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此処では奴隷の服を干して良い場所というのは決まっている。
洗濯が終わり、替えの肌着を身に付ける。今よりも小さな頃に使っていた物なのでサイズはちょうど良いとは言えないがこれしか持っていないので贅沢も言えない。
まさか肌着で王宮内を歩くわけにはいかないので窓からそっと飛び出して空中から奴隷の物干し竿を見つけた。かなり年季の入った物で、王宮で昔使っていた物を引っ張り出したのか、それともその辺りに有ったものを適当に拾ったのか、今にも崩れそうな古い木の棒が申し訳程度に掛けられたそこは、場所としても日当たりが良いとは言えない。歩いていけば王宮からかなり離れた場所にあり、人目にも付きにくい場所になっている。
空が飛べない王宮暮らしの奴隷にとっては毎日の洗濯が苦痛だろう。
呑気にそんな事を考えていると、以前に感じた事のある魔力が三つ近付いてきた。
思わず構えるが、ケラケラと笑う女達のその声に呆気に取られてしまう。
「あら、こんな所に汚らわしい野鼠がいますわ。」
「フレア姉さん、とっとと掃除しようよ。」
「…。」
突然現れた炎のように赤い髪の顔のよく似た三人の女のうちの一人が小さく手を挙げるとビュンッと炎の塊が私の頭上を通り過ぎていった。
「サリエン・フレア、ケル・フロス、リエナ・アス…。皆様お元気そうで何よりです。」
「愛花…相変わらず可愛気のないガキ。」
ケル・フロスが吐き捨てるように言った。彼女達三人は姉妹で、サリエン・フレアとケル・フロスは双子の姉妹、リエナ・アスは二人より三つ歳の離れた妹。三人共この国の王子…戦奇様の兄君達に仕える奴隷だ。
三人は…というよりもこの双子は以前から私を毛嫌いしている。理由は学園時代にあると彼女らは言うのだが…学園時代に彼女達がいたのかすら覚えていない。
「大体、『色無し』の癖に、私達と同じ王族に仕えるなんて生意気なのよっ!」
今度はサリエン・フロスの方が魔法を放って来るけれど、またしても私の横を大きく逸れ、遥か後ろで爆発して消えた。
「炎の魔女は情熱的な方が多いと言いますが、本当にそうなのですね。歓迎の花火を上げてくださるなんて。」
「むかつく!何で当たらないの!」
何でも何も…と言おうとして止めた。これを言ったらますます怒らせそうだ。
「愛花…久し振り。」
ギャーギャー言う姉達を背後に、一歩前に出た末の妹…リエナ・アスが手を差し伸ばしてきたので握手をする。ふわふわとした髪を下ろして花の形の髪飾りを付けた彼女は、やたらと露出の多い衣装も相まって、神話の中の花の女神のようだった。上二人も美人なのだが、気性の激しさが顔に出ており女神というより戦神のようだ。こんな事言ったらまた怒られると思うけれど。
「リエナ・アス、お久し振りです。物干し竿、お借りしてます。」
「別に…私達のでは無いのだから使って良いの。それより学園の同期に会えて嬉しい。」
「同期と言っても、貴女の方が年上ですし、私は2年程しか学園には居ませんでしたが。」
その言葉に、リエナ・アスは首を振った。
「貴女は色んな意味で印象的な魔女だったから在校時には関わりを持てなかったけれど今こうして話せているのが嬉しいの。そういえば、貴女が私達の同胞のミナ・フロスを貴女が助けてくれたと聞いたの。あの子は薬作りは得意だけどそれ以外はからっきしなのに良くない主人に付いて心配だったから…本当にありがとう。」
「ミナ・フロス…?」
ミナ・フロス…優しい小火?誰だ?炎の魔女達は同じ系統の魔女を同胞と呼んで大切にする。そんな彼女が言うのならばきっと炎の魔女のうちの誰かなのだろうけれど…私、人助けなんてしたっけ。
「アス!そんなのと仲良くしないで!!」
私がミナ・フロスとは誰だったかを考えているうちに、リエナ・アスは双子に両脇を抱えられ引き摺られて行った。
「愛花〜!また後で!」
そう言って手を振る彼女に小さく手を振り返す。…そういえば、あの人達何しに来たの?少し考えても分からないので、取り敢えず服が乾くまで本でも読もうとシルヴィアから貰った本を開くのだった。
三姉妹の名前の意味
サリエン・フレア…聖めの炎
ケル・フロス…解き放たれた炎
リエナ・アス…穢れを祓う火
サリエン・フレアとケル・フロスは二卵性双生児なので愛花にはぱっと見の見分けは付いてません。双子でも魔力の使い方が違うから魔法を使えばどっちだか分かるらしいです。
今回も読んで頂きありがとうございます。
次回もなるべく早く更新出来るように頑張ります。




