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畑とお酒と天の魔女  作者: 絵狐
一章 畑とお酒と天の魔女
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第6話 天の魔女

 今までそこにあった右腕が切り落とされソルニー・スライはそれが自身の腕とは理解できなかった。


「なに?これは俺の右腕か?」


 ボトッ


 そこにあるはずの右腕を左手で確認する為に触れようとすると……同じように次は左腕が綺麗に落ちた。


 さっきまで体の一部だった両腕が無くなる異様な感覚に後ずさろうとすると次は体が崩れ落ちた。


 その方向に視線を向けると右と左の足だけが地面に立っていた。


 そしてようやく痛みが現れ始める。切り落とされたパーツが自分自身の物だと言う事を理解した。


「ぐっぐあぁぁぁぁぁ!」


 ゼオラ以外のその場にいた者達はその異様な光景に言葉を失った。


「てっ天の魔女!きっ貴様……なっ何をした!」


「何をしたって攻撃したに決まってるじゃない。一方的にやられるほどMじゃないわよ……と言うかクリエス」


「はっはひ!?」


「何ぼーっとしてるのよ。放っておいたらあの人は失血死するけどいいの?回復とか専門の魔法使いとかいるんでしょ?」


 クリエスが慌てて振り返り闘技場の中心を見返すと倒れたソルニーを中心に真っ赤な水溜まりが作られそれはどんどんと広がっていた。


「綺麗に切れてるから今ならひっつくわよ。たぶん」


「救護兵!何をしている!すぐにソルニー・スライ様の手当をしろ!」


 クリエスの叫ぶ様な声にようやく我に返った者達がソルニーの元に向かいすぐに手当を始める。すぐに血は止まり切断された四肢もくっついた様だったが救護兵の肩を借りてその場を退場する事となった。


「……アーゼ様は本当に天の魔女だったのですね」


「若気の至りで言っただけだから……それ本当にやめて真面目に恥ずかしいから……あー……若い時の私。なんであんな事言ったんだろ」


 ゼオラがまた顔を隠しその場にしゃがみ込んでいると国王がいる場所から一人の護衛がやって来てクリエス達にこちらに来て欲しいとの事だった。


「……クリエス。ちょっと聞きたいんだけどさっきの空の魔導師がジウロ王国の最強クラスの戦力なのよね?」


「はい。魔法を扱う者の中でですが……」


「相手が油断してたってのもあるけど、そんな相手を倒した私を国王の前につれて行っても大丈夫なの?」


「近接戦を得意とする者、防御を得意とする近衛兵が陛下を守っているので大丈夫と判断されたと思います」


「まぁー……私は何もしないけど一つだけ言っておくわ。魔導師を舐めすぎ。魔導師なんて変な奴しかいないからせめて貴女だけでも気をつけなさい」


 はぁ? と曖昧な返事をしつつも国王を待たせる訳にいかないのでクリエスは親と兄弟がいる場所に向かい国王の御前にたった。


 ゼオラが変な事を言わなければ良いなと考えながらクリエスは王に頭を下げる。続いてゼオラも頭を下げて挨拶をする。


「本日はお招き頂きありがとうございます。私の名前はゼオラ・ゼ・アーゼといい、最果て村の近くに住み村の相談役という形の仕事をしている魔法使いです」


 その美貌その仕草に国王や王子は息を飲んだ。そして話を続ける。


「空の魔導師ソルニー・スライを圧倒した実力を見れば本物だと思われるが……貴女が天の魔女か?」


「天の魔女と名乗った事は過去に一度だけしかありません……初代空の魔導師殿が拡張し恐れ多く回りに伝えたのが原因の一つであります。私もクリエス様がいらっしゃるまで自身が天の魔女だとは知らなかったので過剰な二つ名にございます」


「ふむ……」と言いながら自慢の髭を触りその真意を知るためにジウロ王国の国王はゼオラを見つめる。そしてまた質問を続ける。


「だらだらと話すのを私は好まぬ。それで伝説とまで言われる天の魔女殿は我がジウロ王国に協力してもらえるのか?我が娘クリエスから詳しい話は聞いているのだろう?」


 国王を中心に空気が張り詰めていくのがゼオラには感じ取れたが特に気にする様子もなく話を続ける。


「その事に関してはお断りいたします。クリエス様の考えやその護衛達の犠牲に心を打たれ当初は協力するつもりで私はこちらに来ました」


「……」


「ですが……こちらに来たばかりの私をいきなり襲ってくる様な魔導師がいる場所では背は預ける事はできません。陛下は先程、圧倒したと言っていましたが私の魔法は気がつきにくいだけなので拮抗とまでは言いませんが私が少し上な程度です」


 ゼオラは先程の戦いを少し大げさに話し説明していく。空の魔導師の魔法はすさまじい物で間一髪で間に合わ無ければ自身が死んでいた事などなど……もちろん全部うそであるが六百年以上生きた魔女の嘘を見破れる者はその場にはおらず誰しもがゼオラの話に納得し始めていた。


「そうか……だが我が国が危機だと言う事には違いは無く、魔法国家ラグワには天の魔女のライバルとまで言われた冥の魔導師がいる。私からも協力を願えないだろうか?」


 また聞き慣れない魔導師がでてそいつも畑荒らし六人衆の一人じゃね? とは思ったがそれを言うタイミングでは無かったので知らぬ顔をしながら話を続けた。


「そこまで私の力を買って頂けるのは光栄ですが……私は陛下が想像するよりも年老いていますにで長い時間は戦えません。ですから申し訳ありませんがお断りさせて頂きます。それにいくら第三位とはいえ近くに王女がおられるのに攻撃してくる魔導師は信用できませんので……」


 それだけ言うと国王は静かに分かったとだけ言った。


「天の魔女ゼオラ・ゼ・アーゼよ。はるばる遠くからすまなかったな……クリエス。見送りについて行け」


「わっ分かりました」


 ゼオラは丁寧にジウロ国王に頭を下げてからクリエスと共にその闘技場を後にする。そして怒りを含んだ大きな声でソルニー・スライを呼べ! という声が聞こえた。


 闘技場を出て少ししてからクリエスがゼオラに話しかける。


「アーゼ様……先ほどの事は本当でしょうか?実は協力してくれるつもりだったと……」


「あのね……嘘に決まってるじゃない。言った様に敵対するならともかく無関係の人まで殺したくないし、私をいきなり殺そうとしてくる奴と手を組めるかって話よ」


「……そうですか」


「クリエスには面白い話も聞かせてもらったし貴女が私の所に来た事は無駄にならない様にはしておいたわよ。もう殴った事は咎められないでしょ。たぶん」


「そうでしょうか?」


「ええ。そうよ。国王が心を決めたのも私が最後に言った事だからね~。私の所まで来させた真意は知らないけどね」


「……」


「人類みな年下ってね。さてと私は帰るから後は上手くやりなさい。後は……見られてるというかそんな気配があったから信用できる魔法使いにでも調べさせなさい。スパイじゃ無いけど他国から見られてるわよ」


「ほっほんとうですか!?」


「嘘はつくけど嘘言ってどうするのよ。まぁこの国が滅びたら最果ての村にでも来なさい仕事はあるわよ。じゃあ元気でね~」


 男なら一発で恋に落ちそうなウィンクをしクリエスの返事も聞かぬまま瞬きよりも速くゼオラは視界から消えた。そんな嵐の様な魔女が残した言葉を思い出しクリエスはすぐに行動を開始する。


「私の直属の魔法使い魔術師を集めよ!」


 ◆◆◆


 消えたゼオラが転移した場所はジウロ王国の城下町だった村に帰って飲むには早い時間だったので変わった苗や飲む時のつまみを探しにだ。


「おう……村より人が遙かに多い」


 ゼオラは人が嫌いという訳では無かったがあまりの人の多さにここに来た事を少し後悔した。


 戦争国家とゼオラは思っていたが街に住む人達に戦いの気配がでている訳でもなくとても平和そうな街だった。ただ戦いを好む者も多い様で武装する冒険者や武具などを売っている店もそこら中に存在した。


 美味しそうな匂いがする方向に足を伸ばしそこに売っていた串焼きを一本買ってから店主に尋ねる。


「この街って初めてなんだけど野菜の苗とか種とか酒のあてって売ってる店ってある?……というかこれ美味しいわね」


「タレが決め手だからな。戦いの街って言われてるぐらいだからなー。花でも売ってる所は少ないし……野菜の苗とか種はもっと聞いたことないぞ。姉ちゃんは旅の魔法使いか?」


「まぁそんなところ。村に帰るから珍しい苗でもあれば買おうと思ったんだけど……見当たらない!」


「この辺は畑もないからしゃーない。酒のあてだがおすすめはウチの串焼きだ。肉はその辺でも売ってる肉だが昔ながら炭火焼きでさっきも言ったがタレが決め手だからな。薄味がいいなら塩もある」


 今食べてる串焼きも確かに美味しいしこの人が多い街の中の歩きこれより美味しい物を探すのは面倒くさいと言うよりも元気がでなかったのでゼオラはここで酒のあてを買う事にした。


「じゃあ……タレ付きが五本、塩が五本もらえる?」


「あいよ。というか姉ちゃん細めなのに結構食うんだな?」


「収納系の魔術があるから一回で食べないわよ」


「ほー。収納系の魔法とかそういうのが使えるって事は見た目通りに凄腕の魔法使いって感じか」


「何言ってるのよ。何処にでもいそうな綺麗なお姉さんでしょうに」


 あんたみたいな奴がそうそう居てたまるかと店主は笑い頼まれた通りに串焼き大きな葉に包みゼオラに渡した。


 ゼオラも礼を言って受け取りぎりぎり足りた現金を手渡した。


「美味かったらまた来てくれよ」


 了解と笑い手を振り店主が瞬きをした次の瞬間にはそこに元からいなかったかのようにゼオラは消えていた。


「えっ?今居たよな?金も受け取ったし……夢じゃないよな?」


 急に目の前から女が消えて店主は驚いたが前に流れていた噂を思い出した。


 この国の王女が天の魔女に会いに行ったと……


「まさか……まさかだよな。いや商売に使えるか?」


 ゼオラが次に転移した場所は最果ての村の出入り口だった。国王に会った事や昔の恥ずかしい事を思い出したゼオラは忘れるのは無理でも嫌なことを中和する為にその足は酒場へと向かっていた。


(まぁ……話のネタにはなるけど余計なこと言って混乱させてもしかたないし私が天の魔女だったって事は黙っておこう。恥ずかしいし……ぐぁぁぁぁ)


 そんな事を考えながら酒場に入ると飲むには良い時間だったが、店の中には店主と前にいた若い冒険者がいるだけだった。


「お?先生いらっしゃい。直してもらった魔道具なかなか調子いいぞ」


「先生は相変わらず美人だな」


「私もそう思う!悪い所を直したら男女問わず落とせる自信はある!」


「うん。……先生はそれでいいな」


 城で国王とかに会うよりこっちの方が断然いいなと思いながらゼオラは席につき酒とつまみを頼んだ。


 ◆

 ◆◆      

 ◆◆◆


 そして飲み始めて一時間後……良い感じに酔っ払ってきたゼオラは店に入る前の事などすっかり忘れていた。


「そうそう!聞いて聞いて!」


 飲んでテンションがあがったゼオラに苦笑いしながら店主と冒険者の二人が何があったか訪ねた。


「私!……天の魔女だった!」


「「………………はぁ!?」」

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