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シルヴィアは大きな門の前で城の兵士らしき男といた。彼女の手はオルディアス侯爵を引き摺っている。
「シルヴィア…。」
私が声を掛けるとシルヴィアが驚いたように振り返った。そして悲しそうな顔をする。
「愛花、来てしまったのね。」
「シルヴィア、やめましょう。今なら間に合いますから。」
シルヴィアに向かって手を差し伸べる。
奴隷が主人に対して反乱を起こすなどあってはならない事だ。国王に事が知れれば処刑されてしまう。今なら、きっと戦奇様が何とかしてくれる。
「もう遅いわ。」
彼女は私の手を見たが首を振って拒否した。
「遅いなんて…。」
「沢山の人がこの日を待ち望んでいたの。私だけじゃないのよ。」
そんな…。シルヴィアの覚悟に染まった瞳に、私には何も言えない。だって、シルヴィアのことを私は少ししか知らないのだから。彼女をこんな事をするまで追い詰めた過去を私は何も知らないのだから。
シルヴィアと共にいた兵士が部下らしき別の兵士達に声を掛けて扉を開ける。ゆっくりと開き、外の景色が見え…。
人々の歓声が、その場を支配した。
「シルヴィア様!」
「シルヴィア様だ!」
「オルディアス侯爵もいるぞ!!」
「シルヴィア様!ありがとうございますっ!」
余りの熱気に圧倒されふらつく。背後にいた戦奇様がさっと支えてくれた。
「何て…こと…。」
目眩がする。人間が魔女を慕い歓声を上げている。こんな事はあり得ない。
「…シルヴィアはルクサティア王朝時代に当時の王族と共に国を支えた魔女の一族の末裔だ。だからこそ、民衆の人気を得ることが出来、こんな茶番に担ぎ上げられた。」
戦奇様の言葉が虚しく頭に響いた。目の前の光景が信じられない。だって魔女は人間に嫌われていて…だからこそ私も…。
もうとっくに痛まなくなっていた背中の傷跡がズキズキと痛んだ気がして、またよろけそうになる。
「しっかりしろ。」
叱咤されてはっとなる。そうだ、私がここまで来ると言ったのにこんなところで挫けそうになるなんて何と情けない。
気が付けばシルヴィアは私達から離れ、気を失ったオルディアス侯爵を引き摺ったまま街の広場へと向かっていた。そこには処刑台がある。ところどころ赤黒く変色した木製のそれは、数々の処刑がそこで行われてきたことの証明のようだった。
「かつてのルクサティアの民よ。」
処刑台に上がったシルヴィアは神々しいまでの気品をたたえていた。先程までオルディアス侯爵への怨嗟を口にしていた人々が静まり返り彼女を見つめた。彼等の瞳には魔女に対する軽蔑や恐れは無く、自分達の英雄を見つめる尊敬だけがあった。




