表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
19/36

19




 シルヴィアは自分の主人を縛り上げてズルズルと引き摺った。オルディアス侯爵は小さく呻いている。歩みを進めていく毎にオルディアス侯爵への怨嗟の声が大きくなっていく。民衆の怒りは凄まじい。



「シルヴィア様。」



 城の衛兵である筈の男がシルヴィアに頭を下げる。奴隷であるシルヴィアに対し、平民の身分のこの男が頭を下げることはこの国では許される事ではなかった。しかし、シルヴィアはそれが当たり前かのように受け入れている。



「オルディアス侯爵様を捕らえて頂けたのですね。ありがとうございます。流石シルヴィア様です。」



 ……どうでもいいわ。シルヴィアは思った。元々シルヴィアは反乱なんて起こすつもりは無かったのだ。それなのに人間達に持ち上げられて今では反乱軍の頭にされてしまっていた。



「かつてのルクサティア王朝時代に王族を支え続けた血筋のお方は我々とは違いますね。」



 ルクサティア王朝は魔女を差別せず共に人々と暮らす国だったそうだ。シルヴィアの家系は千年に渡り王族に仕える軍師のような役割をしていたのだという。シルヴィアの祖母はルクサティア王朝の終焉を看取った最後の軍師だった。王都が攻め落とされる際には国王の命令で落ち延びたのだとまだ生きていた祖母は幼いシルヴィアに困ったような笑みを浮かべて言っていた。



『陛下は私に生きろと言いました。…当時からアストリアル王国は魔女を嫌っていましたから、捕まれば酷い私が目に遭うと心配されていましたわ。だからこそ、私は陛下の後顧の憂いを絶つために恥知らずにも陛下の最後の命令を聞いてしまいました。陛下の最期はそれはそれはご立派で…。』



 こんな風に魔女と人間同士で争うことになるのならば、最期までお供すれば良かった…と祖母は戦争が始まってからしきりに言っていたという。かつて愛し守った人々からも恨まれ銃を向けられて、祖母の悲しみは如何ほどだったろうとシルヴィアは思う。


 オルディアス侯爵が自分の主人に決まったと聞かされた時は複雑な心境だったが嬉しかった。かつて自分の祖母やその祖先が仕えてきた王族の血を引くお方にかつての王朝時代に使っていた城で仕えることが出来るなんて、奴隷となった自分にとってこれ程良い話はあるだろうか。祖母から聞いたかつての王の話を思い出して、そんな風に思っていたのだ。


 しかし蓋を開けてみれば、かの侯爵は余りにも浅慮で、身勝手で、かの王族の血を引いているのか疑わしい人物だった。民には圧政を敷き、かつて王朝に仕えた軍師のことは忘れ、シルヴィアを見ても名前一つ呼ぼうともしない。シルヴィアの話を聞こうとせず、一方的に命令を伝えるだけ。奴隷を連れた客人が来る度にシルヴィアを呼び付け命令するのだ。



『あれを殺れ。』



 マスターの命令に奴隷は逆らえない。幾度同胞をこの手で殺してしまったか…。奴隷は貴重だから殺さないようにしようと言うのが王位継承争いに参加する人々の中での常識だったが、オルディアス侯爵は自分は一切手を汚さずにシルヴィアに魔女を狩るようにと命令し続けた。


 殺したくないと縋った事もあったが、オルディアス侯爵に聞き入られることは一切無く、無情な命令は続きシルヴィアの心が限界を迎えそうになった頃…今目の前にいる兵士がシルヴィアに反乱の話を持ち掛けたのだ。彼はどうしてか前王朝時代にシルヴィアの祖先が王族に仕えていたことを知っており、民衆の為にも立ち上がって欲しいと言ってきた。


 オルディアス侯爵の元で働くのは苦痛だったから、話に乗った。この人間がわざわざ前王朝時代の話まで持ち出してきたのは、何かあっ時に魔女であるシルヴィアに責任を全て押し付けるつもりだ。ただ、シルヴィアも彼らを利用する理由があった。


 だからこそ。



「……行きましょう。」



 もう止まるわけにはいかないのだ。

 シルヴィアは侯爵を引き摺ったまま、兵を連れて歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ