない。ごめん、アイラ。死んで。」
大量の武器が一気に浮き上がり、私めがけて射出される。
私はスピカでそれを弾き飛ばしながら接近を試みる。
もちろん一撃でも打ち漏らせば即死だ。
「ここで死ぬのはお前だ!」
右から3本、左から4本、正面から2本。
一気に襲い来る飽和攻撃。
これを躱すには投擲の速度よりも早く動く他ない。
「…そんなことができれば苦労しないけどさ!」
文句を言いながら全力の身体強化を施し、全ての剣をはじき落とす。
この状況、以前なら完全に詰みだった。
ヴィリアールは決して弾切れすることのない弾幕を放つことで相手を追い詰める。
一度でも浮遊魔術を使用すれば魔力の続く限り周囲のものを飛ばし続けることができる。
故にどれだけはじき飛ばしても意味がないのだ。
でも今は違う。
「あれ…?私の魔力が剥がれてる?」
はじき落とされた剣は地に落ちたまま、飛び上がることはない。
私の双剣、スピカの特性は魔力吸収だ。
スピカで剣を撃ち落とす際に、剣に込められたヴィリアールの魔力を吸い取る。
これでヴィリアールは魔力を再度送らなければ剣を操作できない。
私が剣を撃ち落とせば撃ち落とすほど、ヴィリアールは魔力を消費する。
「ここからは我慢比べだよ、ヴィル。」
「我慢比べ…そうだね。ちゃんと全部撃ち落とすんだよ?」
更に多くの剣が浮き、私に剣先を向ける。
「チッ…多すぎだよ化け物め。」
無数の剣が射出されるのと同時に私は走り出す。
躱し損ねた剣はスピカではじいて軌道を変える。
一瞬でいい。
一瞬でもこの弾幕が緩めば、私はヴィリアールのいる場所まで距離を詰められる。
そうなれば私の勝ちだ。
でもそれはヴィリアールもよく理解している。
「まだまだ剣はいっぱいあるよ。」
さらに多くの剣が飛んでくる。
隙をさがしながらとにかく弾く、弾く、弾く。
さすがに私の体力にも限界が見えてきた。
やはりこの人と正面から戦うのは下策だったかもしれない。
「ッ────!?」
いくつかの刃が私の肩や足を掠める。
負傷はまずい。
動きが鈍って、捌ききれなくなる。
走れ、絶対に止まるな。
立ち止まれば的を絞られる。
走れ走れ走れ!
「ここで死ぬわけにはいかないんだよ!」
「アイラ、自分の非力を恨むんだよ?」
あぁ、くそったれ。
なんでまだこんなに魔力残ってるんだよ。
本当に腹が立つ。
私を囲む大量の剣。
逃げ場なんてない。
私の努力もむなしく、剣は襲い掛かってきた。




