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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
二章 三人の魔女
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2




 花の香がする…。ふわりとした風に乗ってやってきた陽気な空気は、私の故郷のものだ。


 11区は相変わらず常春のような気候の土地だった。長く現王朝からの侵略を退け、その独立を守ってきたのは豊かな土地があったからこそのものだ。

 花々が咲き乱れ、川があちこちで流れている。普段は畑を耕す農民も、いざとなれば勇猛果敢に戦う戦士となる。この土地を治めていた一族は、そんな民を愛し慈しんでいた。それも百年程前に今の王朝との戦に負け、かつての都は様々な人種の行き交う、稀に見る大都市となった。


 たった百年…されど百年だ。かつて国を奪われ現王朝を恨む人々は尽く粛清され、この土地を治めていた一族も一人残らず処刑された。


 現王朝は同じ頃に魔女との戦も始めていたのだから呆れたものだが、しかし結果的に11区は今の形となり、魔女は奴隷となった。

 王城の門の前に降り立ち、肩で息をした。戦奇様の食事と睡眠の時間以外、三日間飛び続け流石に疲れた。

 城の中は変わらず雑然としている。かつての王宮は壊され新しく建てられたそれは、百年の歴史を感じさせない程真新しく見えた。




「あら、戦奇様。まだその野鼠のような子どもを召し抱えていらっしゃるのですか?」



 クスクス笑いを浮かべた女が私を蔑むように見て視線を逸らした。豊満な身体には宝石の散りばめられた豪華なドレス。緩くウェーブを描く綺麗なプラチナブロンドの髪に冷たい印象の顔の女は、戦奇様のお知り合いだ。何処かの貴族の令嬢だと言っていた気がするが覚えていない。



「おや、カストレイ嬢。久し振りだな。相変わらず大輪の百合のような美しさだ。」



 ご令嬢の言葉には反応せず優雅に挨拶をする戦奇様に呆れる。この人は王族らしい顔と、そうでない顔を使い分けるのが非常に上手いのだ。令嬢の手を取って甲にキスをすれば、冷たい表情の令嬢も頬を赤らめた。



「ま、まあ…。戦奇様ったら。」



 うっとりとした令嬢の脇をそれでは失礼と颯爽と摺り抜け、私に付いてくるようにと合図をした。令嬢の方をちらりと見るが彼女はもう私には興味の無いようで、何も言われる事無く通る事が出来た。


 戦奇様の部屋はメイド達が掃除しているのか綺麗だ。品の良い調度品が数点並ぶその部屋は、先日泊まったオルディアス侯爵の城の部屋とは比べ物にならない程高価な物が置かれている。あそこに置いてある小さな猫の置物でさえ、田舎に城が建つくらいの値段がするのだ。

 部屋に入るなり上着を脱ぎ、カウチに倒れ込むようにして横になった主人に先程までの王子様のような戦奇様は何処に行ったのだろうと苦笑いが浮かんだ。



「戦奇様、長旅お疲れ様です。」


「あぁ。」



 ひらひらと戦奇様が手を振った。少し眠るので退いていろということだろう。この城では矢張り私の泊まる場所は無い。けれど戦奇様の居室は広く数部屋あるので、そのうちの一角を使って良いと言われていた。


 私は自分に貸し与えられた部屋に入ると速攻で服を脱いでお風呂へと向かった。戦奇様の部屋の多くには独立した風呂場があって、此処にいる間は使って良いと言われていた。久し振りに体を洗える。温かいお湯が肌の上を滑る感覚に思わず笑みが浮かんだ。頭からお湯を被れば汗と脂の臭いがして顔を顰め、流石に何ヶ月もお風呂に入れないのはきついなあと思うが、奴隷に風呂を貸してくれる場所なんて限られているのだから仕方ない。4区はもう旅をし尽くしたので、今度は水の豊かな土地に行きたいけれど…。伊織様を追っている為、彼女が何処に行くか読めない以上、望みは薄い。そんな事を考えながら石鹸で体を何度も洗う。洗う度に新しい身体に生まれ変わっていくような思いがした。

 ちゃぽんと音を立てて湯船に浸かる。日頃酷使している脚がジクジクと痛んだ。じんわりと暖まってきて、頭がぼんやりとしてくる。

 伊織様は今頃何をしているんだろうか…。そこまで考えて、ふっと湯船から立ち上がり、肌着に袖を通して走って戦奇様の元へと向かう。



「戦奇様…!」


「何だ?!どうしたっ?!お前…服くらいちゃんと着ろ!!」



 いきなり部屋に飛び込んできた私に向かって戦奇様は目を白黒させると、肌着だけで出てきた私を叱った。



「そんな事は今どうでも良いです!伊織様は…?!建国パーティーなら伊織様もいらっしゃいますか?」


「伊織…?招待状は届いているだろうがどうだろう。王族とは言え直系では無いし、女だし、俺のように父上から強制される訳では無いからな。あいつは。そもそも気分屋だから強制されたって来ないかも知れない。」


「そんな…。」



 その返答を聞いて肩の力が抜けた。久し振りに伊織様に会えると思ったのに…。でも確かに私の知る彼女はパーティーは好きだが王侯貴族の集まりは余り好まない性分だった。



『嫌よ面倒臭い。そんなものは生真面目な戦奇や目立ちたがりの馬鹿共にでも任せておけば良いのよ!』



 そう言っている伊織様が頭の中で高笑いをするので、思わずため息が出てしまった。



「そう気落ちするな。伊織は必ず探してやるから。」



 苦笑いを浮かべる戦奇様に申し訳無くなるも、小さく頷いたのだった。




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