3
読んで頂けて感謝感謝です!明日もまた18時過ぎ頃に更新予定になります。
気が向いたらまたお立ち寄り頂ければ幸いです。
「…愛花か。久し振りだな。」
元々いた3区から11区まで一気に空を飛んで移動する。この国は11の区画に分かれており、1区の大きさはそれぞれ違うが小さな国ほどの大きさがある。
3区と11区は隣合う地域だ。余り遠いと魔力が切れてしまうし時間がかなり掛かる。近くて助かった。
「お久し振りです。サリスマン教授。」
戦奇様が『あの人』と言ったのはこのサリスマン教授のことである。教授は魔女についての研究の第一人者であり、魔女を差別しない珍しい人でもあった。袖が何かの薬品で汚れた白衣を来て、ゆるい癖のある髪を無造作に伸ばした彼は、私と私に抱えられている女を交互に見つめた。
「また、戦奇が誰かを殺したのかい?……可哀想に。こんなに弱って。」
女をベッドに置くようにと指示され、その通りに動く。教授が緑色の液体の入った注射器を彼女に刺すと、少し痛みが和らいだのが女は蹲りながらも深く呼吸をし始めた。
「赤髪…炎の魔女かい?」
「恐らくは。ただ、余り戦闘向きでは無いようです。どちらかと言えば薬草の扱いの方が得意かと。」
彼女の余りにも戦い慣れていない様子と、呪いが得意な魔女特有の陰湿さも無いことから薬草を扱う魔女なのではないかと推測する。
「ほぅ…それはそれは是非とも私の助手に欲しいものだが…。」
「教授にはもう奴隷がいらっしゃるではないですか。…そう言えば、あの子は今どこに?」
「あぁ、そういえば二、三日見てないね。どこに行ったのやら。」
サリスマン教授が何かを書きながら言った。彼にも奴隷がいるのだが、彼女はかなり自由人で中々会うことが出来ない。奴隷が自由に動くことを許している教授も教授でかなり珍しいが、許されるからと言って自由に動ける彼女も珍しい。私達は幼い頃から人に従うように躾けられている。命令されて動くことが板についているため自由に動こうと思っても難しい。
「まあ、兎に角この子は僕が預かるよ。新しい主人も責任を持って見つける。」
「ありがとうございます。」
教授の紹介ならば悪いようにはならない筈だ。元の主人に仕えているより良かったのかも知れない。
「全く国王陛下も奴隷同士を戦わせて序列を競えなんて馬鹿な命令を下されたものだ。そのお陰で君の主人は一体何人の王位継承者を殺したんだい?」
「さあ。何人でしょう。」
数年前、国王陛下が突如酒の席でこんな事を言った。
『奴隷もただ持っているだけでは詰まらんだろう。…そうだ、戦わせて勝った者に王位を継がせようではたいか。』
酒の席での冗談だと思われたその言葉を、言った本人はしっかりと覚えていたようで次の日には私達魔女にとって恐ろしい命令が下される。
『全ての王位継承者よ。奴隷を使い、戦い、勝ちなさい。私が死ぬ時に序列1位の地位にある者に王位を継承しよう』
国王陛下が全ての王位継承者と言った事で、今まで王位継承争いに参加していなかった者までもが対象となり、数百人の王位継承権を持つ王族や貴族がこぞって強い奴隷を買い求めた。しかし奴隷の数が足りず戦いに参加出来ていない者もいるが…そういった者はどれだけ元の継承権の順位が高くても継承することが出来なくなってしまった。逆に言えば、どれだけ今の王家と遠縁であろうと、序列争いに勝てば王位継承のチャンスが回ってくる。王位継承者は皆より上位の序列の者と戦い勝つことで自分の序列を上げていくようになった。
そして戦いに使われるのは奴隷である魔女だ。同士討ちのようなことをさせられ、傷付き二度と戦えなくなった魔女も少なくない。私達とて戦いたくて戦うわけでは無いので、お互い殺さないようには気を付けて戦うが、それでも亡くなってしまう魔女もいた。
奴隷となった魔女は元々道具のような扱いを受けてきた。今更、争いの道具となったところで仕方ないと諦める魔女が多かった。けれど、魔女にはそれぞれ得手不得手がある。戦闘向きの魔法が使える魔女は戦争で大きく数を減らし、戦闘向きではない魔女も多い。同じ魔女でも大きく戦闘能力に差があった。
王位継承者達が目を付けたのはトリスメラ鉱の作用だった。主人を殺せば戦闘能力に差があろうと勝つことが出来る。魔女には人間を殺すことはおろか、攻撃することも出来ないので、主人は主人同士で殺し合いをすることが増えてしまった。この争いで人を殺しても罪に問わないと国王のお達しもあり、その傾向は加速している。
戦奇様は元々現国王の第4王子であり、現在序列2位。別に王位継承にも勝つことにもそこまで拘りはないが、彼自身の戦闘能力の高さと私が戦闘向きの奴隷であることから序列は高い。元より王子としてそれなりに知名度があったこともあり、矢鱈と狙われるようになってしまった。しかし自分を殺そうとしてくる相手に容赦していては、何度も狙われて面倒だ。ということで襲ってきた相手を殺すことに彼は躊躇いも無い。
「……愛花、戦奇にやり過ぎないように伝えておいてくれ。」
教授に言われて、曖昧に頷く。戦奇様が私のような奴隷風情の言うことを聞くわけが無いが主人が大量殺人鬼になるのを喜ばしいと思っているわけではない。出来るだけやり過ぎないようにはしようと思っていた。




