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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
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 気が付けば部屋のベッドで寝ていた。シルヴィアから薬湯を貰った後の記憶が曖昧だ。どうやって部屋まで戻ってきたんだっけ?

 思っていたよりも自分が疲れていた事に驚きつつも、身体が軽くなっていることに気が付いて思い切り伸びをする。ベッドでゆっくり寝るなんていつぶりだろう。外はすっかり暗くなっていて、何処かで動物の鳴き声らしいものが聞こえた。三日月の微かな月明かりが窓から差し込んだ。


 そういえば、戦奇様は宴に参加すると言っていたっけ。暇だ。部屋も暗いのでシルヴィアから貰った本を読むことも出来ない。ベッドに腰掛けて足をぶらつかせる。大人用のベッドは年齢より体の小さい私では足がつかなかった。



 ガチャッ



 戦奇様の部屋の方から鍵の開く音がした。戦奇様が戻ってきたのだろうか?よいしょとベッドから降りて戦奇様の部屋の方を見てみる。僅かに扉が開いていたが部屋は暗いままだ。あの部屋にはシャンデリアまでぶら下がっていて光源に欠くことの無さそうな部屋だったというのに少し様子がおかしい。そろそろと戦奇様の部屋を隙間から覗く。

 矢鱈と露出の多い服装の化粧の濃い女が我が物顔でソファに座っているのを確認してそっと背を向ける。女の身に付ける香水の匂いがぷうんと漂っていた。


 戦奇様ももう成人だからそういうこともあるでしょう。


 何をするのかは分からないが、大人の男の人はあの手の女の人を部屋に連れ込むのが好きだというのは知っていた。私は邪魔だろうからとっとと寝たほうが良いだろう。



「何を神妙な顔でこんな所をうろついてるんだお前は。」



 背後から近付いた手に頬をびよーんと伸ばされる。痛い。



「いひゃいれす、せんひしゃま。」



 戦奇様が呆れた顔で私の頬から手を離した。そして自分の部屋の扉が開いているのを見て中を確認して……そっと背を向け深い溜息を吐いた。少しお酒臭い。



「全く余計な事を。」


「私は邪魔はしませんのでどうぞお楽しみください。」



 私が気を使ってそう言えばぎょっとした目でこちらを見つめる。



「お前はあの女の目的を知っているのか?」


「戦奇様が呼んだのでは無いのですか?私を育てた人はよく女の人を呼んでいましたが。」


「……お前の生育環境について聞きたいことは沢山あるが…取り敢えず俺は呼んでいない。」


「そうですか。それならあの人は不審者ということになりますかね。追い出した方が宜しいですか?」


「いや、良い。お前の部屋で寝るから。」



 はて、この人は今何と。



「お前の部屋は何処だ。まさかまた馬小屋では無いだろうな。」


「馬小屋ではありませんが……奴隷用に用意された部屋ですので戦奇様には合わないかと。」



 そう言えば、また呆れた目を向けられる。



「何度野宿をしていると思ってるんだ。ベッドはあるんだろうな。」


「ありますが狭いベッドが一つだけですよ。」


「…まあ良い。案内しろ。」



 案内しろと言われたので取り敢えず私に貸し与えられた部屋に戦奇様を通す。

 あの女の人では戦奇様のお眼鏡に適わなかったようだ。



「私でご満足頂けるかは甚だ疑問ですが…。」



 部屋に入り服を脱ごうとすると、戦奇様に慌てて止められる。



「な、に、を、し、て、る、ん、だ、お前はっ!!」


「男の人はお酒を飲むと人肌が恋しくなるものだと私を育てた人が言っていました。…あと、学園では主人の欲求に応えるのも役目のうちだと。」


「意味が分かって言ってるのか……いや、全く分かって無さそうだからもう良い。それより水をくれ。」



 小さな椅子に乱暴に座り込む。ギイっと椅子が悲鳴を上げるような音を出した。

 用意されていた水差しからカップに水を入れて戦奇様に渡す。匂いを嗅いで一口飲んで一言



「……ここでもか。」



 と呟いた。何のことかは分からないが、私が考えても仕方のない事だろう。気にせずにベッドを整える。少し埃っぽいのだが……本当に良いのだろうか。



「おい、何をしてるんだ。」


「戦奇様の寝床を整えています。私はアフヤドの所に行きますので。」


「お前は俺を何だと思ってるんだ。このまま寝るから良い。ベッドはお前が使え。」


「そういう訳にもいきません。戦奇様は私と違ってひ弱ですからそんな固い椅子に座ったまま寝たら明日以降体が動かなくなりますよ。」



 うっと言葉に詰まった戦奇様には思い当たる節があるのだろう。実際戦奇様は体力が余り無い。いや、体力と言うよりも何というか…気力?が足りない。王宮育ちで侍女達に大切に育てられてきた王子様なので、睡眠環境が悪いとすぐに体に響くらしい。野宿をした後は機嫌が悪くなったり動きがギクシャクする。砂漠を長距離歩けば昼間にはよろよろになる。旅を始めたばかりの頃は何故か私にアフヤドに乗るように言って自分が歩こうとするので大変だった。


 そんな戦奇様を知っているからこそ私はベッドを戦奇様に勧める。一応歓迎されているとはいえ、ここは敵陣だ。いざとなった時に戦奇様が動けないと非常にやり辛い。



「…分かった、ベッドを使おう。」



 どさり、とベッドに座り込む。そそくさと馬小屋に向かおうとする私の服の裾をぐいっと掴んで引き込んだ。



「……戦奇様?」


「顔色が悪い。お前もここで寝ろ。」


「ベッドが狭くなってしまいますが。」


「別に問題ない。」



 問題ないと言われても主人の横で寝るなんて私の気が休まらない。しかし戦奇様も譲らなさそうだ。諦めた私は小さく頷いた。




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