第十二話 パンドラ
「それじゃあパンドラによろしく。くれぐれも身長いじりをしないようにね。」
そんなことを言い残してレインは去っていった。
ちなみにそれがもう2日前。
レインと別れてからは特に問題もなく、順調な旅だった。
ラント共和国はもともと平和な国であると有名だったが、実際とってものどかな場所だった。
我ながらこんないい場所に来たことがなかったなんて、もったいないもいいところだ。
クーゲル王国とラント共和国は中立国なので、英傑がわざわざ派遣されることもなかったのだ。
それなら仕方ないよね。そうだよね。
「おっきな街だなぁ…。人もたくさん。」
私はレインに言われたとおり、トリアという大きな街に来ていた。
絶賛人酔い中。
さらに迷子というダブルパンチ。
私いっつも迷子になってない?
「それにしてもパンドラかぁ。どんな人なんだろ。」
パンドラといえばラント共和国の誇る、最強の冒険者だ。
その名はクーゲル王国にも轟いていた。
すごーく簡単に言えば、共和国版の四大英傑って感じ。
実際にあったことはないけれど、狙った獲物は逃さないだの、一度目をつけられたら確実に死ぬだの、いろいろな噂なら聞いたことがある。
そのどれもが物騒な内容だったけどね。
「あ、これが冒険者ギルドかな。」
どこか分からず放浪していると、運よくギルドの前に来ることができた。
やったね私、きっと今日はいい日になるよ。
とりあえず中に入ろう。
ゲートをくぐって中に入ると…
「パンドラてめぇ!ここで死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「お前を殺して俺が最強の座に就くんだ!どきやがれ!」
「テメェら抜け駆けすんじゃねぇ!」
なにここ。地獄?
見る限りここは冒険者ギルドというより、暴漢のたまり場なんだけど。
だって筋骨隆々の男たちが武器を手に暴れてるんだもん。
帰ってもいい?
「あーもううっさいなぁ!ウチ今休憩中やろが!邪魔すんなアホ!」
可愛らしい声にそぐわないほど荒々しい言葉が飛んでいる。
やっぱここガラ悪すぎない?
あれ、なんか馬鹿にならない魔力が集まってるような…。
「流水刃!!!」
「「「ぐわああああああああああああ!!!!」」」
いきなり無数の水の刃が射出され、すべての暴漢(冒険者)が吹っ飛んだ。
この魔力出力、英傑に匹敵する。
ということは…
「ほんまに毎日毎日うっとしいねん!いい加減にせぇや!」
あれがパンドラらしい。
輝く金髪、真っ赤な瞳。レインが言っていた特徴とも一致する。
でもなんか…思っていたよりも小っちゃくてかわいい。
「はぁ~、ほんまに休日が台無しやわ。…ん?そこのお姉さん、ウチになんか用?」
「え、えーっと…まあ、用はある…かな?」
「まさかあんたもウチのこと殺しに来たとか言わんよな?そういうのはお断りやで。」
「い、いや…そういうわけじゃないよ。レイン・ヴァイスの紹介で来たんだ。」
レインの名前を聞いて彼女の表情がぱっと明るくなる。
何この子。可愛い。
「レインの紹介?そんなんはよ言ってやぁ!ウチ、リア・マキノっていうんや、よろしくな!」
「わ、私アイラ・フォード。よろしく。」
リアの勢いに押されつつ、一応自己紹介。
彼女に促されて、テーブルに着く。
周りに暴漢が伸びてるけど、この際無視してもいいよね。
「レインから友達がウチに会いに来るって聞いとったけど、まさか最近うわさの戦姫やとは思わんかったわぁ。」
「…なんかごめん。こんな罪人なのに。」
「いやいや、ええんやで!そもそもアイラちゃんが罪人なのは王国内だけや。共和国でクーゲル王国の法は適応されへんねん。」
「そんな屁理屈な…。」
「屁理屈でもなんでもええやんか。大事なのはウチがあんたを助けてあげるってことだけや。立場なんか関係あらへん。」
なるほど、さすがはかのパンドラ。
この子はその盛名にふさわしい人物だ。
さっきの戦闘、この風格、そして人格。
そのすべてがリアの格を表している。
出会って間もないけれど、この子は英雄と呼ぶに値する人物だと分かった。
「まあ難しい話は抜きにして…まずはええもん食べに行こや!」
「ふぇ?食べに行くって何を?」
「ええもん、やで!親睦深めんのには一緒にご飯食べんのが一番なんやで!」
リアに手を引かれてギルドを出る。
まあちょうどお腹すいていたし、付いて行こう。
ちなみにこの時の私は、後であんなことになるなんで全く予想もしていなかった。




