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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
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 暫く部屋に滞在しているシルヴィアと、何ていうことのない話をした。戦奇様の身の回りのことは此処の使用人がしてくれるらしく、本当にやることが無いので有り難かった。しかし、シルヴィアはこんな所にいて大丈夫なのだろうか。心配になって訊ねると肩を竦めた。



「私もこのお城でやることは殆ど無いのよ。マスターの身の回りの世話は侍女様達がやるし、護衛も別で雇った方々に任せているし。」



 貴族や王族が来た時の出迎えに一緒に行くくらいしかやることが無いのだと彼女は苦笑いする。専用の使用人を雇わず、人遣いの荒い私のご主人様とは全く違うタイプのご主人様のようだ。普段三日と休めないのでシルヴィアのことを羨ましくも思うが、ずっと暇というのも辛いかも知れない、と本を貰う前の自分を思い出す。



「まあ、そんな感じで毎日かなり暇だから此処にいる事に関しては大丈夫なのよ。」



 穏やかな口調で微笑むシルヴィアは、何だか少し幸せそうに見えた。と同時に少し胸の辺りがモヤモヤした。どうしたんだろう。軽く胸に触れるが治まる様子がない。珍しく風邪でも引いたのだろうか、後で久し振りに薬湯でも作った方が良いだろうか。薬作りは余り好きではないが、それでも基礎的な薬くらいは作れると思う。久しぶりだから怪しいかも知れないけど。……シルヴィアに材料が入手出来そうな場所を聞いてみようか。



「あぁ、それならマスターが庭園に薬の材料になるものを少し植えているの。自由に使っても良いと言われているから後で摘みに行きましょう?……体調が悪いなら無理をしないで薬を飲んだら寝ていなさいね。」



 シルヴィアが私の頭を優しく撫でた。冷たい手が額に当たって気持ちが良い。思わずうとうとしそうになる。…人前で眠くなるなんて何年ぶりだろう。気付いたら胸のモヤモヤが消えて今度はくすぐったいような気持ちになる。やっぱり風邪を引いたに違いない。夜の砂漠は冷えるのに、駱駝小屋なんかで寝たからだろうか。そう思ったら身体が重いような気もしてきた。シルヴィアの言う通り、薬を作って飲んだら寝た方が良さそうだ。早速薬草を摘みに行きたいことを伝えると気の良い魔女は頷いて付いてくるようにと言ってくれた。



 城の庭園の中に小さな薬草園があった。中に入ると様々なハーブの香りがして少し気分がすっきりす?。魔女の作る風邪薬なんて大袈裟に言うけれど、風邪薬はどこにでもある普通のハーブを使って作ることが出来る。人間にも作れるが、魔女の魔力を込めるとハーブや薬草の効果が高まるのだ。どれ程の効果になるのかは魔女による。魔力の込め方によって効果が強まったり薄まったりする。繊細な魔力コントロールが必要になる作業だ。最後に作った時の薬を思い浮かべて…まあ、何とかなるだろうと気を取り直し、ミントとレモンバームの葉とカモミールの花を少し頂戴した。ミントには鼻詰まりや咳などの症状を和らげる効果が、カモミールにはリラックス効果と発汗作用、レモンバームには鎮静作用がある。基本の風邪薬の材料だ。

 シルヴィアが部屋の中で鍋は使えないと言うので、このまま薬草園で作ることになった。丁寧に洗ったハーブをカップに入れる。そこにお湯を注いで蒸らしている間にゆっくりと魔力を込めるだけの一番簡単な風邪薬だ。


 お湯を注いで……魔力を込める……。


 そっと、そっと……。


 慌てたような様子のシルヴィアが何かを言っている。聞き返そうとした時に、魔力がドバっと漏れたような気がした。………気のせいだということにして、ドバっと漏れた部分の魔力の穴を集中して塞いでいく。細い魔力をイメージ……。ゆっくりと魔力を込めていた筈だが、何故かどんどん薬湯の色が変わっている気がする。本当は薄い黄色から黄緑色になる筈の薬湯が何故か紫色に変化していた。


 瞬きを数度繰り返すも目の前の薬湯は紫色だ。…そういうものだと思うことにして、今度はネギと生姜を拝借した。ネギには抗菌作用、生姜には鎮咳効果と体を温める効果がある。みじん切りにした二つの材料を鍋に入れて煮出していくと喉の風邪に効く薬湯になる。本当はどちらの薬湯もハチミツがあると飲みやすくなるのだけれど、ハチミツは貴重な甘味で高級品である。簡単には手に入らない。


 煮出している間にそっと魔力を込める。今度は入れすぎないようにそっとそっと……。



「いや、みじん切りになってないわよ!!ネギが大きすぎてネギ汁になっているわ!生姜も塊で浮いてるしこれじゃあ全然火が通らないじゃない。愛花?!」



 シルヴィアが何かを言っている。あっと思った瞬間にまた魔力がドバっと漏れた。


「あっ。」


 みるみるうちに今度は濃い青色になる薬湯。ぶくぶくと不気味な泡まで立ち始めた。



「……飲むの?それ。」



 シルヴィアの問いかけには力なく頷くしかなかった。




愛花は魔力が多すぎて繊細なコントロールが苦手です。なので薬作りは一番苦手としていていつも不気味な色の薬湯が完成します。学園ではビリから数えた方が早いくらいの成績を取っていました



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