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城に滞在し始めてから数日が経った。戦奇様を祝う宴は毎夜開かれ、変わらず夜は宴に招待され部屋には毎日違う女が押し掛けており、私の部屋で寝泊まりをしていた。私はと言うとシルヴィアから貰った本を読んだり、毎日どこかで顔を出すシルヴィアと他愛もない話をして過ごしている。
今日もそうしてシルヴィアと私の部屋で話をしていた。
「愛花は本当に色々な場所に行ったことがあるのね。私は学園を卒業してからずっと此処にいるから他の区のことは全く知らないの。愛花が行ったことのない区はあるのかしら?」
「小さな頃から国中色々な所へ行っていたし、戦奇様と出会う前はその時のマスターの伊織様とも旅をしていましたので…全く足を踏み入れたことのない区はありませんね。常にバタバタとしているので、シルヴィアのように腰を落ち着けて生活するのに憧れます。」
「私達奴隷は勝手に外出も出来ないし凄く退屈よ?そしたら6区にある水晶宮は見たことがあるの?」
水晶宮とは避暑地である6区にある。二百年程前の王族が当時の王妃の療養の為に建てたのだという城だ。水晶で出来た離れがあることで水晶宮と名付けられた。現在は王族が旅行や療養に使うことが多い。
「一度だけ見たことがあります。とても綺麗な宮殿でしたよ。」
「本当に水晶の間があるの?」
「はい。キラキラとしていてとても綺麗でした。」
「いいなあ。私もいつか行ってみたい。次のマスターは王族にならないかしら?」
なんてね、なんて言って彼女は押し黙った。奴隷が主人を選ぶことは出来ない。私達は長生きだけれど、今の主人が死んだ後の未来は分からなかった。それに、国王が変われば自分達の境遇も変わる。いつ魔女を全滅させろと命令が下されるのかも分からない。
「…でも、侯爵様は良い方ですね。私にもこんな部屋を用意してくれて、シルヴィアも酷い扱いは受けていないようですし。」
話を変えようと彼女のマスターであるオルディアス侯爵を褒めた。事実、悪い方では無いように見えた。
「……そうね。良いマスターに恵まれたと思っているわ。」
シルヴィアの表情が一瞬消えて…すぐにいつもの笑顔に戻る。
「でも愛花のマスターも素敵じゃない。あんな格好良い人なかなかいないわよ。」
一瞬だけだったので気になりはしたものの、私が力になれることなど無いのだからと彼女の話に乗る。
「戦奇様ですか。確かに美形の部類ではあると思います。」
「物腰も柔らかいし王子様って感じがして素敵よねー。」
「はぁ。」
戦奇様は確かに顔は良い。双黒の瞳は王族らしい気品に溢れていると思うし、普段の素行はともかくとして公式の場ではきちんとしている。年頃の女性が見たら確かに素敵に見えるのかもしれない。私は特別素敵だとかは思ったこともないけれど。なんならもう少し体力のある男性が良い。
「愛花もそろそろそういうのに興味が出てくる年頃じゃないの?」
きょとんとしたシルヴィアに私は苦笑いを浮かべた。
「よく分からないす。戦奇様は主人なのでそういった対象には見れませんし、他に男性の知り合いも余りいないので。」
まだそういうものかしら、とシルヴィアがクスクス笑う。
「愛花。」
「何でしょうか。」
シルヴィア、と彼女の名前を呼ぼうとしたところで意識が朦朧としてくる。あれ、私……どうしてこんなに眠いんだろう。口を開こうとしても重くて開かない。視界がぐにゃりと曲がって身体が倒れた。
シルヴィア……。
無表情の彼女と目が合ったような気がして、そこで意識が途絶えた。
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執筆頑張りますので良かったらまた読みに来てやってくださいm(__)m