第二話 剣撃
死神騎士。
それは罪人にとって恐怖の象徴。
クーゲル騎士団の団長のみの命令に従い、ありとあらゆる悪を討つ。
クーゲル王国民ならば誰でも知っている話だ。
私は今自分がその伝説と戦っていることがにわかに信じられなかった。
「さすがは四大英傑。普通の罪人ならもう10回は死んでる頃さ。」
「逆に私はがっかりだよ。かの死神騎士がこの程度?それが本気だなんて言わないよね?」
「まさか。お喋りはここまでだ。」
死神騎士の猛攻が再開される。
彼の武器は長剣。いたって普通の剣なのだが、扱う技術が卓越しきっている。
とんでもない速度で、とんでもない威力の攻撃を絶え間なく放ってくる。
そしてそのすべてが正確に急所を突いてくる。
一発でも打ち漏らせば即死だろう。
私は二本の短剣でなんとかすべての剣撃を払いのける。
「ははっ!ここまで耐えた奴は君が初めてだよ!」
「そりゃどうも!!!」
彼の剣を左の短剣で打ち払い、右手の短剣で反撃するが躱される。
ここまで打ち合って分かったが、こいつは本物の天才だ。
全ての剣撃に微妙な角度をつけている。
そのせいで短剣が少しずつ刃こぼれしているのだ。
「ずいぶん小癪な芸を持ってるんだね。」
「それに気づいたのも君が初めてだ。」
「いい加減出し惜しみは辞めたら?このまま延々と打ち合うつもりなら付き合うけど。」
「出し惜しみしているのは君も同じだろう?それとも先に手の内をさらせって言うのかい?」
「…それもそうだね。じゃあ少しだけサービスしてあげるよ。」
そういって私は構え直し…
「魔力開放。」
その言葉がトリガーとなって私がセーブしていた力が解放される。
血のように、魔力を全身に巡らせる。
「…へぇ。これが戦姫なんて言われる所以か。」
「準備はいい?死神さん?」
「いつでもどうぞ。戦姫さん。」
彼が言葉を言い終えた瞬間に、私は一気に距離を詰める。
「…っ!」
私の短剣が彼の頬を掠めた。
魔力で全身を強化すれば人間の限界を超えた速度が出せる。
これまでの何倍もの速度で剣を操り、次々と剣撃を叩き込む。
「まさかこれほどとは!」
「本気出さないと死ぬよ。」
彼が私の首を狙った一閃を放つ。
それを姿勢を低くし回避、次の瞬間に4連撃を叩き込む。
彼はそれを何とか剣で防ぎ、距離を取った。
「やはり戦いとはこうでなくちゃ。これほどまでに楽しい戦いは初めてだよ。」
「そう。ならそろそろ終わりにしようか。もう十分楽しんだでしょ?」
私は攻撃を再開する。
彼が一撃を放つ間に私はその何倍もの剣撃を放つ。
いかに卓越した剣技を持っていようと、この速度には追い付けない。
「貰った!!!」
私の渾身の連撃が彼の剣を弾き飛ばす。
丸腰になった相手にもう脅威などない。
この勝負、勝った!
…はずだった。
「…魔力開放!」
「しまっ…!」
次の瞬間、私は一気に後方へ吹き飛ばされた。