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話し終えたシルヴィアの口から血が溢れ出た。やっぱり先程の魔法だけでは傷口は塞がっても内臓のダメージまでは回復出来なかったのだ。
「メアリーも母さんも父さんも…皆私を憎んでいる筈だわ。だからこそ、先祖の愛した国を取り戻して贖罪をしようと思ったの。」
「シルヴィア…もう話さない方が…。」
私が止めても彼女は頭を振った。何かに突き動かされるように話し続ける彼女を、私は留めることが出来なかった。
「…私のせいで死んでしまった愛しい人達。そして私がオルディアス侯爵の命令に逆らえずに殺してしまった哀れな魔女達…そして諌めて守らなければならなかったのに殺してしまったオルディアス侯爵…皆私を恨んでいるわ。私はきっと地獄に落ちるの。」
弱々しく微笑むシルヴィアは、そっとメアリーさんの墓を撫でた。
「シルヴィア…誰も貴女を憎んでなんていません。」
「そんな筈無いわ。貴女には分からないのね…。あそこの家に住んでいるのはメアリーの家族よ。あの人達は元々魔女に近しい人達だったというのに、娘を失ったショックでもう長い事心を病んでしまって、魔女を憎むようになってしまったの。」
シルヴィアの魔力がまた弱くなった。このままではいけない。シルヴィアを誤解させたまま死なせてはいけない。
「シルヴィア…貴女は沢山の人に愛されていたんです。……その証拠を貴女に見せましょう。」
私は普段余り使わない杖を取り出した。大きな水晶の付いたそれは、他の魔女が使う杖よりもずっと長くて使い勝手も悪い。私が魔力操作が苦手なのもこの杖のせいだった。
「愛花…何を…。」
『ルミナ・アナ・トゥール
ナイ=ルア、セリアム・フロアリエ
ウナ・ミリア・ソラ=エル
サラトゥエ・ルナシエラ
リュナ=ミナ・サルーアム。』
眩いばかりの光が私を包む。光の一つ一つに優しく呼び掛けるように詠唱すれば、光が集まってぼんやりとした人の形を成した。
「そんな…。まさか…。」
シルヴィアが呆然と呟く。大きな目が更に見開かれ、瞼が小さく震えていた。
「こんな…ことが…。」
「私からしてみれば、貴女の眠りの魔法も有り得ない魔法でしたよ。」
通常、魔女は自然の力を借り魔法を行使したり薬を作り、人の気持ちを利用して呪いを掛けたりする。それは何かしらの媒体が必要になるもので、人を害するにしても間接的なものになる。相手に直接働き掛ける魔法は使用者が限られ、眠りの魔法はシルヴィアの一族にしか扱うことが出来ない特別なものだ。大抵の毒や薬が効きにくい私でさえ、彼女の魔法に抗うことは出来なかった。眠りの魔法を使う一族がいると本で読んだ事はあっても実際に見るのは始めてだったのでまさかシルヴィアがその使い手であるとは思いもしなかった。二度も眠らされてしまったのは流石に油断しすぎたと思っている。
トンッと杖を鳴らせば、ぼんやりとした人の形に薄っすらと顔が浮かぶ。シルヴィアによく似た女と、シルヴィアと同じ瞳の色をした男、そしてそばかすの浮いた小さな少女がシルヴィアを心配そうに見詰めていた。
「母さん、父さん、メアリー……そんな……操魂術の使用者は何千年も前に絶滅した筈じゃ…?」
「眠りの魔法が貴女の血に受け継がれたものならば、これは私の血に受け継がれたものなのでしょう。私は母も父も知らないで育ちましたが気が付けばこの魔法を身に付けていました。」
魔法だけでなく、杖も生まれた時から側にあったという。私を育てた『彼』…じょーし曰く、赤ん坊の私と一緒に渡された物だとのこと。きっと誰かから引き継いだ物なのだろう。操魂術に特化してしまっている杖のお陰で、私は魔力操作が苦手なままできてしまったのだが。今はそんな事はどうでも良い。
『シル…。』
『やっと話せた。』
『私達は貴女を憎いと思ったことなんて一度も無いよ。馬鹿なシルヴァ。』
彼女達が何かを話す度に私の魔力がごっそりと削られていく。それでもまだ魔法を解くわけにはいかないと、彼等に魔力を送り続ける。




