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「ここで降ろして。」
シルヴィアを抱えたままゆっくり降りたその場所は、小さなオアシスの中の村だった。子ども達が水辺で遊んでいるのが見える。
「ここは?」
シルヴィアがよたよたと歩くのを支える。私よりも背の高い彼女を支えるのは難しい。足を引きずるようにして何とか一歩一歩進む彼女の行きたい所へ行かせて上げようと必死に支えた。
オアシスから少し離れた場所に見逃してしまいそうな程に小さな墓があった。側には小さな小屋がある。誰かが住んでいるのだろう、女の声と男の声が聞こえた。こちらに気が付いているようだが出てくる気はないようで隙間からこちらを伺っている。
「メアリー…。」
シルヴィアが小さく呟いた。メアリーというのは誰だろうか。
「ごめんね。…ごめんなさい。」
墓に縋って泣く彼女の背中を擦る。風が冷たくなってきた頃、暫く泣いていた彼女が顔を上げる。
「ここは私の友達の墓なの。私の代わりに殺されてしまった可哀想なメアリー。」
さあっと風が通り過ぎ砂が舞う。私は何も言えなかった。経験してないことで、何と声を掛ければ良いのかも分からないからだ。
「魔女みたいな名前だからって、ここの村人に捕まって…。そこの木に吊るされてしまったの。…小さな頃から姉妹のように育ったのよ。私は少し夢見がちな女の子で、彼女はそんな私に姉のように接してくれたわ。」
シルヴィアがそっと墓を撫でた。何かを懐かしむような顔をしている。
「私は…そんな彼女を見捨てて家族と逃げてしまったの。それでも母も父も捕まって妹と私を残して処刑されてしまったわ。…父はね、人間だったのよ。」
「人間?」
聞き返すと彼女は苦笑いする。私は男の魔女を知っていた。魔女というから女だけだと思っていたが、学園には三人男の魔女がいたし、もう一人…シルヴィアと同年齢くらいの男の魔女を私は知っていた。だからこそ魔女はそういった男の魔女との間に出来るものだと思っていたのに。
「珍しい話ではないわ。男の魔女はいなくはないけれど、少ないもの。かつて多くの魔女は子どもを産むのに行きずりの男と関係を持ったものよ。…人間との間に産まれる子は殆どが女の子で魔女になるのだけれど、たまに男の子も産まれるのよね。男の子は人間になるのよ。知っていた?…父は母が行きずりの関係に選んだ人間だったの。けれど、二人は愛し合って家庭を築いたのよ。………父はね魔女に洗脳された人間として処刑されてしまったわ。」
人間だったのにね、とポツリと言った彼女の瞳は悲しみに溢れていた。
「…良いお父様だったのですね。」
私がそう言えばふっと笑って、
「ええ、とても。」と返した。
そしてシルヴィアが静かに語り出す…。




