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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
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 明かりになるようなランプや蝋燭やらは高級品であるので、奴隷である私の部屋には置いていない。夜になると本は読めなくなる。明るいうちに読もうとシルヴィアから貰った小説を読んでみる。こういった類いの本を読むのは産まれて始めてだった。学園に入る前は最低限の文字しか教えて貰っていなかったしその内容も人体の解剖図や処刑の仕方の本なんていう物騒なものが主だったし、学園に入ってからも読めるものに制限が掛けられており、読めるものと言えばこの国の歴史だったり、国王陛下の業績だったり…とにかく国を讃えるような内容のものしか無かった。大衆娯楽というのだろうか、成る程確かに読みやすい文章で書かれている。王子と平民の少女が恋に落ちるがそれをよく思わない魔女に呪いを掛けられ、少女は深い眠りに付く。それを王子が呪いを解く宝具を手に入れて助け2人は永遠に結ばれる……簡単にはこういった内容のようだ。まるで自分がその世界にいるかのような錯覚を覚え、主人公と一緒に王子に恋をしてしまいそうになる。……けれど自分の手首に付けられた枷を見て、その先にジャラジャラと垂れる鎖を見て思い知る。

 私は奴隷だ。平民よりもずっとずっと低い身分に生まれた私には、きっと恋愛なんて出来ない。戦奇様は無いだろうが、今後長い人生で、主人が何人変わるか分からない。もしかしたらその時の主人から子どもを産めと言われるかも知れない。あてがわれた男の子どもを産んで魔女を増やす……私の未来なんて精々そんなものだろう。夢を見るだけ無駄だ。



「魔女は物語でも悪者…。」



 本の背表紙を撫でて呟いた。どうして私達魔女は悪者なのだろう。いや、私は別に良い。悪い事を沢山してしまったのだから、どれだけ差別されようと悪者扱いされようと構わない。けれど他の魔女達は?本当に皆は悪者なのだろうか。………考えようとして止めた。このように考えることも余計なことだ。こんなことを考えているなんて知られたら処分されてもおかしくない。全ての奴隷を処分する権利は王が持つ。現在の体制に疑問を持つことは王に敵対することと同じだと幼い頃から教えられてきた。


 いくら魔女が長寿だからって、首を刎ねられれば死んでしまうのだから。

 パタンと本を閉じて、ベッドに飛び込む。息を吸うと少し埃の匂いがした。それが妙に懐かしくて目を瞑る。



『おい、ちび、仕度しろ。』


『先輩!?またそんな格好で!ほら髪の毛やって上げるっすからこっちに来てください!』



 辛いことも沢山あったけど、少し…ほんの少しだけ幸せだったあの頃を思うもすぐに言いようの無い罪悪感に襲われた。

 …………私が全部壊したのに、思い出して少し幸せな気持ちになるなんて私は本当に悪い魔女だ。私は絶対に幸せになんかなってはいけないというのに。そんなことを考えていると、肺に入った空気が重くなったような気がして、ふぅ、と息を吐いた。

 思い出すのも辛いなら忘れたほうが良いのに、どうしても忘れられない。伊織様についてもそうだ。前の主人のことは早く忘れるように言われているのにどうしてか忘れられないなんて私はなんて駄目な奴隷なんだろう。


 トントンと優しく扉を叩く音がした。シルヴィアがゆったりとした仕草でまた部屋に入ってくる。



「どう?面白い?」



 柔らかく微笑みながら訊いてくる彼女に私は頷いた。



「面白いです。小説は初めて読んだので…。」


「そうなの?王子様もケチなのねぇ。」


「…戦奇様はこういったものに興味が無いので…。」


「たまには我儘も言えば良いのに。買ってくれるんじゃない?そういえば服も………貴女それ学園の制服よね?卒業しても着てる子初めて見たわ。」



 奴隷の衣食住は主人が用意するものよ、とシルヴィアは不満そうに私のサイズの合っていない制服を見つめた。10歳の時から着ている制服は袖が上がってきてしまっており、スカートも膝が見えてしまっていた。スカートのウエストにはまだ余裕があるものの、セーラー服の裾は大分短くなってきていて、少し動くと臍が見えてしまう。



「……本なら兎も角、服は勝手にあげるわけにはいかないのよね。マスターにすぐバレるもの。」


「頂いてもサイズが合わないと思います…。」



 シルヴィアの服は彼女の身体にぴったりと張り付くようなデザインの服だ。豊満な身体のラインがしっかりと見えるその服を私が着てもぷかぷかするだけだよう……主に胸の辺りが。痩せ細り貧相な自分の身体とシルヴィアの身体では合う服も違うだろう。



「ふふっ…。 」


「どうしました?」


「ちょっと、妹みたいだなと思っただけよ。」



 妹……と独り言ちた。私には家族がいた事のないのでシルヴィアのその感覚が分からない。けれどなんだか少し心臓の辺りがくすぐったくなった。





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