第十話 永夜
森を抜けて数時間後、私とレインはラント共和国に到着していた。
「ここがあなたの別荘?ずいぶんこじんまりとしているんだね。」
「まあね。あんまり頻繁に来れないから、大きくても仕方ないんだよ。」
レインの別荘は国境付近の丘にポツンと建っていた。
彼のことだからとんでもない豪邸なのかと思っていたけど、実際はこじんまりとした小屋だった。
中には台所とベッド、そして机といすが一組だけ。
まあ私的にはこっちの方が落ち着くね。
「それじゃあそろそろ本題に入ろうか。まずキミの質問に答えてあげよう。」
「そりゃどうも。」
椅子に座りながら私は質問を考える。
何を聞こうか。
正直聞きたいことが多すぎる。
まあ最初はこれだね。
「どうして私を助けたの?」
「ウルから報告を受けてね。アルカを消し飛ばしたのは獅子王なんだろう?それなら濡れ衣を着せられている友人を救おうと考えただけだよ。」
「そもそもなんで死神騎士と交流があるのさ…。」
「あぁ、それはウルは僕が騎士団に潜り込ませた間者だからだよ。」
しれっととんでもないこと言ってないこの人。
普通に国家反逆罪で捕まっても文句いえないよ?
まあ私を助けてる時点で罪人なんだけども。
「まあいいや。それで獅子王について何か知ってる?」
「いや、僕も彼のことはあまり詳しくなくてね。ウルに行方を探らせているけれど、あの怪物を探し出すのは困難だろうね。」
「やっぱりそうだよね。あいつは謎が多すぎる。」
「でも彼が何をしようとしているのかは分かる。おそらく永夜を再現しようとしていると思う。」
永夜、それははるか昔にこの大陸をおそった大災害。
太陽が朽ち果てたために、封印されていた魔獣が無尽蔵にあふれ出したという空前絶後の地獄だ。
この世界に住む人間ならば、小さいころから永夜の恐ろしさを教え込まれる。
「永夜はこの世を滅ぼしうるものだからね。その力を制御できればそれこそ世界征服なんて朝飯前だよ。」
「そして獅子王にはそれができるだけの能力がある…か。でもレイン、永夜の扉を開く手段なんてあるの?」
永夜の扉が開かれたのは5000年前。
そして記録によれば、永夜を引き起こす要因はすべて排除されているはずだ。
「一つだけある。」
「それ、本気で言ってるの?」
「ああ。僕の考えでは、永夜の扉を開くことができるのはキミだよ。」
「ふぇ?わ、私?」
この人おかしくなったのかな?
私はこれまで永夜なんてものに触れたこともないし、そもそも平民の出だから血筋云々も関係ないはず。
「永夜の流星、という魔術を知っているかい?」
「失われし魔術の一つでしょ?永夜を源とする魔力を利用した核魔法。一発で国が消し飛ぶっていうあの。」
「そう。永夜の流星を使えば、永夜の封印に穴をあけられる。ちょっとでも封印に綻びがあれば、獅子王は扉を開くきっかけを手にする。」
しかしそれは不可能なはず。
失われし魔術なんだから、発動する手段はとっくの昔に失われている。
今更それを見つけることなんて出来っこない。
「確かに永夜の流星は現在発動不可能だ。でも発動の原理は解明されているんだ。」
「ちなみにそれは?」
「魔力の増幅だよ。」
なんとまあこんな偶然があるのか。
この瞬間、レインがなぜ私には永夜の扉を開く力があるといったのかを理解することができた。
「なるほど。確かに私の流星なら可能だね。」
私の固有魔術、流星。
その力は魔力の収束、発散、そして…増幅だ。




