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紅い鎖 ー魔女達の物語ー  作者: だんだん
一章 眠りの魔女
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 余りにも強すぎる日差しが私の肌を焦がす。乾いた熱風が頬に当たるのが少し不快だった。



戦奇(せんき)様、暑いです。」



 一人駱駝に乗る主人を見上げると、彼はうっとおしそうに手を振った。



「言うな。余計暑くなる。」



 少し珍しい黒髪に、朱い瞳。手にはグローブが嵌められており、それには彼の瞳と同じ色の石があしらわれている。キラキラと太陽の光に反射するそれは綺麗だと思う。


 砂漠を進むこと数日。次の街というのがなかなか見当たらない。進む方向は間違ってない筈なのに、と地図を見直す。食料や水分はまだ何とかなるが戦奇様の体力が心配である。


 ジャラリ、ジャラリ。


 私が歩く度に重たい金属を引き摺る音がする。手足を繋ぐ鎖の音だ。音から推測される重さより重くはないが、たまに邪魔に思う。


 枷には華美な装飾が施されており、鎖さえ伸びていなければアクセサリーに見えなくもない。小さな宝石の施されたそれに歪さを感じるのは私だけでは無いだろう。


 それから暫く歩くとうっすらと街が見え始めた。駱駝の手綱を握り急がせる。もう砂漠で野宿をしたくはない。主人も同意見なのか特別文句を言うことも無かった。







 門衛に銀貨を払い中に街の中に入る。もう夕方だ。ギリギリの到着だ。もう少しでまた野宿をする羽目になるところだった。危ない危ない。


 門衛が私を見て眉を潜めた。人によく思われないのはいつもの事なので気にしない。今日の宿を探すことにする。



「あの…。」



 近くの人に話し掛け宿の場所を聞こうとするも避けられる。それを見た戦奇様が不機嫌そうに溜息を吐いた。私のせいでイライラさせてしまっただろうか。彼を見上げるも特に怒ってはなさそうで安心する。三度人に話し掛けては避けられるを繰り返した所で、戦奇様が駱駝から降りて市場で片付けをしていた女に話し掛けた。彼女は戦奇様を見ると慌てて頭を下げ、問われたことに指差しながら答えた。


 戦奇様が女の指差した方向に進んでいく。その後ろを駱駝を引きながら付いて歩いた。


 かなり昔から建っているのだろう、いかにも古めかしい宿に着き中に入る。戦奇様のような方がこのような所に泊まれるのだろうかと思うが、当の本人は気にする様子も無く宿の主人に話し掛ける。主人は戦奇様を見て恭しく頭を下げて問われたことに端的に答える。

 幸いにも宿に空きがあるとのことで今日はここで泊まれるとのことであった。しかし、宿の主人は私の鎖を見ると顔を顰めた。



「お客様は大丈夫ですが、魔女、いや彼女の泊まれる部屋はありません。他のお客様の目もありますからね…駱駝の小屋なら空いてますのでそこに繋いでおくのはどうでしょうか?」



 そうはっきりと告げられる。彼の目には憎悪が浮かんでいた。途端に、戦奇様の機嫌が悪くなったのが分かるが大丈夫です、と袖を掴む。



「…分かりました。駱駝小屋をお借りします。繋がれなくても逃げも暴れもしませんから、ご安心ください。」



 そう言えば、ふんっと鼻を鳴らして返された。戦奇様は何か言いたげだったが彼に頭を下げ、駱駝を引いて共に駱駝小屋へと入る。


 獣の臭いが漂うそこは上等な寝床でないけれどもこのような扱いには慣れていた。寧ろ屋根がある場所に泊めて貰えるだけ有り難いかも知れない。




「アフヤド。どーどー。」



 駱駝を繋ぎ、声を掛ける。そっと撫でてやればペッと唾を吐かれた。可愛くない駱駝だ。このアフヤドという名前の駱駝は戦奇様にしか懐かない。駱駝は人に友好的な動物だと聞いていたがそんなことはなく気性の荒さは主人譲りなのか、最近やっと手綱を私が引いても暴れなくなったところだった。



「それにしても魔女ですか…久し振りに言われましたね。」



 この地域は国境に近く、未だ『あの戦い』の余韻が強く残っている場所だ。武器を持って追い回されないだけマシなのかもしれない。そう思うことにした。


 藁を積んで寝床を作り横になる。決して寝心地が良いとも言えないが仕方ない。


 魔女というのは古来より魔法を使う者のことをそう言った。私達魔女は人よりも歳を取りにくく、超人的な魔法や呪いの類を使う事が出来る。しかし数は少なく、元は人々の中にひっそりと紛れて生きていた。


 魔女達は自然と調和しその力を借りながら魔法を使う。星を読み人々に対して助言を行った。そんな魔女をよく思わない人達が現れたのは、もう何百年も前の話だ。王侯貴族、そして教会のトップまでもが魔女の力を恐れ弾圧を始めた。魔女狩りと呼ばれたその行動は多くの魔女を、そして魔女とは本来関係のない人々までもを巻き込んで命を奪った。


 最初は逃げていただけの魔女も、夫に子供、親やきょうだい、友人や恋人などを殺されることが増え、次第に復讐に燃えるようになる。


 魔女と人の戦争が起きたのは今から20年前のことだった。数百年という年月は寿命の長い魔女にとっても決して短いものではなく、かなりの数の仲間を失っていた。人と魔女は戦争により更に互いに沢山のものを奪い合った。魔女は魔法を使う事で最初は戦争を有利に進めていくが、次第に劣勢に転じる。魔女を弱体化させる石を当時の異端審問員が人工的に誕生させたのだ。後にトリスメラ鉱という名が付けられたこの石は、月の光を利用し作るのだという。魔女はこの石に触れると弱体化し、石によって魔女の魔法を無効化する事も出来た。また、使い方によっては魔女に苦痛を与えることも出来、拷問にも使われるようになった。


 トリスメラ鉱の出現によって不利になった魔女は戦争に負けた。残された道は服従のみであった。戦争を主導していた者達や魔女の王族と呼ばれていた者達は責任を追及されて次々と人によって処刑されていった。


 生き残った魔女達は奴隷の地位に落とされ、抵抗せず逃げ出すことの出来ないような仕掛けを施された。と言っても元々数の少なかった魔女達は戦争でかなりの数を減らし、処刑が終わった頃には子どもしか残らず、今は200人も残っていない。


 戦争が始まったのが20年前、そして終わったのは13年前だ。長い間魔女を忌み嫌っていたこと、戦によって被害を被ったこともあり人は未だに魔女を憎み、蔑み、差別する。産まれてからずっと差別されることが当たり前だった私にとって、かつて魔女達が取り戻そうとした自由と安寧は一番遠い存在である。




 ジャラリ、と鎖が音を立てた。


 私は今年で13になる。戦争が終わってから産まれた私は、魔女の中でもかなり年少の部類であった。


 足音と共にここ数ヶ月で慣れ親しんだ気配を感じる。



「戦奇様。」



 小さな水桶と使い古された布を手渡される。水浴びがしたかったが、それが無理ならば身体を拭きたいと思っていたので有り難かった。



「ありがとうございます。」



 私が礼を言えば、このぶっきらぼうな青年は頷く。今年で齢18になるというこの人はその身分に似合わない中途半端な優しさを持っていた。何も言わずに立ち去る彼を私は見送ったのだった。








読んで頂きありがとうございます!

かなり拙い出来ではありますが、より多くの人に満足いただけるよう頑張ります。




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