第2話 畑の魔女
ゼオラが村の中を歩いて行くと村長の家が見えてきた。朝食を食べ終わり途中で犬と喧嘩して買ったパンを奪われたりして、ようやくという感じだった。
古くなった扉につけられている呼び鈴を鳴らし村長をよぶ。
「ゼオラだけど村長いる?」
はーいと返事があったあとに人の動く気配があり、杖をつき少し背の曲がった老人が出てきた。
「おはようございますアーゼ様。お忙しい所よくいらして下さいました」
「おはよう。そろそろ家の畑を耕したいとは思ってはいたけど大丈夫。お酒飲みに来たついでよ。……というか村長老けたわね。昔は若かったのに」
「もう七十過ぎのじじいですからね。というよりも昔は若かったは皆そうなのではないでしょうか?」
「……言われてみればそうね。まだお酒が残ってるわ」
二人は世間話をしながら村が開拓し少しずつ大きくしていった畑へと向かった。
長き時間を生きる魔女。ゼオラ・ゼーゼは善人と言う訳ではない。多少の我慢はするが気に入らない者が喧嘩を売ってきたりすれば問答無用で命を奪ったりもする。今より若い時はもっとひどかった訳だが……
そんなゼオラだがこの村。どこの国にも属していない危険な場所に開拓して作られた村を割と気に入っている。この村ができる数百年前に自身が関与した事も少しはあるが、この村の雰囲気というか色というかそういうのが気に入っていた。
その為に頼まれれば知識を与え、結界を張ったり、森で迷った人を探したり、疫病を治す薬を作ったりしていた。そんな事をしていたので村人や顔を知ってる商人等からは先生などと呼ばれたりもしている。
二人は村の畑へとやってくる。一般人からすれば広大な畑だが王国や帝国にあるような広大な農地と比べれば物足りない。そんな農地だった。
その農地は所々耕されており遠くでは農夫達が魔法や農具を使い収穫などの仕事をしていた。
「それで?私は何をすればいいの?まさかこの畑を吹っ飛ばして欲しいとは言わないでしょう?」
「やってくださいと頼めばできるんですか?と言う話になりますが言いませんよ。植え付けする作物について聞きたい事がありまして……」
同じ時期に植え付けているのに場所によって大きさ収穫量に差が出ている事。家畜用に飼料作物を植え事、王国や帝国に販売する為にどんな野菜を植えれば良いかと言う様な事を村長はゼオラに相談し始める。
「収穫量とか家畜用は分かるんだけど、都会というか商人に売るんでしょ?そう言うのって好みもあるから最近外に行かない私に聞いてもわからないでしょ」
「王国の商人が言うにはこの村の野菜はおいしいらしいので結構な高値で取引されるとの事です。貴族や上流階級の方々が好んで買うのだとか。それでアーゼ様の意見を聞こうと思いまして」
「あーあれか。王国って人が多いから魔法で野菜を育ててるっぽいから味が落ちてるパターンか」
「たぶんそうだと思います。王国の物を食べた事がありますが、かなり水っぽかったと言いますか味が薄かったといいますか……」
「どこかの国と戦ってばかりの国だから食べられれば良いって感じか。まぁ……どうでもいいけど」
王国は自分達が住んでる場所より南にある国だったがゼオラは本当に興味がなかった様で村長が始めに言っていた同じ時期に植えて収穫量に違いがあった畑へと向かった。
そして村長に何を植えていたかど質問をしながら収穫量が多かった畑の土を少し摘まみ口に含む。そしてすぐにベッっと吐き出す。さらに収穫量が少なかった畑の方も同じ様に口に土を含んだ後に吐き出した。
「あー……口の中がジャリジャリする。」
「申し訳ありません。それでアーゼ様。何か分かりましたか?」
「収穫量が多い方の畑は土に魔力がかなり溜まってる。たぶん耕す時に風とか土の魔法で耕してる。少ない方は手というか牛でも何でも良いけど魔法を使って耕してないのが幸いして魔力の含み具合も良い感じの畑になってる」
「そうなのですか?注意して記録しているのですが……どこか間違えていたのでしょうか」
「人のやることだし間違うでしょ。と言うかこの畑で魔法なしはどんだけ重労働なのよって話だから仕方ないわよ。収穫の時期とかぶる事もあるだろうし」
「確かに時期によっては忙しい時はあります。私ももう年ですから畑では仕事はできませんので……」
「まぁしゃーない。冬とかの貯蔵とかどうだった?足りてた?」
「はい。冷蔵関係の魔道具の性能も上がっていますので商人には売りつつも村には余裕がありました。ただ家畜用が少し足りなくなり数頭が死んだとは聞きました。」
なるほどねーと納得しながらゼオラは腕を組んで畑やそこで働く農夫を見ながら考える。そして少し悩んだ後に村長に提案する。
土に含む魔力量が多い畑には家畜用の飼料作物を植える事。魔力量が少なく良い感じに仕上がってる畑には販売用や人村人が食べる物を植える事。
土の中に魔力量が多いと作物が育つ速度はかなり速くなる。作物に植物育成の魔法をかけ育てると年に三回、四回など収穫できる程に作物はよく育つ。ただ先ほどゼオラと村長の会話にあった様に魔力を多く含んだ畑で育った作物の味は数段落ちる。栄養素等は多少の前後はあったりもするが味だけは本当に不味くなる。人と人との戦いがあり魔物やそれ以上の脅威がある世界で食べられるだけでもありがたい事なのだが……
だがそれ以上に問題な事が二つある。それは魔力を多く含んで育った土地で育った植物、作物は土から魔力を取り込み保有する魔力が多くなる。魔力が溜まっている土に気にせず植え付けを行っていると作物が魔物化し動物等を襲い出す事だった。
元が野菜なので能力的にはたいした事はないが、戦えない農夫にすればそれでも十分すぎる程に驚異となる。
そしてもう一つの問題はそれを食べ続けた家畜の魔獣化だ。作物の保有する魔力が高い状態で家畜など餌としてやり続けると体内に魔石が作られ魔獣化する。魔獣化すると基本的には凶暴化し他の家畜も襲い始める牛や馬と言った人より大きな動物が魔獣化すると一般人では本当に対処のしようがなく冒険者等に倒してもらうしかなくなる。
ちなみに人の場合は魔獣化する事はほとんどない。魔法や魔術といった物を使い体内に溜まった魔力を外に出す事ができる為だ。動植物でも魔力は溜まり続ける物ではない。糞尿や汗と言った物と同じように生きていれば入って来た魔力は少しずつでも排出される。出る量より入ってくる量が多いと体に異常をきたすといった具合だった。
そんな魔獣になる危険性があったのでゼオラが提案し案に村長は少しの不安を覚える。
「不安なのは分かるけど大丈夫よ。そこまで土の保有魔力は多くないし、ここの村のハンターってそこそこ強いから魔獣化しても倒せるわ」
「大丈夫でしょうか?」
「後は家畜を注意して見ておいて魔獣化しそうだっらささっと肉にして食べるか売るとかね。すぐに魔獣になるわけでもないし。豚なら牙が生え始めるし鶏なら羽とか足回りが大きくなるし……この村の牛は角は切ってあるけど角が生えて大きくなり始めるのが前兆だから」
「分かりました。農夫達と相談して決めようと思いますが何かあった時はよろしくお願いします」
「大丈夫よ。お姉さんを信じなさい。後は何でか知らんけど動物は保有魔力が多いとおいしくなるから魔獣化させて売るのも一つの手だとは思うわね。危ないけど」
「肉に関しては森が豊かなのでハンター達に任せた方が確実で安全ですから」
それから今年はどういう作物を植えるか等を話し合いようやく終わる頃には少しだったが日が傾き初めていた。
村長は長い時間相談に乗ってくれたゼオラに丁寧に頭を下げて礼を言った。
「気にしなくて良いわよ。私もたまには人付き合いしないとずっと籠もってる自信あるしね。私はこれから酒場に行くけど村長も一緒にいく?昔はよく一緒に朝まで飲んだでしょ」
「はっはっは。懐かしいですな。流石にもうじじぃですからね。孫が生まれてから酒はやめました。と言うよりもアーゼ様が先に酔い潰れるので朝まで飲んだ記憶はありませんな~」
「あーはいはい。どうせ私はお酒弱いですよー。じゃあ私は行くからなんかあったら適当に声かけて昔のよしみで元気だったら手伝ってあげるわ」
「アーゼ様。ありがとうございます。また何かあればよろしくお願いします」
そこで話は終わりゼオラが酒場に向かって歩き出した所で村長は少し思い出した事があり呼び止めた。それは数日前に王国からの使者がゼオラに会う為にやって来た事だった。
また? とゼオラは嫌そうな顔をしていつもの事かとため息を吐いたが、村長が言うのはいつもより兵士の数も馬車の数も多かったとの事。
「それいつぐらいの話?」
「三日ほど前の話になります。私もその内こちらに来るとは伝えたのですが急ぎの用事があるらしく聞きもしないで森に入って行きました」
「って事ならどんなに急いでもまだ五日はかかるだろうしほっとこ。だいたい私の所に来る奴は変な奴か頭おかしい奴か失礼な奴しかしないから死んで良し」
「馬車に描かれていた紋章は王国の物だったのでもしかしたら貴族かもしれません。アーゼ様なら大丈夫と思われますがお気をつけて」
「はい。ありがとっ。私よりそいつらを心配した方がいいわね。私んちに付くまでに半分以下になってるんじゃない?今日もその辺で魔獣が縄張り争いしてるし」
「私も若い時に行かせて頂いた事がありましたが……なかなかに大変な場所でしたね」
少し昔話をした後に村長は家に帰りゼオラは酒場へと向かったそして頼まれていた物を直してから店主におごってもらいまた意識がなくなるほど酒を楽しんだ。
そして約六日後に黒い森を抜けた山の麓にあるゼオラの家に王国から使者が数人だけやってきた。