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少し休憩してからは、明日のパーティーの為の準備に大忙しだった。仕立て屋を呼んで戦奇様の衣装の手直しをしたり、パートナーとなるご令嬢の手配をしなければならない。こんな直近でパートナーが決まっていない、戦奇様と釣り合う身分のご令嬢なんているわけが無いというのに…!
戦奇様に急いで手紙を書いてもらっては城に仕えるメイドにお願いをして仕立て屋とご令嬢に連絡を取って貰う。
「別にある物を着れば良いだろうに。パートナーは別に要らないし。」
私は首をブンブンと振って彼の言葉を否定する。
「戦奇様…こればかりは駄目です。私達奴隷は主人の品位を守るのも務めだと言われています。戦奇様は去年よりも5センチ背が伸びています。本当は仕立て直しじゃなくて新しく仕立てても良いところなんです。それに、成人した王族がパートナーもいないままパーティーに出席するなんて。」
絶対に駄目だと念を押すと彼は眉を下げて両手を挙げる。
「分かった分かった。お前の好きにすれば良い。メイド達が言う事を聞かないなら俺の名前を出せば良いから。…しかし、『学園』というのはそんな事までお前達に教えるのか?」
「私達奴隷の売り手は殆どが高位貴族ですから、宮中の作法は必須科目になってます。」
お前達も大変だな…と戦奇様が呆れたように言うのを聞きながら私は忙しなく動き回る。
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翌日
「何とか間に合いました…。」
手直しされた衣装を戦奇様に着せてほっと息を吐く。疲れたような面持ちの戦奇様だが、こうして見ると大国の王族に相応しい出で立ちをしている。彼はどこかまだ若い面差しを残しながらも、静かな威厳を身に宿して立っていた。
漆黒のビロードで仕立てられた外套は、彼の細身の体を包み、深い影の中から細かい金糸の刺繍がほのかに浮かび上がる。胸元に輝く金の勲章と、左胸には黒い鷹と銀の月桂樹そしてその上に輝く金色の太陽の刺繍が、王家の血を引く者としての誇りを静かに主張し、肩に掛かる黒い毛皮は王族としての重責を表しているかのようで重々しい。
高く立つ襟の隙間からのぞく白いレースは、厳めしい黒の中でひとひらの光のように揺れ、若き王族特有の繊細な気品をそっと強調していた。彼はドサリとカウチに倒れ込み、右手に携えた儀礼剣を落ち着か無さげにカチカチと出しては入れ、出しては入れを繰り返している。
「戦奇様、パートナーの茉莉子姫をお迎えに行かなくてはなりません。」
「茉莉子か…。何考えているのか分からなくて苦手だ。」
茉莉子姫は戦奇様より三つ年下の従姉妹姫だ。現国王の弟君であるガストレア公爵の末の姫君で、伊織様の異母妹に当たる。とっくにデビュタントが終わっていた彼女のパートナーが見つかっていなかった理由は、彼女が病弱で直前までパーティーへの出席を見送っていたからだ。
「苦手も何も結婚もしてない身分の合った姫のうちまだパートナーを決めていなかったのは茉莉子姫だけなのですから諦めて下さい。」
「分かってる。ちゃんと行く。だからそんな顔をするな。」
そんな顔とはどんな顔だろうか。自分の顔を触って確かめてみるもいつもと変わらないようでそのまま首を傾げた。
「馬車の準備も出来たようなので早く出てください。」
そんな事よりも急いで欲しいと戦奇様を見送って、ほっと一息吐く。慣れないことをすると疲れてしまう。これなら旅暮らしの方がはるかに楽だ。王宮暮らしの奴隷はさぞかし大変だろうと思う。
「さて、やる事もありませんし…制服の洗濯でもしますか。」
しいんとした部屋に独り言が少し寂しく部屋に響いたが、首を振って盥を取りに行くのだった。




