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引き止める戦奇様を振り払い、私は空を駆けた。城に向かったシルヴィアを追い掛ける。今の彼女はトリスメラ鉱の効果で弱っている。すぐに見つかる筈だと思いきや、彼女自身の魔力がかなり弱っているのかなかなか見つける事は出来なかった。城の中を走るのは私だけ。不自然なくらいに物音がしない。
騒いでいた使用人達もとっくに逃げ出したようで、ガランとした城の中を只管に走る。カツンカツンと石の上を走る音だけが響いた。
「シルヴィア!シルヴィア!」
シルヴィアに呼びかけるも答える声はない。途中、血の匂いがして慌ててそちらに向かえば、無残にも殺された女性数人と若い男がいた。年齢からしてオルディアス侯爵の妻と息子と嫁達だろう。人とは惨い事をするものだ。その中にシルヴィアはいないかと探すもいないようで少し安心する。亡くなった人達に手を合わせてその場を立ち去ると、また城の中を走る。
こんなに探してもいないなんて、もしかしたら城の中にはいないのかも知れない。窓から飛び降りると、中庭を飛んで探す。低空を飛行して必死に探していると、殺気を感じた。亜空間から白い刀を出して飛んできたナイフを弾き飛ばす。ちらりと見えたナイフの意匠は、国王軍で支給される物だ。
「じょーし?」
思わず呟くが、周囲には見た限り誰もいない。『彼』がいるのは知っていたが…まだこんな幼稚な事をするなんて。出てこないという事は会うつもりは無いのだろう。ナイフは挨拶みたいなものだ。あの人は私が子どもの頃からいつもそうだった。
だけど…あの人が此処にいるという事は、もう手遅れかもしれない。国王陛下に忠実なあの人は、国にとって害があると判断されればどんな命令にだって従う。
シルヴィアはアカシアの木の下で横たわっていた。腹部からは血が流れ出ているが、まだ生きていた。
「いた!」
うっすらと瞳を開けたシルヴィアと目が合う。
「あい…か?」
弱々しい声だ。当然だ。トリスメラ鉱は光りっぱなしだし、これだけ血が出ている。いくら魔女が少し丈夫だって生きているのが不思議なくらいだ。
やっぱり…。あの人はシルヴィアを見逃してはくれなかったか。悲しいけれど怒りは湧いてこなかった。悲しい…?私が?
今まで沢山の人の死を見てきた。私が手にかけたことだってある。なのに、シルヴィアが死ぬのは悲しいなんて、私はなんて身勝手なのだろう。
「あい…か、あな、た、回復魔法…つか、える?」
「使えますが、今は魔力を制限されているので精々、数時間程度の延命しか出来ません。」
「それ、で、も、いい。こ、こで、し、にたく、な、い。」
シルヴィアの言葉に頷いて手を翳す。シルヴィアの顔色が少し良くなる。
「愛花、飛行魔法で連れて行って欲しいところがあるの。」
先程よりはっきりと喋れるようになっている。血は止まっているが、既に流しすぎている。死ぬのも時間の問題だ。
私はシルヴィアを抱えて空へと飛んだ。




