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カビ臭い……。ここは何処だろう。私何をしていんだっけ。
目を開けようとして目隠しをされている事に気が付く。身体も拘束されている…。一体、何が…。ズキンズキンと頭が痛んだ。確かシルヴィアと話をしていただけなのに……まさか毒?いや、小さな頃から毒に慣れさせる為にある程度の毒は摂取してきている。そんな簡単に気絶する筈がない。取り敢えず状況を確認しようとゆっくり体を持ち上げる。当たり前だが目隠しをされているので何も見えない。
おひさまにこにこ みんなでわらおう
ないてもわらって みんなしあわせ
おなかがぐーぐー それでもわらおう
ありがとうだけが みんなのことば
おつきさまきらきら よるもうたおう
こえなくうたえば ゆめになるよ
……この歌…何だっけ。誰が歌っているんだろう。どうしてこんな…悲しそうに歌うんだろう。
おひさまにこにこ みんなでわらおう
ないてもわらって みんなしあわせ
おなかがぐーぐー それでもわらおう
ありがとうだけが みんなのことば
おつきさまきらきら よるもうたおう
こえなくうたえば ゆめになるよ
歌がふっと止まった。静かな足音が近付いてくる。
「シルヴィア…?」
魔女同士はその魔力を感じる事でその存在が分かる。だから見えなくてもそこにいるのが誰なのか分かってしまう。この清涼な川の流れのような魔力はシルヴィアのものだ。シルヴィアがふっと笑ったのが分かった。
「ごめんね。愛花。でも貴女が悪いのよ。早く出ていけば良かったのにずっといるんだもの。……全部終わるまで此処にいて頂戴。」
「シルヴィア、これはどういう…」
魔法を使って拘束を解こうとするも、魔力が上手く身体を循環しない。これは…戦争で使われてたという魔女専用の拘束具だろうか。ただの縄のように思えるそれは、トリスメラ鉱を細かく砕いたものが練り込まれているという。実際に使われたのは始めてだが、なるほど体が何処となく怠いのもこれのせいか。
「何をするつもりですか。」
私を拘束してどうするつもりなのか、そして全部終わるまでとはどういうことか、問い正そうとするもシルヴィアは答えない。
「それじゃあ、そういうことだから。良い子で待っていてね。」
「待ってください!」
あぁ、行ってしまった。シルヴィアの足音が遠のいていく。行かせてはいけないような気がして、どうにかして追いかけたいのに拘束は取れない。
どうしよう…。縄に練り込まれているトリスメラ鉱の質が悪いのか思い切り魔力を込めれば外れるような気がするが、そこまでの魔力を使うのには戦奇様の許可が必要だ。勝手をすれば枷に付いているトリスメラ鉱が効果を発揮してそれこそ動けなくなる。
戦奇様…。気付いてください…。
心の中で祈っていると、どのくらい経った頃だろうか、シルヴィアとは違う重たい足音が聞こえた。
「こんな所で何をしてるんだ、お前は。」
戦奇様じゃない、懐かしい声が聞こえて、こんな所に居るはずのない人の出現に戸惑う。
「どうして…。」
「あぁ、これが取れないのか。仕方ねえなあ。今外してやるよ。」
ザクザクと縄が切られ拘束が解かれた。
「じゃあな。」
私が目隠しを外す前に彼はいなくなってしまったのだろう、誰の姿も見えなかった。相変わらず素早い。
「お元気そうで何よりと思うしかないでしょうか…。久し振りに顔くらい見せてくれれば良いのに。」
でも、あの人が来ているということは…先程からの悪い予感が当たるのかも知れない。
「急がないと…。」
魔力を操り体を浮かせる。そのまま飛行し、シルヴィアの魔力を追い掛けたのだった。