第22話 行方不明の妹
リロリーのから連絡を受けて自分には関係ないと無視する事も考えたが、畑をいじったりする者であり魔法を扱う者同士でもあったので、この縁はここで切らない方がいいなとゼオラは考え今から行くからどこにいるのかと尋ねる。
すると前に行った農場にある小屋にいて今はルギスしかいない言ったがもしもの事を考えて前に買った装備に着替え髪の色も深い青に変えてからすぐに転移した。
「すぐに来てくれると言っていたけど……来てもらっていいのだろうか?」
「先生は嫌だったら絶対に嫌って言うので大丈夫ですよ」
「う~ん……冒険者ならともかく伝説の人物に……妹はただ単に迷ってるだけのような気もするし」
「天の魔女ですけど……酒癖の悪いお姉さんですからね先生は。というかここに飛んだら密入国になるのでは?関所通ってないですし」
ゼオラが転移した先はルギスとリロリーの背後だった。音も気配もなく転移したので二人は背後にいる者に全く気づいていなかった。
そんな二人を驚かす様にゼオラはルギスの頭にチョップを入れる。
「誰が密入国か……まぁ密入国だけども!急ぎじゃなかったら帰るわよ。霧吹きで虫除けの薬まいたり忙しいんだから」
「いたっ!」
「うわっ!びっくりした!」
急に現れたゼオラにルギスは頭をさすって驚きリロリーはその場から飛び引くように距離を取った。
そして驚く二人が少し落ち着くのを待ってから何があったのかをリロリーに訪ねる。すると数日前に家畜がいなくなった事の調査を冒険者ギルドに依頼し、その調査を受けたのが妹のシャリーとケイルのパーティーだった。
数日かけて原因を突き止めてもらう依頼だったのだが冒険者ギルドにも戻っておらず家に帰らずきえてしまったかのようにいなくなったしまった。
「なるほどね。じゃあまずは家畜小屋の方に行ってみましょうか。何か手がかりあるかもしれないし」
分かりましたと返事をしリロリーを先頭に三人は家畜小屋へと向かった。歩きながら詳しく話を聞くといなくなったのが二日ほど前で自分達も家畜小屋を調べたが何も分からなかったと伝えた。
「それで……冒険者ギルドの方にも戻ってこないと伝えたんですが……たまにそういう事もあるからと門前払いで……遠くに行く任務ならまだしも近場ですよ?盗賊にさらわれたとかも十分にあり得るとおもいまして……」
「補足ですけど城壁内は結界があるので先生いがいは許可が無いと転移できないんですよ。それで先生なら分かるかとお呼びした訳でして……青い髪もよく似合ってますよ!」
「はいはい。褒めるのが遅い。……一応は簡単に魔法で探したけど空が映る所にはいないわね。建物の中か洞窟の中か……リロリー。先に言っておくどけ覚悟はしておきなさいね」
「ん?というか先生どうやってそれが分かったんです?」
「そういう魔法もあるって事よ。私の場合は長距離だと空がない所だと探せないからね。前にリロリーに会いに来た時は今と同じ様に探して来たのよ」
「……妹も冒険者の端くれなのでもしもの時は覚悟しています」
「なら私からは言う事はないわね」
「大丈夫ですよリロちゃん先輩。シャリーは優秀ですから何処かで無事ですよ」
三人は試験的に飼われている家畜がいる小屋にたどり着く。そこは牛の乳を搾ったり、隣の小屋では品種改良された豚が試験的に育てられている小屋がたくさんある一角だった。
そしてリロリーに柵が壊され家畜が消えた場所へと案内された。
「ここが家畜が消えた場所になります。柵などを壊したままにしておくと逃げるのでもう修理していますが……」
「って事はシャリー達もこの辺の調査をして消えたって事?」
「はい。ですけど依頼には原因の究明と書いたのでここを拠点に森の方に行ったのかも知れません」
なるほどねーと返事をして辺りを調べていく。ゼオラが調べた辺りはルギスもリロリーも調べ何も出てこなかった場所だったが二人は何も言わずに黙っていた。
「……ふむ。まぁ本職がみて分からないのに私が見てもわからないか」
「えぇ……ゼオラ先生なら一発で分かるかと思ったのに分からないんですか」
「超攻撃特化魔導師舐めんな。修理したって事は壊された柵の廃材とかも残ってないんでしょ?」
「はい。力のある家畜が壊したとその時は思ってましたので……」
犯人を見つける役に立ったかも知れない物を捨ててしまって落ち込むリロリーをしゃーないと慰めて腕を組んで少し考える。
考えるふりをしているだけだがゼオラにはこの犯人に少し目星がついていた。冒険者の様な本職が何も見つけず消えた事。足跡が残ってないこと。誰かしらいる様な農場で誰にも見られていない事。
簡単に言えば空を飛んで餌を求める魔物という話になる。人の技術であれば足跡を消すことは簡単にできるが誰がやったか分かる様な柵を壊したりする様な事はたぶんしないので人と言う線はあまり無い。
メタスホーネット
ゼオラが目星をつけた犯人の名前だ。ゼオラが幹に行き蜂蜜を強奪する普通の蜂より遙かに巨大で戦闘力、機動力、団結力を持つ蜂の魔獣だ。その恐るべき能力は転移魔法を使えると言う事だ。
一度その場に行き危険の無いお気に入りの餌場があると他の蜂達を連れてそこに転移し餌を集め始める。危険があれば集団転移はせず単体で転移し少しずつ餌を集め狩り場の様子を見る。
シャリーとケイルも単体で現れた蜂と運悪く遭遇し餌として巣に運び込まれた可能性が高いとゼオラは考える。
「う~ん……相手が思ったとおりならそこまで脅威でもないけどどうやって巣穴を探すかなのよね」
「え?先生わかったんですか?」驚く二人にゼオラはメタスホーネットの事を教えた。
そんな魔物いるんですか? と二人は驚くがこの前食べたまんだらけの実の蜂蜜漬けがそれだと教えるとさらに二人は驚いた。
「……私は食べてませんけども」
「それはどうでもいいけど……アーゼ様どうするんですか?」
「悩み所。連中は一度狩り場にしたらちょくちょく見に来るから適当に豚とか牛とかおいとけばまた姿を現すんだけど……獲物捕まえると転移するから追えないのよね。巣穴の手前まで転移するから大雑把な方角までは私の魔法で追えるけど中に入られると追跡できないって話なのよ」
「なるほど……」
ゼオラが二人に広範囲に索敵できる様な魔法を使えないかと聞くが法農省という国で働くエリートだが二人ともゼオラの様に人外に両足突っ込んで人間やめている訳でもないので流石に無理だと答える。
ゼオラがどうしようか考え、リロリーは妹の救出が絶望的だと考えているとルギスが魔導タブレット取り出しこれですよと言った。
「国を出てたら無理ですけど!家畜の数を把握する発信器つければ追えますよ!」
「ルギス!ナイス!それよ!」
解決策が出て盛り上がる二人にゼオラはそれがどういう物か分からないので詳しく尋ねると魔導タブレットにはコプス帝国の領地の地図が入っていて今言った発信器をつければ帝国内であればその位置が表示されるとの事だった。
「そのピコピコそんな事できるのね……でもここにいた家畜にはその発信器つけてなかったの?」
「ここは試験的な場所なので付けてないんですよ。数を把握するのはつけてたんですけど、発信器の方も農村で放牧用に作られた物なので」
なるほどねーとゼオラは納得しその発信器の性能がどんな物なのかは分からなかったが、頼りになりそうな二人が言うのだから信用する事にしてメタスホーネットの巣穴を探す為の準備を始める。
「じゃあ後はメタスホーネットを釣るだけね。という訳でルギスは私と一緒に街に家畜を買いに行くわよ」
「え?買わなくてもここにたくさんいますよ?」
「あのね。試験的って事は国が管理してるって事なのよ。使ったら報告書にちゃんと書かないと駄目でしょ?あなた、その報告書にリロリーの妹を救出するのに家畜を数頭使って私の協力を得たとか書くつもり?」
「そりゃー書きますよ。私のお仕事なので。先生の威光を知らしめる様に詳細に書きますよ?天の魔女様に助けて貰ったんやぞ的な感じで」
「……ならば良し。ルギスに何かあっても私は絶対に助けない」
慌てて謝るルギスを無視してゼオラはリロリーの方を向き話しかける。
「ルギスは貴女達上司の対応。私とリロリーは家畜飼いにいくから案内して」
「?上司って誰ですか?」
「もちろん。地の魔導師さま。こっちに向かってるからね。私もいてもいいんだけど絶対に殴る自信ある」
殴るだけですめば良いなと考えるルギスの横でリロリーがそれも全然ありだという様な顔をし始めたのでルギスは慌ててゼオラとリロリーを小屋から追い出した。
「しんがりは私に任せてください!そういう訳で先生とリロちゃん先輩は家畜の方をよろしくおねがいします!」
はいはいとゼオラが返事をし街の方へと向かう。その道中で妹が助かる希望を持てた事で少し元気になったリーが話しかける。
「アーゼ様。ルギスを残して良かったんですか?絶対に変な事いいますよ?」
「まー言うだろうけど貴女が残るよりは良いでしょ?嫌いなんでしょ地の魔導師様が」
はいと小さく返事ををリロリーはゼオラに自身と地の魔導師の関係を話そうとする。
「聞いて欲しいなら聞くけど……だいたい分かるから良いわよ。シャリーにしても地の魔導師にしてもリロリーの腹違いの姉妹でしょ?」
ルギスにも言った事もなくあって間もないゼオラに秘密にしていた事がばれ、リロリーは驚き目を見開きゼオラを見た。
「この前の話で魔力をみれば大体分かるわよ。魔力も血みたいな物だからつながってると似てる所ってあるからね」
「そうなんですね……」
誰にも言わないわよとゼオラは笑った。
シャリーと地の魔導師が本当の姉妹で自身が二代目地の魔導師の隠し子だった。
その事が分かる前からも分かってからもリロリーは地の魔導師の事が嫌いだったが、今回シャリーが行方不明になった事が原因でリロリーと地の魔導師の仲は決定的になった。
「アーゼ様に愚痴を言っても仕方ないんですが……自分の妹が行方不明になったのに探そうとすらしないんですよ……アイツは」
「地の魔導師様がどういう人間かは知らないけど……まぁー魔導師って何かを犠牲にして強さを得てるから何処か欠落してるのよ。本当に嫌なら離れなさい何かあればあなたが死ぬわよ?」
「その時は一矢報いりますよ…………シャリーが戻って来たら法農省やめて冒険者になるのが良いかもしれませんね」
「田舎で良かったら果ての村なら仕事なんか山ほどあるわよ」
「ルギスが灯りもないとか言ってましたけど……どうなんです?果ての村って」
「あのガキは一回泣かす。ちゃんとあるわよ!」
リロリーの昔話を聞いた所でどうしようもないのでなるべく明るい方向に話を誘導していると目的の家畜などを売っている店にたどり着いた。
そこには様々な家畜などが売っていたので豚を数頭と普通の鶏より数倍大きく美味しい鶏を数羽ほどリロリーの支払いで購入した。
飼った家畜を連れてゼオラはすぐにシャリーが消えた辺りへと転移する。そしてリロリーに頼み家畜に発信器をつけてからルギスが待つ小屋へと戻った。
「先生。リロちゃん先輩。お帰りなさい。こっちは無難に対応しておきましたよ。特にたいした事は無かったです」
「まぁあなたが変な事言ってないって事はありえないから何でも良いわ。シャリーが消えた辺りに豚と大鶏を放しておいたからそのピコピコでチェックしといてね」
「ひどい!けど了解です!」
ルギスがビシッと敬礼するポーズをとった数時間後、発信器をつけた家畜が牧場から数頭が消え魔導タブレットに別の場所で反応があった。