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畑とお酒と天の魔女  作者: 絵狐
一章 畑とお酒と天の魔女
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第4話 王国へ

 ゼオラが野菜の芽かきをしたり泥人形に指示を出したりしていると話が終わった様でクリエスたちがやって来た。


 これからどうするのかと尋ねると思い詰めた様な表情で提案をする。


「アーゼ殿。私達と一緒にジウロ王国に来て頂けませんか?」


 その提案に悩む素振りなどは一切見せずにゼオラははっきりと答える。絶対に嫌と。


「嫌なのは嫌だけど……どうして私に着いてこいって話になったの?」


「アーゼ殿の姿が私達が聞いていた天の魔女と同じ事やここに住んでることです。私は貴女が天の魔女とは別人と到底思えません」


「お姉さん美人だとは思うけど似たような人はいると思うけどなー」


 ゼオラの台詞を無視してクリエスは続ける。ゼオラが天の魔女を名乗り私達に手を貸して欲しい事。もしくは天の魔女はいなかったが別の魔女がいた為に話をつけて手を貸してもらう事になった事。その二つを提案された。


「私もそこそこ戦えるけど絶対に嫌。私にメリットが一つも無い」


「メリットならあります。第三とは言え私も王女であり王族。戦争に参加してもらえるのであれば褒美はいくらでも払いますし地位や名誉も思いのまま。それこそ戦いに勝てれば広大な土地も手に入ります」


「地位や名誉を植えて実る物は嫉妬と恨みかな。まぁー……馬鹿にする訳じゃないけど自分達が蒔いた種が今の国を作ったのだからある程度は仕方ないと思わないとね」


「確かに私のミスで戦いが始まりそうですが……」


 自分のミスを思い出し落ち込むクリエスにそうじゃないと話を続ける。


 種は蒔いてすぐ芽が出ない。国が歴史という形で土を作る。戦いや外交という形で畝を作って種を蒔きようやく芽が出てくる。


 花や野菜と言った物の様にはじめから植える物を決めているならまだしも、何の種を植えたと分からなければどんな芽が出て花が咲き実がなるかは分からない物である。


 ジウロ王国の歴史をみれば戦いという形ばかりの種を植えているのでそういう芽が出るのは当たり前の事だった。ただ戦いが無いという国は存在しないので難しくはあった。


「戦いから生まれた国でずっと戦ってるからあなたが元凶って訳でもないわよ。遅かれ早かれ今のようになってたと思うわ」


「……そうかも知れません。ですが国や民の事を考えるとこのままで良い事はありません。ゼオラ殿もう一度言います。私達と一緒に来ていただけませんか?」


「やった事の責任はそいつが取らなくては良いとは思うけど誰かが取らないと駄目だとは思うからね。あとは仮に戦争に参加して私と無関係だった人を殺すのも嫌だし。喧嘩売ってきたり畑を荒らしたら問答無用だけども」


 そんな砕けた感じのゼオラに護衛に来ていた者達は何も言わなかった。騎士にしろ魔法使いにしろ自分達では絶対に勝てないと悟った為に余計な事を言って自身が守るべき姫を危険にさらす事は避けたからだ。


 ここでゼオラを襲い言う事を聞かせるなどと言う事は不可能な話であり、それができる者がいるのであればその者を戦いに行かせれば良いだけの話だったのでこれ以上の説得は不可能とクリエスは考えた。


「…………わかりましたアーゼ殿。話だけでも聞いて頂きありがとう」


「どういたしまして。ひっさしぶりにここに来た人でまともな人って見たから気をつけて帰ってね」


 クリエスとその護衛はもう一度ゼオラに頭を下げてからまた黒い森へと向かっていった。


「……姫様。よろしかったのですか?私はあの者が天の魔女の様に思えますが……」


「私もそう思うがどうしようもない。元より断られれば私達に切れるカードはない。天の魔女ならば魔導師の最上位という地位や名誉もある。広大な土地が欲しいとなれば国に交渉するか滅ぼせば手に入る。手に入らない物はないだろうな」


「……その様な者は何を欲しがるものなのでしょうか?」


「さぁな。全てを手に入れたからここに住んでいるのかもしれないな。さてと……もうすぐ森に入る。お前達……すまなかったな」


「元より覚悟の上にございます。贅沢を言うならば天の魔女と戦って見たかったというのはありますな」


「戻って挑んでくるか?」


「森を抜ける方が楽なのでやめておきます」


 そんな死地に向かう者達をゼオラは眺めていた。


「君達のご先祖様が滅ぼした国から避難してきた人達がその森で村を作ったとか想像もしないんでしょうね。まぁ自分達の番が来たと思ってがんばんなさい……さてとそろそろ種まきしたいから耕さないとだめね」


 送って行ってあげても良かったなと少し思った後に農具などを置いてある納屋に数体の泥人形を連れて向かった。


 ゼオラの納屋は異常だ。小屋自体はどこにでもあるようなこぢんまりいたような物だが中にある物、特に農具に関してはその異常さが際だっていた。


 形は鍬や鎌と言った物の形をしているが金属があしらわれている部分がおかしかった。オリハルコンやメテオライト、ヒヒイロカネやアダマンタイトといった超希少金属や竜の素材で農具が作られていた。


 他国、先程のジウロ王国が国宝とする剣や鎧といった物はヒヒイロカネやアダマンタイトといった物で作られ厳重に保管され有事の際にはその力を遺憾なく発揮される金属だ。


 そんな金属で作られた農具がゼオラの納屋にはたくさんあった。飾りや趣味で集めているわけではなく用途に合わせて使い分けている為に土が付いたりと少し汚れていた。


 泥人形が鍬やスコップ等を手に取り先に納屋から出て行きゼオラは別の物を探していた。


「肥料がない……こやしがほしい」


 今から買いに行くにしても少し面倒だし森に入って適当な魔獣を肥料にするのも少し煩わしいと考えていると人の怒号のような声が聞こえた後に地響きと共に獣の声が聞こえた。


 この辺りの主はゼオラなのでめったな事では魔獣などが入ってくる事が無いので珍しいな思い納屋から外にでる。


 すると……先ほど分かれたクリエス達がゼオラの家より大きな熊であろう魔獣に追われ戦いながら家の方に後退していた。


「ちょっと大きすぎるけどあれでいいか。どうせその内使うし」と呟くと近くにいた泥人形達は頷き、クリエス達はゼオラに気がつき援護を願った。


「アーゼ殿!こちらに呼び込んだ形になってすまない!ご助力願えないだろうか!」


 嫌って言ったら面白いだろうなーと笑う。そしてその細い指を魔獣に向けると時が止まったかのようにその場に貼り付けられる。


 魔獣はようやくここが誰の縄張りだったのかを思い出すが時すでに遅く逃げる事ましてや動く事すらできなかった。


「崩壊」


 一言、本当に一言だけ発すると魔獣の体はボロボロと崩れ始めすぐに毛や骨と言った物も何だったか分からない土のような物ができあがった。


 そしてゼオラが泥人形に指示を出すと数体がその塊を体に取り込み自分達の体の土と混ぜ合わせ始めた。


「もうちょっと置いておいたら良い肥料になるでしょう」


 その光景を見たクリエス達は言葉を無くし唖然する。その魔法の事を師から聞いていた魔法使いがようやく口を開く。


「てっ天の魔法……やはり貴女が天の魔女であられたか……」


「はぁ?この魔法を見た事あるの?……って言うか私は人に向かって撃った事はそんなにないわよ」


 少し怯える魔法使いは自信の師である空の魔導師が天の魔女と敵対した時の今の魔法を使ったとゼオラに話した。


 その話を聞くとどう聞いてもゼオラが使った魔法と酷似していた。ゼオラの使った魔法は一般的に使われる魔法とは少し違う。いくら伝説に残る様な魔導師や魔女であっても使えないだろう思われるオリジナルの魔法だった。教えれば別だが見て同じ様に再現するにはとても不可能だった。


「う~ん。記憶に無い……その空の魔導師は六人でパーティー組んで天の魔女と戦ったのよね?」


「はい。戦ったと言うよりは一方的にやられたとおしゃっていました。今は二代目になられていますので初代様の記憶とは違いがあるかも知れません」


 う~ん。と腕を組みゼオラは悩む。助けてもらった礼もクリエス達は言いたかったが邪魔するのも不味いとタイミングを待っていた。


 ようやく思いついたのかゼオラは手をポンっと叩いた。


「もしかして……畑荒らし六人衆の事かな?あいつらならボッコボコにして『崩壊』を使った数少ない人間だし……う~ん。でも魔導師って言うレベルじゃなかった様な……クリエスってジウロ王国の王女だったわよね?」


 急に話を振られて少し驚いたが第三位ではあるがれっきとした王族と伝えた。


「……だったらジウロ王国まで送ってあげるからその空の魔導師に会えない?二代目とはいえ魔力とかは受け継いでるだろうから見て話せば分かると思う」


「会えるとは思いますが……ソルニー・スライ様もご多忙の身ですので数日はかかるかも知れません」


「一日二日ぐらいなら良いけどそれ以上なら権力使ってなんとかしなさい。いま助けてあげたでしょ!」


 自身や部下の命を天秤にかけられるとどうしようもないので護衛達は苦笑しクリエスは諦めた様に返事をする。そして少し思い出した事があるので質問しようとするがゼオラは目をつむっていた。


「アーゼ殿?」


「あったあった。流石に城の中に飛ぶのは不味いわね。どの辺がいい?街の外に大きな橋があるけど……その辺?関所っぽいけど」


 クリエスが住んでいる都市には城がありその周りを囲う様に街が広がっていた。そしてその街に入るには関所を通り通行料を払わなければ駄目だった。自身がここに来る時にも通った関所の事を思い出し質問する。


「アーゼ殿はジウロ王国に行った事があるのですか?」


「ない。で?飛ぶのはここでいいいの?」


「はい。私が想像している場所であれば大丈夫ですが……この辺りは転移できな……い!?」


 転移ができるなら転移して先ほどの魔獣から逃げていると思った頃には一瞬で景色が切り替わっていた。


「こっここは!?」


「ジウロ王国近くの検問所のはず。来た事はないから確認して。あってるとは思うけど」


 クリエスは大慌てで護衛達に指示を出し確認させると関所にはジウロ王国の旗が立ち、天の魔女の元に向かう為に通った関所だった。

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