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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
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 私は産まれた時から奴隷だった。

 奴隷制度の無くなったこの国で、百年ぶりに奴隷が復活したのが戦争に負けた魔女だった。産まれてからずっと奴隷だったもので産んだ親の顔も知らない。大人の魔女の殆どは戦争に負けた後処刑されたので、私の親も死んでいるのだろうと思う。


 昔、私を育ててくれた人に人間が憎いかと聞かれたことがあった。憎いかどうか聞かれた所で、分からないというのが私の答えだった。親も観たことが無ければ愛された記憶もない。産まれた時からこうなのだから、きっとこの先も変わらない。ならば、命令された通りに動いていれば良い。そう思って生きてきたというのに。



「愛花。次は何処に行こうか。」



 戦奇様はいつも私に意見を聞いてくる。ただ命令すれば良いだけだと言うのに。



「…私は命令通りに歩くだけです。」



 当たり前の事を言っているだけなのに、悲しそうな顔をするのは辞めて欲しい。彼はどうも私に普通の子どものように接して欲しいと思っているらしいが、奴隷である私の意見を言うなんて…。産まれてこの方経験の無い事なので出来なかった。



「………分かった。伊織が近くにいれば噂になっているだろうが、何も聞かないということはいないのだろう。もう少し大きな街に行ってみようか。」



 伊織、という名前を聞いて思わず肩が跳ね上がった。


 伊織様、伊織様、伊織様…。


 美しい黒髪がたなびく様子が思い起こされる。彼女に名前を呼ばれるだけで世界の全てがどうでも良くなったあの頃を思い出す。



「伊織様…。」



 ポツリと呟いた。戦奇様は仕方ないと微笑んだ。



「お前は本当に…。」



 その続きは聞こえない。どうせ戦奇様のいつもの意地悪だ。彼は優しいが奴隷には過ぎた感情を求めるきらいがある。



「それじゃあ領主の所へ行ってみようか。」



 そう言ってアフヤドに飛び乗った戦奇様は、西の方向へと進んど行く。私もそれについて行った。この街に辿り着くまで3日は掛かった。次の街に着くにはどれだけ掛かるだろう。道のりを思えば溜息も吐きたくなるが、この旅は私にとっても必要なものなのだから黙って歩くより他はない。



「お前も後ろに乗れば良いのに。」


「身に余るご提案ですが、そんなことをしたら不敬罪で死刑です。」


「…王になったらまずそのふざけた法律から変えよう。」



 本気でそう考えていそうな声音に苦笑が浮かぶ。この人が王になったらどうなるのか、見てみたくもあった。



「そういう事は序列一位になってから言いましょうね。」



 届かない順位ではないとは言え、一位の方と戦奇様とでは歴然の差がある。



「伊織に勝たないとだな。かなり難しいが。」


「…………そうですね…。」



 戦奇様は強い。人間の中ではトップレベルだろうと思う。しかし伊織様はその戦奇様を遥かに上回るのだ。


 現在序列一位である伊織様。彼女は戦奇様のお父様…現国王陛下の亡くなられた兄君…先代国王陛下のご息女で、戦奇様とは従兄弟の関係である。そして私の元主人でもある。戦奇様は伊織様に捨てられた私を拾ってくださった。奴隷は主人が死んだり主人に捨てられたりすると枷に付けられたトリスメラ鉱石の効果で一週間ほどで死に至る。彼はそこから救ってくれた命の恩人だ。それでも私は…伊織様という輝かしいまでの存在を忘れることが出来なかった。また会いたい、彼女に仕えたいと大それた願望を抱いてしまう。


 普通の主人ならば怒り、私のことを罰するだろう。しかし、戦奇様はそれはしない。自分が王になる為には伊織様と戦わなければならないからお互い様なのだと伊織様を忘れられない私を叱らずに、新しい主人となり共に旅をしてくれる。


 こんなに魔女にも優しい人間は戦奇様以外に私は知らない。大抵の人間は奴隷を道具程度にしか思っていないというのに信じられないくらい優しいこの人は、望んではいけない望みを持つ私を処分せずに側に置いてくれていた。この人が王になれば何か変わるのかも知れないと思う反面、優しすぎるこの人が傷付かないだろうかとも思う。そして何よりも…かつての私が望んだように伊織様が王になる未来も見てみたいと思ってしまう私は奴隷としては失格だろう。



「暗い顔をするな。俺が勝ったらお前を伊織の元に戻してやるから。それまでは俺で我慢してくれ。」



 そう言って微笑む彼に私は何の言葉も返す事が出来なかった。







読んで頂きありがとうございます!

明日も18時過ぎに更新します。


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