第19話 また帝国へ
幹から戻った次の日。朝から畑に水をやって取ってきたまんだらけの実を蜂蜜で浸け瓶に入れたり、小さく切ってパウンドケーキをゼオラは作っていた。
実を使ってケーキを作ってみるのは初めての事だったので上手く行くかは分からなかったが焼き上がった匂いが鼻に届くと成功だと思われた。
一番出来が悪かった物を昼食代わりに食べる事にする。
焼く手間の事を考えれば蜂蜜をつけて食べる方が楽ではあったが、また作っても良いと思えるぐらいにはまんだらけの実を使ったパウンドケーキは大成功だった。
そんな事をしていると太陽が真上に昇ったのでそろそろコプス帝国に向かおうと考えたが先に村に寄って酒場の店主に樽一杯の蜂蜜を渡そうとすぐに村に飛んだ。
「うぉっ!」
酒場の前に飛ぶと店主が起きていて店の前に水をまいている所でもう少しでゼオラにかかる所だった。
「先生よ。いきなり転移してくんな」
「狙ったならまだしも水がかかったぐらいで怒らないわよ」
「怒る怒らない以前にこっちが申し訳なくなるからな。それで?昼間から飲みに来たのか?」
「私は酒飲みか!…………酒飲みだったわ…………蜂蜜取ってきたわよ」
ゼオラは空間に手を突っ込んで中から蜂蜜が入った大きな樽を取り出した。自分が用意していた樽より遙かに大きな樽に店主はかなり驚く。
「先生よ。俺が用意していた樽と違うんだが?」
「虫の蜂と違って魔獣の蜂だから大きくもなるわよ。まぁ味は保証するからしっかり美味しい酒を造りなさい」
「まぁ……がんばるか。これ全部ってなるとかなりの量になるが店で出してもいいのか?」
「良いけど顔なじみに出すぐらいにしておきなさいよ。商人とかに出して売ってくれとか言われて断れなくなったら取りに行くのは大変よ。私は気が向いた時にしか行かないし」
「了解。先生が楽でも他の奴からしたら死を覚えるわな……それで先生はこれから帝国に行くのか?」
「そのつもりだけど何か用事?」
少し待ってくれと言って店主は店の奥へと入って行きすぐに皮の袋に入った何かを持って出てきた。
「こないだ一緒に飲んだハゲじゃなくて……ケイルとか言う冒険者がいただろ?部屋に忘れ物してたから帝国の冒険者ギルドに渡しておいて欲しいが頼めるか?」
「そう言うのって取りに来るものじゃないの?」
「流石に場所が場所だからな。先生がめんどくさいって言うなら置いとくけどな」
酒も飲んだ仲だし仕方がないと言ってゼオラは皮の袋を受け取り行ってくるわと声をかけすぐに転移した。
「う~ん……いつまで経ってもいつ魔法を使ったのか全く分からんな……というか重たっ!」
ゼオラが持ってきた蜂蜜が入った樽を持ち上げ店主は酒を造る準備を始めた。
◆◆◆
ゼオラが転移した場所は前と同じ門の外だった。門の内側に転移しても良かったが、転移した時の通行料とかその辺が不明だったのでお金を払っておく方が無難と考えての事だった。
装備も前回に着用していた本気装備ではなく普通の布製で防御力もへったくれもない普通の服なので今回は騒ぎにはならないだろうと考え門の方に向かって歩き列に並んだ。
そしてしばらく並んでいると二人の兵士が駆け足でやってきてゼオラは前回きた時と同じ部屋に案内される。
「普通に並んでいるだけなのにどうしてここに案内されるのよ……」
「いえ。流石に魔導師様をお待たせする訳にはいきませんのでこちらから通って頂こうかと。それと前回、城へ用事があったのでしたら通行手形をもらったと思いますがお持ちですか?それがあれば並んで頂かなくても町中に転移して頂いてかまいませんので」
「城とか行ってないから……知り合いに会いに来ただけよ」
「そうでしたか。失礼しました。」
「話のついでで聞きたいんだけど。帝都に転移する時って門より外に転移して今みたいに並んだ方がいいのよね?」
「はい。転移阻害の結界が張ってあるので中には転移できません。座標がずれるので転移しても門の外になります。先ほどいった通行手形があれば中にもできます。あと冒険者であれば身分証が発行されていますのでそれを持っていても街の中に転移でき通行料は無しになっています」
私この前ふつうに転移できたぞ……と考えて考えていると今まで話していた兵士がジッとゼオラの顔を見た後に質問する。
「間違いであれば申し訳ありませんが……天の魔女でしょうか?」
ゼオラは軽く目眩を覚える。そしてどうしてそうだと思ったのかを尋ねるとやはりというか何というか法農省に飾ってある肖像画とそっくりだったとの事だった。
「否定はしないけど肯定もしないわ……」
「分かりました。お目にかかれて光栄です」
絶対に肖像画を焼くと心に決めるとその兵士に握手して欲しいと頼まれたので、ここに来た事を黙っておく事を条件に握手をして街へ入る許可をもらった。
「うーん……町ごと焼き払ってもいい気はしてきた……」
そんな物騒な事を考え簡単に出来はするがやってしまうと村への物流が減り自身が好きなお酒なども入ってくる量が減ったりするので色々と諦めこの前来た時に見つけた冒険者ギルドへと向かって歩き始めた。
「ほんとにどうしてこうなったんだろう……ほんとに姿とか変えた方がいい気もしてきた」
そんな事を呟きながら冒険者ギルドの中に入ると中にいた冒険者達はゼオラの姿に釘付けになる。二~三百年くらい前は短い期間だったが帝国で冒険者の仕事をしていた事もあったので建物も作りも変わってしまったが雰囲気は変わってないなと微笑んだ。
昔を思い出し少し気分も良かったので受付に届けて終わりと言うのも少し勿体なかったので自分で忘れ物の主を探してみようと冒険者ギルドの中をうろつく。そして近くを歩いていたゼオラから見ても強そうな冒険者に声をかけた。
「そこの強そうな人。ちょっといい?」
「ん?俺か?……魔法使いか魔術師の類いが何か用か?」
「ここにケイルとか言う未来が薄そうなたぶん金色級あたりの冒険者がいると思うんだけど知らない?」
前髪をかき上げ生え際を意識する様に説明すると心辺りがあったようでゼオラに着いてこいと言った。
黙ってついて行くとテーブルを囲む様に男達が座っており目的の人物もその中にいた。ただ酒を飲みながら大きな声で楽しそうに話していたので近づくのは少し戸惑った。
「おい。ケイル!お前PT解散の危機だったらしいな!」
「おう。ちと手に入った毛皮黙って盗んで売りにいったら相方が怒りやがってよ!大変だった!」
「ほー!それで武器を買い直したって感じか。よく解散しなかったな!」
「女なんてあれよ。ちょっと優しい言葉をかけて適当になんかプレゼントしとけば機嫌なんてすぐに直るからな!チョロいチョロい」
ケイルの話をゼオラ達は黙って聞いていた。そして冒険者がゼオラに話しかける。
「あんな事を言ってるが……女から見てどうなんだ?」
「いいんじゃない?自分と関係ない所で見るゲスとかクズって面白いわよ。それに真面目な商人よりゲスい貴族が好きって女性も多いからね」
「なるほどな。あんたはどっちが好みなんだ?」
「私?そうねー……真面目な商人かな。権力とか名声って頑張ればどうにかなるけど、真面目に生きるのって大変だからね~」
「なるほど。じゃあ俺は真面目に生きるか」
「ええ。そうしなさい。ここまで案内してくれてありがと。呼び止めてごめんなさいね」
冒険者は気にするなと言って手を上げてその場から去って行ったので、ゼオラは目的のケイルの元へと向かった。
ケイルの後ろに回り込み薄くなりそうな頭に忘れ物をのせた。
「はい。ゲスイル忘れ物よ」
「だれがゲスイルだ!」そう言って振り返るとそこにいないはずの人物がそこにいたのでゲスイルは固まってしまい頭の上の荷物を落としてしまった。
「……えっと。先生どうしてここに?もしかして俺に会いに来てくれたとか?」
「ええ、そうよ。こっちに来るついでに忘れ物をもってきてあげたのよ」
「さすがは先生ありがとっ」
「ええっどういたしまして。お酒を飲むのは良いけどもう少し音量を落とした方がいいわね」
「えっ?聞いてたの?」
ゼオラはそれ以上は何も答えずもう用事は無いと言わんばかりに手を振ってその場を離れた。
背後で待ってくれとと声が聞こえたがゼオラも暇ではないので無視して冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドから外に出て次にやる事は当初の目的であるリロリーを探す事だ。農場に行けばたぶん会えるがルギスもいるはずなので天の魔女とか言われればめんどくさいので今日は会いたくなかった。だからゼオラは魔法を使いリロリーの位置を探る。
魔力は指紋と同じように一人一人が全く違い双子であっても同じという事はない。それは錬成されたホムンクルスやクローンで作られた者であっても同じだ。
その為にゼオラがたまに使う追尾式の攻撃魔法はゼオラに覚えられると魔力がつきるか空が映る限りは何処まででも追い続けられる。流石に頼み事をするのに攻撃するわけにも行かないので出力を最小に押さえてから放つ。
すると小さな光球がゼオラの前に浮かび人が歩く速度で動き始めた。
農場の方に行くかと思われたがどこか違う所にいる様で光球は街の中心に向かって飛び始めたのでゼオラは小さくガッツポーズをする。
光球が人を避けゼオラがソレを追い続けていると武具をまとった冒険者達で賑わう場所へ連れて行かれた。そしてしばらく辺り漂っていると目的の人物を発見し頭にぽふっと当たった後に静かに消えた。
「えっ!何なに!?」
「姉さんどうしたの?」
「頭に何か当たった!」
そんな姉妹を見てゼオラは少し関心する。並みの者なら当たっても気がつかない程度には威力を抑えていたのだが、目的のリロリーが気づいた事だった。
「三年もしたらルギスに負けるとか言ってたけど磨けば光る物はあるわね」
さっすがエリートと納得していると姉の髪に何が当たったのかを調べようとしたシャリーがゼオラを発見し固まる。
「あっあ……あ」
妹の様子がおかしくなったのでリロリーも振り返る。するとそこには手を振るゼオラがいたので妹と同じようなリアクションを取り始める。
「ちゃんと姉妹って感じね。リアクションがよく似てるわ」
「「アーゼ様!?どうしてここに!!」」
思った以上の大きな声に周りにいた人達の視線が集まった。