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畑とお酒と天の魔女  作者: 絵狐
一章 畑とお酒と天の魔女
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第3話 王国からの使者

 ゼオラがよく酒を飲みに来る村は他の都市や村などからは人が住める限界点と言われ、最果ての村や果ての村などと呼ばれる事が多い。もちろん村にもちゃんとした名前があったりもするが場所が場所だけに村の名前を覚えて帰る人は少ない。


 そんな村から南西に位置する場所にジウロ王国という国がある。生まれてまだ二百年のにも満たない国だが着々と領土を広げ大きな国になっていった。


 歴代の国王が有能だったと言うのもあるが国にいる者達の戦闘能力の高さが一番の理由だろう。剣士であればその剣はたやすく岩をも断ち魔法使いであればその魔法はたやすく空を割った。


 その中でも強さの筆頭に上げられる者がいる。それは数百年前に天の魔女とも戦った事もあり六星魔の一人でもある空の魔導師ソルニー・スライという者だ。


 数百年前に天の魔女と戦った者とは別人で二代目という形にはなるがその実力は初代空の魔導師を倒し全てを受け継いだ弟子だった。


 その者が率いる魔法兵団の恐ろしさは他の国にも伝わっており一つの抑止力になっている程だった。


 そんな国だったが領土を広げいらぬ恨みを買い長い時間をかけてようやくツケを払わなければいけない時が来てしまった。その為に何処の国の支配下でもない果ての村を通り、天の魔女と思われる人物に会う為に命を払って森を抜けようとする者達がいた。


「姫様!ようやく森の切れ目が見えて来ました」


「わかりました。もうすぐですね……」


 その者達はジウロ王国の第三王女とその護衛だった。社交界でミスをして王国のさらに南にある最大の魔法国家と関係が悪化し、戦争が始まろうとしていた為に国王から原因を作った第三王女が天の魔女の力を借りよと王命が下ったのだ。


 領土内であれば王命とし城に呼べば話も早い訳だが、何処の地域にも属さない誰にも従っていない者には意味は無いので王女はため息をつく。


 五十人近くいた護衛の騎士や魔導師は自分を含めて六人まで減り、乗っていた馬車は破壊され連れていた馬なども喰われてしまった。王女という立ち位置ではあったが戦闘国家なので王女と言えども鎧をきて兵を指揮し戦場に出る事もあった。その為に体力だけはあったので着替えに持って来たドレスなどは森に捨て身軽な軽装に身を包み険しい森を進んでいく。


「しかし……姫様。このような所に天の魔女がいるのでしょうか?仮にいたとしてもかなりのご老体かと……」


「そうかも知れないしそうじゃないかも知れない。陛下からの王命であるならば向かう以外の選択肢は存在しません」


 ようやく山を抜けると美しい草原地帯が広がっていた。先ほどまでの森の中が嘘の様に気持ちの良い風が吹き抜ける。


 そして大昔から人が近寄ってはいけないとされている、天へとつながる山の麓に小さな家がありその周りを大きな畑が囲っていた。


 そこには人より小さく土でできた体の所々に苔が生えた泥人が畑を見回っていた。目が付く所と言えばそれぐらいで王国にある農村とそんなに変わらない畑だった。ただ植えてある物に関しては王女とその護衛と言うこともあり見当が付かない物ばかりだった。


 物珍しい物などはなく進んでいき目的である一軒家にたどり着きドアをノックし呼びかける。


「すまない。ここは天の魔女の住まいか。私は王国からクリエス・ジウロという者だ。どうか話を聞いて頂きたい!」


 家の中で人が動く気配があった後にゆっくりと扉が開かれる。


 そこに現れたの白い髪だが光の当たり方によっては薄い金色にも見える美しく長い髪と、空より遙か遠くを写しそれを切り取ったような綺麗な瞳に白を基調としたローブに身を包んだ二十代前半と思われる女性が現れた。


 その美しさに護衛の男達は息をのみ同じ女性であった第三王女クリエスですら言葉を忘れた。


 互いに少しの沈黙があったとにその女が言葉を発する。


「どっちらさん?」


 その言葉で我に返った王女と名乗った人物はもう一度自己紹介を始める。


「私はジウロ王国からき来た者でクリエス・ジウロと言います。貴女が天の魔女ゼオラ殿であられるか?」


 少し考えるような仕草をした後に女は答える。


「ゼオラは私だけども……天の魔女とは?聞いた事はあるけど名乗った覚えはないし人違いでは?」


「いえ。この場所に家があり聞いた通りの姿に私は天の魔女殿だと確信しました」


「んー……まぁ。君らも来たばっかりだしそれについて話を聞かせて。たぶん人違いだと思うけど」

 

 少しめんどくさそうにそう言って指を下から上にクンッと上げると地面が盛り上がりその場にテーブルや椅子といった物が瞬時に現れ王女やその護衛達を驚かせた。そしてゼオラがそこに座ると家の中からティーポットにお茶を入れた泥人形が現れ話の準備をする。


 護衛の者が座る訳にはいかないのでクリエスが座り話が始まった。


 この場所や天の魔女の事は空の魔導師に聞いた事。ジウロ王国の現在の状況。自分がミスをして魔法国家ラグワと戦争に発展しそうな事。戦いになった時に王国側につき共に戦って欲しい事。共に戦ってくれれば褒章は思いのままだとクリエスは必死に伝えた。自身は王女という立場ではあるがこの国の為を思ってきているのでどうか助けてほしいと……


 その話を聞いてゼオラは勘違いだと言う事も分かったが……つまらなさそうに心の中でため息をつく。


(戦争を避ける為の抑止力になって欲しいって話ならまだしもなんだけど……うーん。さすがは戦争国家)


「急がせて申し訳ありませんが……天の魔女殿の返答を聞きたい」


「……まずは勘違いから正そうか」


「……勘違いと言いますと?」


「私の名前はゼオラ・ゼ・アーゼ。名前だけは天の魔女さんと一緒。ゼオラなんて名前はよくいるから村にも二人いる。ここまでおk?」


「はい」


「魔法と魔術を極めた者の事を魔導師って呼ぶはずなんだけど……私が生まれてからそこまで高見に上った人はほとんど見た事がないし、六人が組んで私と戦ったという記憶もない。私はお酒が好きでよく飲んで記憶が飛ぶけども流石に出会った魔導師は全部覚えてる。そしてその覚えてる魔導師の中にソルティー・ライチとか言う魔導師は知らない」


「空のソルニー・スライ様です」


「ごめんごめん。空って事だから空の魔法とか空の魔術とか使う訳でしょ?私も攻撃は似たようなの使うから系統が似てる魔法使いとか魔術師がいたら覚えてると思うんだけど……まじで記憶にない」


 勘違いかと護衛の騎士はうろたえ始めるが、生き残った魔法使いはゼオラが先ほど魔法でテーブルを作った時の魔力の発生はそこにテーブルが現れるまで魔力の動きを感知できなかったと言った。そんな事ができるのは本当にごく一部の者で自身の師でもある空の魔導師にもできないとの事だった。


「う~ん。若い時は戦いまくってたけど……記憶にない。その空の魔導師さんが天の魔女さんと戦ったのっていつの話?」


 魔法使いにそう尋ねると少し考えた後に答える。


「私の師である空の魔導師は二代目ではありますが魔術により全てを受け継いでいるので、師に間違いがなければ天の魔女様と戦ったのが約四百年ほど前だったと聞いています」


 六百飛んで二十一歳のゼオラは自身の体に魔力を巡らせ古い記憶に呼びかける。確かにその年代あたりのゼオラは世界の全てを知ろうとあちこちを周り喧嘩を売られれば魔獣、人、竜、問わずに戦っていたが……本当に空の魔法を使う者や六星魔と呼ばれるような魔導師とは戦った事、いや出会った事すらなかった。


 

 その事を丁寧に伝えるとクリエス達はかなり動揺し明らかに肩を落としていた。


「まぁ……そこの森ってかなり広いからどこか別の場所に天の魔女さんはいるんじゃない?伝説になるほどの魔導師なら森の魔物程度じゃ相手にならないから住みやすいと思うから探してみれば?」


 帰りは仕方ないが流石に護衛のほとんどを失うような森には入って行きたくないとクリエスは首を振った。


 ゼオラが嘘を言っていないのであれば別人だと思えたが……聞いていた姿にうり二つな事、先ほどの見事としか言えない魔力操作、そして何より危険な場所を抜けてこんな辺鄙な所に住んでいる事が天の魔女本人と言っている様な物だった。


「私はまだアーゼ殿が天の魔女ではないかと思っている。貴女の様な実力者が無名と言うのはおかしすぎる」


「王族からしたら無名だろうけどそこまで無名って事もないよ。たまに畑の相談とか他国から来るし、そこの畑の薬草とか買いに来る薬師とかいるし、世界の事を聞きに来る学者もいるね。長生きだけはしてるから」


「……」


「まぁ……私は嘘は言ってないし。隠れてるって訳でもないけど表にでない実力者って結構いるよ。死糸のワイゼとか騒風のロスティーとか聞いた事ないでしょ?」


「……はい。初めて聞きました」


「まぁ。そんな訳で私はゼオラではあるけれど天の魔女ではないね。畑の魔女ではあるけれども」


 勘違いで無いはずだったがゼオラが嘘を言っている様にも思えなかった。ただここに来るまでに無くした物の多さにクリエス達は顔を青くしその場で頭を抱えた。


 そしてまずはゼオラに礼を言ってから、これからどうするかを話し合いたいのでこの場所にいさせて欲しいと頼んだ。


 流石にゼオラも善人では無いが追い返す程の理由もないので畑や家に悪さをしないのであれば良しと伝えた。


 もう一度クリエスはゼオラに礼をいい残った者達でこれからどうするか? という話し合いが始まった。


 ゼオラは自分がいてできる事もないので静かにその場を離れて畑の方へと向かった。


 そしてその道中で六人という数が大昔に畑を荒らした馬鹿共の数と同じという事を思いだし小さく笑った。

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