第23話 蜂の巣穴
発信器をつけた家畜が消え再度、魔導タブレットに表示された場所は元の場所よりとてつもなく離れた場所でギリギリ国内と場所だった。
「この距離を一瞬で移動するってなると……やっぱりメタスホーネットね。前に行った巣の蜂が減ってたのがこっちに来たのかしらね」
「それで……アーゼ様どうしますか?私の記憶が正しければこの辺りは何もなく私達も行った事は無いので転移するのは難しいと思います……」
不安そうなリロリーにある程度の位置と方角さえ分かればなんとかなると言ってゼオラは目を瞑った。
「その地図が正確ってのが大前提だけどね」
「……二代目地の魔導師が制作した地図と言われていますので大丈夫だとは思います」
ゼオラがリロリーと話をしているのを見てルギスは二人が戻ってくるまで話していた地の魔導師の事を思い出していた。
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「……しっかし先生ってどうやって人の気配とか見てるんでしょうね?畑を上から見る魔法って見るだけで気配とか魔力は見えないんですけども……」
ルギスがそんな事を考えているとノックがあった後に護衛の者を引き連れた地の魔導師がやって来た。
「ようこそロキアス様。今日はどういったご用件ですか?」
「……前に来た時にも少し思ったけど、どうして私が来るのが分かってる様な雰囲気なのですか?」
「私の先生に誰か来るって教えてもらいましたので。ちなみに先生はリロちゃん先輩と買い物に行っています」
「……貴女の先生がどういう人かは知りませんが、並の者に魔導師の気配を探る事はできませんよ」
「私の先先は並ではなくて大盛り……いえ特盛りなので」
この娘のペースに巻き込まれると話にならないとロキアスは大きくため息をつく。そしてルギスにまた軍から勧誘があった事と法農省で新しく決定された事を伝えた。
「軍に関してはお断りなのでどうでも良いですけど……来賓ですか?」
「はい。まだ先の話になりますがエルフェス達の国の女王が世代交代したとの事を伝えにやってきます。国に仕える者は全員出る式典となりますので貴女も出る事とその事をリロリーに伝えてください」
ルギスが了解ですと返事をすると用事は終わったと言わんばかりにロキアスが小屋から出て行こうとするので呼び止め質問する。
「めっちゃ個人的な質問なんですけど……シャリーを探しに行かないんですか?妹さんですよね?」
その質問に答える必要は無かったがロキアスは振り返り答える。
「そうですね妹です。が、彼女は周りの反対を押し切り冒険者となりました。自己責任とまでは言いませんがそれなりの覚悟はあるでしょう」
「……なるほど」
「それに冒険者には冒険者の動き方があるでしょう。たかが数日戻ってこないだけで私自ら動くのは過保護かと思いますが?」
そんな事を言ってるからリロちゃん先輩に妹を寝取られるんやぞ? ともう少しで声に出しそうになった所だったが気合いでそれを飲み込み会話を止める。ロキアスの方もこれ以上は話す気も無かった様ですぐに小屋をでて他の農地へと向かっていった。
「まぁ……先生がサクッと解決しそうなんで何でも良いですけども」
◆
そんなくだらない会話を思い出しながらルギスは目の前にいる世界最強と言われる天の魔女を見ると閉じられていた瞳はゆっくりと開かれ見つけたと呟いた。
「よぉし!巣があった。流石は私ね!よく見つけたという訳で乗り込むわよ」
「「はい!?」」
どの辺にあったのか? とか持って行く物とか聞きたい事は山ほどあったがそれを聞く前にリロリーとルギスの世界が一瞬で切り替わり何処かの少し拓けた森の中へ転移した。
三人の目の前には大きな穴があり数匹の大きな蜂と思われる魔獣は急に目の前に現れた人間にすぐ戦闘態勢に入る。
「先生の判断が速い!魔獣の行動も速い!なんかもう色々クライマックス!」
「さっ……さっきまで農場の小屋にいたのに!」
「別に良いとは思うけど……シャリーを助けに来たのになんでそう楽しそうなのよ。あなた達は」
「「全然楽しそうじゃないです!」」
魔物が目の前にいたがこちらには世界最強と言われる天の魔女がいるので少しだけ警戒を解き二人は何度か深呼吸をして呼吸を整える。
ようやく呼吸が落ち着き大きな蜂の魔物に怯えながらもリロリーはゼオラに質問する。
「ここが……巣ですか?ここにシャリーが?」
「こいつらがメタスホーネットね。まぁ雑魚とは言わないけど倒すにしては数が多いし面倒事も多いからさっさとシャリーを助けにいくわよ」
妹を心配するリロリーは頷き、ゼオラが先陣を切って巣の中に入っていったので二人は慌てて後を追った。
ルギスとリロリーは初めて見る魔物の巣の中は想像以上に広く三人が歩いても狭いと感じる事は無いほどだった。
そしてさらに不思議な事に蜂の魔物達もこちらを警戒してはいるがまるでその場に打ち付けられた様に固定された様にその場にとどまっていた。
「魔物が襲ってこない……様子を見てるの?でも普通、巣に入ったら攻撃して来るような……」
「リロちゃん先輩それはあれですよ。天の魔女様やぞ!オラッ!みたいな感じで先生のご威光にびびって襲ってこないんですよ」
二人のやりとりにゼオラはため息をついた後に指をパチンと鳴らす。すると真上にいた蜂が動き出しすぐにルギスめがけて襲いかかった。
その速度にルギスは全く反応出来ずその顎が細い首をかみ切ろうとする直前でもう一度、動きが止まりその場に固定された。
あまりの出来事にルギスは驚きの声も上げずにその場で尻餅をつく。
「こないだの畑で倒したまんだらけと同じ。私が空間を固定して止めてあるだけ。解除したら今みたいに襲ってくるわよ」
「うっ動きがまったく見えなかった……私が知ってる魔物と違う……」
「先生……お願いですから。マジでびびらすの止めてください」
「漏らしたらノーパンでいいじゃない。別に蜂ぐらいしかいないしパンツはかなくても死にはしないわよ」
「漏らしてません!」
今の技を見ても態度を変えない後輩はきっと馬鹿なんだろうとリロリーは心の中でゼオラに再度感謝しルギスをさらに馬鹿にした。
もっと浅いと思っていた大穴は思った以上に深く迷路の様になっていた。ゼオラの魔法で固定してあるとは言え大量の魔物がいる暗い巣の中を歩くのはとても気味が悪かった。
「蜂蜜取った巣から巣分かれしたみたいね。向こうの巣で見かけた蜂もいるし」
「蜂の巣に蜂蜜取りに行くって……先生ってやっぱり熊ですね」
「がおー!……いま決めた。シャリーとケイル連れて帰る時は代わりにルギスを置いて帰る」
魔物の巣で緊張感無く歩く二人を見てリロリーは質問する。見たこと蜂がいるとは言っていたが所詮は魔物。どうして倒さないのかと? 魔物を倒せば素材としても使えるし魔石も手に入る。自身が見た事はなかったが目の前の蜂もかなりの力を持った魔物だというのは分かるからだ。
その質問にゼオラは歩きながら答える。
それは知っている蜂とかだからとかではなく倒す事で面倒な事が増える魔物もいるからと言うだけの話だった。
「共生って知ってる?この蜂はね菌類と一緒に生きてるの」
「はい。知ってますけど菌類ですか?」
「じゃあ話は早いわね。で今いったみたいにこの蜂はキノコとかそう言うのと共生してて蜂を倒すとキノコに体を渡して倒した体に一気にキノコが生えるの。だから素材としても全く使えないし魔石を持ってたとしてもそれを栄養にキノコが増えるだけなのよね」
「なるほど……だから倒さないんですね」
「それもあるけど割と普通にそのキノコが猛毒だからで人にも普通に寄生するからむやみに殺さない方がいいって話。まぁ火には弱いから倒したあとすぐに焼けば良いんだけど……洞窟で火使いたい?」
「遠慮します……でもそんな危ない菌があるなら農場付近にも菌が残っているのでは?」
「詳しく調べた訳じゃないけど……蜂が殺されたってのがキノコが活性化するポイントみたい。寿命で死んだ蜂を見たことあるけどそれは普通に他の蜂が餌として持って帰ってキノコは生えてなかったからね」
なるほど……とリロリーが納得しているルギスが思った事を口にする。蜂であるなら女王蜂がいるはずだからそれを倒すとどうなるのかと?
「昔、幹で女王が倒された巣は中が菌まみれになってたわ。それで他のもっと厄介なのが巣に住み始めたわね。まぁ今回はシャリーとケイル助けるだけだから余計な事はしないし助けたらさっさと帰るわよ」
「え?この巣を残しとくとまた蜂が農場に現れません?」
「来るかも知れないけどどうして私が倒さないと行けないのよ。帝国の領地でしょうが帝国の人がなんとかしない。私はシャリーを助けてくれって頼まれただけなんだけど?」
「……それもそうですね!帝国には地の魔導師様やぞ!オラッ!ってロキアス様とか高ランクの冒険者の方に行ってもらいましょう」
「というか管理は難しいけどすっごい美味しい蜂蜜とか薬になるキノコとか採れるから国が管理したら良いんじゃない?この蜂ってルギスより賢いから人の顔とか普通に覚えるわよ」
「またまたー流石の私も蜂よりは賢いですよ。ねーリロちゃん先輩」
「いやー……後輩を応援したい所だけどどう見ても蜂の方が賢そうにしか見えない。あなた絶対に馬鹿だし」
「よぉし!その喧嘩かった!」
人の巣で何をやっているのだろうと固められている蜂達が考えているだろうとは露知らず山三人は迷路な巣穴を下へ下へと下っていく。
巣全体の空間を固定してある為に全ての魔物は動く事はなかったが羽のない蜂がいたり、他の蜂に比べ姿も大きく戦闘に特化した兵隊蜂達も現れ始める。
その魔物達に先ほどまでうるさかったルギスとリロリーも恐怖を覚えはじめ一言も話さなくなっていった。
シャリーの安否、魔物達の恐怖と心身にかなりの不可がかかり歩くのも辛くなってきた頃、ようやく目的の場所にたどり着いた様でゼオラがここねと言って中に入って行った。
「二人はそこで待ってていいわよ。中に吊されるてるのって餌になった物の肉団子だから見慣れないと普通に気持ち悪いわよ」
そうは言われてもそうなってしまった妹を連れて帰ってあげたいのでリロリーは意を決してついて行くことにする。
「根性あるはね。まぁ何かわからなければ綺麗なピンク色してるから上さえ見なければ問題ないわ」
そこに肉団子にされた妹が吊られているのでは? と思ったがリロリーもルギスも上を見ないように妙に生暖かい部屋の中へと入りゼオラの後について行く。
広く暗く変に生暖かい部屋をゼオラは壁に向かって歩いて行く。
ようやく壁際にたどり着くとそこの岩肌は周りと少しだけ色が変わっていた。
その色が変わっている岩にゼオラが蹴りを入れると中には空洞があり何かが動く気配があった。
「助けに来たわよ。二人とも無事な様子で何より」