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シルヴィアの事件から一月経った。4区はあの後、国王軍によって鎮められ、オルディアス侯爵の殺害に加担した人々は捕らえられ処刑されたという。
シルヴィアは新聞に人々を惑わした悪い魔女と書かれ、国内の民衆の魔女に対する差別に拍車が掛かった。
「愛花?話を聞いているのか?」
新聞に目を通していた私は、戦奇様の言葉に顔を上げる。眉間に皺を寄せた彼に慌てて謝罪する。
「申し訳ありません。戦奇様。どうか私に罰を与えてください。」
彼の足元に蹲ると戦奇様の溜息が聞こえた。完全に怒らせてしまった。どう謝罪すれば許してもらえるだろうか。
「お前は俺に罪悪感を与える天才か?今すぐ立たないとシルヴィアの遺体の場所を父上に知らせるぞ。」
渋々立ち上がる私に、戦奇様はまた溜息を吐いた。思わず自分の足元を見詰める。
「シルヴィアの遺体は…また国王陛下に見つかってないのですか?」
魔女の遺体は勝手に触ってはいけない事になっている。魔女狩りをしていた時代に、魔女の死体を永遠に生きれる薬だと売る輩がいて、それを飲んだ人間から疫病が広まったことがあるというのだ。だから、シルヴィアの身体は埋葬せずにそのままにして置くしか無かったのだ。彼女の遺体が国王軍に渡れば、首を切り落とされ晒されるだろう。戦奇様はまだシルヴィアの遺体の場所を国王陛下には知らせてはいないようだった。
「ああ。俺が言わなければあの娘の遺体はそのままあそこで朽ちるだろう。」
その言葉にほっと息を吐く。人々が彼女を最後に見たのはマリクハルだ。国王陛下はシルヴィアが生きていると思いマリクハル周辺の地域を探させているが、彼女の遺体はオアシスの中の小さな…名も無い村にある。見つかる筈も無かった。
「安心したか?」
「はい。シルヴィアがオルディアス侯爵にした事は許される事ではありませんが…彼女なりの正義があってやった事ですから。首を晒されるのは余りにも…。」
無情だと言おうとして息を呑み込んだ。この人といると自分の立場を忘れてしまいそうになる事があるが、その言葉は余りにも危険だ。国家への批判と見做されて処刑されてしまうかも知れない。
戦奇様の紅い瞳が薄く光ったような気がしたが、気の所為だったのかも知れない。次の瞬間にはいつもの戦奇様だった。
「…愛花。父上から戻ってこいと指令が出ている。」
「えっ…?」
「建国パーティーに参加せよとの仰せだ。期限は4日後。」
思わず目を見開いて戦奇様を見る。この人は何て事の無いように言うけれど、王宮から此処まで歩けば、どんなに急いでも一ヶ月は掛かる。飛んで行ったとしても戦奇様とアフヤドを連れて行くとしたらギリギリだ。
「どうしてもっと早く言ってくれないんですか!!」
慌てて宿を出る準備を始める私に、戦奇様は何て事の無いように微笑んで言った。
「宜しく。」
優雅に紅茶を飲み始めた彼の脱ぎ散らかした服を鞄に詰め込みながら、溜息を吐くのだった。
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