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ガタガタと馬車が揺れる。少年は窓の外を見詰めた。自分の生まれ故郷を誇りに思っていた少年にとって、王都は余りにも豊か過ぎた。花の匂いに噎せそうになって、一層の事故郷が恋しくなる。
「お母様…。」
まだ幼い少年には、母と離れて長い旅路を行くのが耐え難い苦しみだった。拳をギュッと握ると思わず唇にも力が入ってしまう。泣くな。これから僕は領主になるのだから…そう自分自身を奮い立たせようとするも涙が滲む。
本来ならば自分では無い誰か…大人が此処にいる筈だった。自分は母とメイド達に甘やかされていればそれで良かったというのに。
だけれど、今回必ず王都に来るようにと王様から手紙が届いたのだという。落ち着かない領地を母が離れるわけにはいかず、王都には自分が来ることになってしまったのだ。
「ミヤ、ミヤ、ミヤ…。お母様の所へ帰りたいよぅ。」
我儘を言ってこの旅路に付いてきて貰った、幼い頃から自分の面倒を見てくれていた姉やであるミヤは困ったように眉を下げて、ハンカチを少年の目元へ当てた。
「お坊ちゃま、そう仰らずに。お母様はお坊ちゃまが必ずこの大事を成し遂げると信じているのですから。」
「そんな事、僕には無理だよぉ。」
「お坊ちゃま…。」
泣き崩れる少年にミヤは眉を下げた。それもこれも、全て『あの魔女』が悪いのだ。ミヤの心中は穏やかでは無かった。幼い頃から弟のように見守ってきたこの少年。いずれかは重責を担う立場だとは分かってはいたが、これでは余りにも早すぎる。
着慣れない正装を身に纏って涙を流す少年は、いつもの彼よりうんと幼く見えた。
お労しいお坊ちゃま…。ミヤは少年を抱き締める。彼の事は必ず自分が守らなくては。11区には化け物が沢山巣食っていると聞いている。魔女なんかを重用する制度を作った王を含め、腹黒い貴族達…誰も信じる事は出来ない。
1週間も続くパーティーが終わるまでの間、ミヤだけが少年を守れるのだ。少年の母君は、混乱する領地を出ることが出来ず、同行も叶わなかった。また、本来ならば相応にいる筈の護衛の兵の数ですら、少年のような大貴族には相応しくない程の数しか集めることが出来なかった。信頼出来ない者を唯一の後継者となった少年の側に置くことが出来ないからだ。
「ミヤ…早く家に帰りたいね。」
「そうでございますね。」
頼りない少年の言葉に、ミヤは頷く事しか出来なかった。本当に自分に守れるのかと、途方も無い気持ちになるのを抑えて…。
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