第十六話 失敗
精霊魔術、それは人類が習得してきた魔術の中で最も困難であるとされるものだ。
精霊と契約を結び、加護を得る。
もはやこの世で扱える人間はいないと思っていたけれど、まさか実際に見ることができるとは。
「これがパンドラの実力か…。すごいな、リアは。」
精霊からの加護を得たリアは、まさに別人だ。
突進してくる暗黒竜に対し、ひるむことなく水で生成した斬撃を飛ばす。
あそこまで正確に魔力を操作していることも驚きだが、それ以上に目を引くのはその剣術だ。
その動きはまさに流麗。
回避と同時に繰り出される反撃、いかなる姿勢であっても寸分の狂いもない太刀筋。
そしてすべての攻撃が正確に暗黒竜の機能を制限する。
自身の剣を水の斬撃を絶えず繰り出し、暗黒竜の自己治癒を遅らせているのだ。
「くっそ!ほんまに硬いなあんたぁ!」
しかしそれにも限界はある。
常に渾身の一撃を出さねば、暗黒竜の治癒が間に合ってしまう。
一瞬でも猛攻を緩めれば、その時がリアの死ぬときだ。
だから私が間に合わせなければならない。
急げ、急げ、急げ急げ急げ!
リアが稼いでくれている時間を無駄にするな、アイラ!
「はぁ、はぁ、はぁ…。アイラちゃん、急いでや!」
「あとちょっと!だから踏ん張って!」
リアの顔に苦痛の表情が浮かびだす。
あの速度で動き続け、あの量の魔力を放出し続けているのだから、無理もない。
ともあれ間に合った。これで準備はできた。
あとはリアを安全圏に…あれ?
暗黒竜の角が光って…
「…あっ!リア避けて!」
その声が届くよりも先に、暗黒竜の角から雷が放たれる。
リアは避けることができるはずもなく、直撃し崩れ落ちる。
「リア!!!!!」
リアの方を見て叫んだ直後、私は失敗を悟った。
自身を縛っていた猛攻がやんだ暗黒竜が次に狙うもの。
そんなの一つに決まってる。
「しまっ…!」
すでに暗黒竜は口を大きく開け、ブレスを放とうとしている。
もう私が準備したものを使う時間はない。
しくじった。
詰みだ。




