第二十三話 家族
私には家族と呼べる人がいなかった。
幼いころに親が死に、それからは一人で生きてきた。
満足に食べるものもなく、寝る場所もなく、なにより孤独な人生だった。
10歳になるまでは。
「ここで死ぬには惜しい。うちに来なさい。」
私はクーゲル王国の名家であるヴァイス家に引き取られた。
偶然が起こした奇蹟とでもいうべきだろうか。
私が裏路地で死にかけているところを拾われた。
なぜ当主様…義父さんが私を拾ったのかは分からない。
でお私はヴァイス家で、生まれて初めて姉というものを得た。
「あなたが私の妹?案外小っちゃいのね。」
姉は開口一番にそういった。
なんて失礼なんだろう、そう思った。
でもあそんな印象とは裏腹に、姉は私に優しかった。
私もそんな姉を好きになっていた。
「お姉ちゃん、それどうやるの?」
「これはね、魔術をつかってるんだ!アイラにも教えてあげる!」
姉は物をよく浮かせて遊んでいた。
それを私にも教えてようと躍起になっていたっけ。
固有魔術だからできるはずもないのに。
それでもあんなに必死になっている姉のことは好きだった。
いつでも一緒にいた。
一緒に剣を学び、魔術を学び、生きる術を学んだ。
私にはそれがこの上ない幸せだった。
それでも幸せとは永遠に続かないものなのだ。
私が引き取られてから5年後、姉は英雄と呼ばれるようになった。
東の蛮族の侵略を、たった一人で防ぎ切ったのだ。
私は姉を誇らしく思うのと同時に、その妹であることがうれしかった。
でも姉はそれから人が変わってしまったようだった。
時々不気味に笑うようになり、家に帰ってくることも減っていた。
でも私は姉が帰ってきてくれるのをずっと待っていたんだ。
「お姉ちゃんはすごいね。すっごく強いんだから。」
「…アイラが戦わなくてもいいように、お姉ちゃん頑張るんだ。だからアイラは何も心配しなくてもいいんだよ?」
そう応えた姉の顔はどこか寂しそうだった気がする。
だから私も姉のように強くなって、姉を助けるんだと意気込んでいた。
誰よりも剣の腕を磨こうと鍛錬した。
齢15歳にして騎士にすら劣らない剣技を身に着けた。
どんなことが起こっても姉と私で解決できるものだと思っていた。
しかしそんな幻想はたった一つの事件で消し飛んだ。
クーゲル王国で起きた人形事件。
可愛らしい名前と裏腹に、それは悲惨な事件だった。
傀儡術という人々を操ることのできる魔術。
それで人を操り、殺させる。
吐き気のするほど下劣で、最悪な事件だ。
王都で数百人が犠牲になった。
そしてそれを解決したのは…姉だった。




