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「我が祖先の守りし愛しき民よ。暴虐の限りを尽くしたオルディアス侯爵はこの手に堕ちました。」
シルヴィアの凛とした声が広場に響く。大きな声ではないのによく聞こえるその声は、いつものシルヴィアとは別人の物のようだ。
戦奇様の手を引いて広場へと向かう。急がなければいけないのに、目の前には人だかりで中々前に進めない。
「共に愛すべきこの地を取り戻しましょう!」
歓声がまた上がる。
ああ、これでは本当に…もうどうにも出来なくなってしまう。
悪政を敷いていたオルディアス侯爵を領主から引き摺り下ろすだけならば許されたかも知れない。けれど、彼女は今、この国からの独立を希望する事を言ってしまった。
そんな事、許される筈が無いというのに。
『王に仇なす者がいれば殺せ。』
目を瞑れば聞こえてきそうな低い男の声。思い出すと身体が震えそうになる。拳を握りしめて堪えた。
やっと処刑台前に辿り着けば、オルディアス侯爵が縛られ、床に這いつくばっている。意識を取り戻した侯爵がシルヴィアに向かって怨嗟の声を上げている。聞くに堪えないそれは、自分の非を認めてはいないようだった。何故、自分がこんな目に遭うのか。それすらも分かっていないのだろう。自分は当たり前の事をしただけだと自信を持つ男は誇り高い王族の血を引いているとは思えず一層哀れだった。
その首に向かってシルヴィアが剣を振るおうとしていた。シルヴィアの剣は宝石が嵌め込まれた豪華な物で、奴隷である彼女の持ち物では無いことが一目で分かるものであった。
「馬鹿な奴め!その剣は我が侯爵家に代々伝わる物。お前ごときが触れて良い物では無いわ!」
オルディアス侯爵が叫ぶも、シルヴィアは動じない。
「これは元々私の祖母の愛剣よ。」
静かに彼女が告げると、オルディアス侯爵は呆然とした。
「まさかお前は…。」
「私はルクサティアの救世の魔女、ヴァルク・ノア・ルディンの末裔。」
シルヴィアが告げた名はこの地の歴史に残る、二千年以上前に亡くなった魔女の名だった。ヴァルク・ノア・ルディン…古き魔女の言葉で怒れる濁流を意味する名の魔女は、この地を治める王族と共に長く守り抜いた。民には慈悲深く敵には非情な魔女だったと言うのを学園の図書館で読んだ事があった。読んだ時には人に慕われる魔女がいたという事実にかなりの衝撃を受けたものだ。
「ルクサティア王朝最後の魔女ナイラ・セレリは私の祖母よ。」
ナイラ・セレリ…歌う水、か。
オルディアス侯爵はシルヴィアの正体を知らなかったようで固まっていた。戦奇様は知っていたというのに…。通常、魔女の素性は全て調べられ、奴隷として仕える前に情報の全てを主人に渡される筈。戦奇様の呆れた様子から隠されていた訳では無さそうなのに、どうして知らないのかと言えば…奴隷の事など興味無かった為読まなかったというところだろうか。
「馬鹿な男だ。」
戦奇様のその言葉は、オルディアス侯爵を完全に見下していた。
読んで頂き有難うございます!
明日も投稿頑張ります。




