第17話 若者の話
ルギスとリロリーの二人と夕食を楽しんだ後、ゼオラは果ての村に来ていた。
高い店で飲むのも悪くなかったがもう少し飲みたい気分だったので顔なじみの酒場へと向かう。
「たのもー!」
「おう。先生か。いらっしゃい……今日は酒飲みが多いからカウンターの席にでも座ってくれ」
「了解……てか今日は顔なじみばっかりじゃない?」
「王国とか魔法国家辺りで動きがあったらしいから商人達は一回戻るんだとよ。んで、こういう国が動く時って盗賊とかも動きやすいって話だから泊まってた冒険者雇ってだいたい帰っていった」
なるほどねーと言いながら店の中を眺めるとほとんどが村人達でゼオラと目が合うと頭を下げる者、顔を赤くする者、手を振ったりする者と様々に酔っていた。ただ酔ってはいるがわきまえてはいる様で変に絡んだりする者はいなかった。
「それで?先生は帝国に行ってたんだろ?村長の孫は元気にしてたか?」
「相変わらず私の髪が好きだったわね……美人さんには育ってるけど小生意気になってたわ。後は……農業関係だけど法農省って国の仕事に就いてた」
「へー……法農省か俺でも知ってるぐらいだから若くしてエリートって感じか……それで?ワインみたいな匂いがするが飲んできたんだろ?」
酒のつまみができたのでそれと酒を一緒にゼオラに出す。それを軽くつまみながら飲み話を続ける。
「軽く飲んで来たわね。高いお酒もいいけど私はこんな感じ飲み方があってるわ」
「帝国にも酒場の一つや二つあるだろ。たまには別の所で飲むのはどうなんだ?」
「私はね。楽しく飲むのも好きだけど楽しく飲んでる人を見るのも好きなのよ。で、私って見た目はいいでしょ?別の所で飲むと絡まれるから嫌なのよ」
「確かに見た目だけは抜群だな。酔うとつまらん下ネタいいだすし」
「はっ倒すわよ。それで変に絡まれたぐらいで殴るのも嫌だからよその酒場とか行きにくいのよ。かといって高い店で飲むと上品すぎてクソつまらんし……」
「まー酔っ払い同士で喧嘩始めたら賭け事にするしな……」
「そういうのが楽しいんでしょう」
「しっかし先生の髪ひっぱったりしてたガキンチョがエリートねー……世の中面白いもんだ」
「あんまり才能とかそういうのは使いたくないんだけど……もって生まれたものはあるわね。むかし教えた空から畑を見る魔法とか仕える用になったって言ってたし」
ルギスが使える様になったと言っていた魔法はゼオラが使う魔法の中でも難しい分類にあたる。弟子を取ったり誰かに伝えたりするつもりもなかったので空から畑を見る魔法とふざけた名前がついてはいるが覚えてしまえばその効果は凄かった。
簡単に説明すれば洞窟や隔離された空間は見る事はできないが天が映る場所であれば自分の目にその場所を映せる物だった。ルギスのような魔法使いであれば距離は制限されるがゼオラのような高位の魔導師になれば全てを映し、映した場所に魔法を打ち込んだりできるそんな魔法だ。
ゼオラは使用する際は目を瞑ってその場所を見る事にしている。瞑らなくても見えるのだが今の景色と見える景色を混同させない為だ。見えた景色に魔法を使いたい時に間違うと目の前に魔法を打ち込んだりする事があったので目を瞑る事にしていた。
そんな魔法を使える使える様になったルギスの話を聞いて酒場の店主は勿体ないなと一言呟く。
「なんで勿体ないの?」
「いやな。そんだけ才能というか魔法に愛されてるなら冒険者やそれこそ軍の方でも入れば大成しそうだなーっと思ってな。天の魔女様のお眼鏡にかなったんだろ?それって凄いことだろ」
ゼオラがうーんと考えていると近くで飲んでいた人達が良い感じに酔っ払っていてゼオラに何か話でもしてくれよとせがんだ。
「おい。酔っ払い共はさっさと帰れ!先生は静かに飲んでんだよ!」
「お前はゼオラ先生を独占すんな!」
「俺はこの店の店主なんだよ!天の魔女様といえど客なんだよ!分かるか酔っ払いども」
酒を飲むのはこれぐらいが気楽でいいなとゼオラは笑った。
「話ねー……どんなのがいい?」
「その不届きな店主を成敗する感じのがいい」
「先生。こいつらは無視していいぞ」
腕を組んで少し考えた後にゼオラは良い感じの話を思い出す。
「さっきの村長の孫の話ではないんだけど……体格にも恵まれて剣の才能にも愛されてその手の道に進んだら確実に成功するって言われてた酒場の息子の話にする?」
そう言われて一発で誰か分かった酔っ払い達は店主の方を見る。
「じゃあ!それで!」
「うおぉい!先生やめろぉ!!」
「その息子は若い時は月に一回ぐらい花を持って森の中に住む魔女様に会いに行ってたのに……今となっては天の魔女言うなって言ってるのに無視する不届きな輩に成長したのよ?どう思う?」
「あー……昔は好青年だったな。帝国とか王国からお誘いが来てたって聞いた……時の流れが残酷すぎて酒が不味い……」
「俺が悪かった!全面的に俺が悪かった!」
土下座しそうな勢いで酒場の店主が謝り始めたのでゼオラと酔っ払いの勝ちが確定した。
酔っ払い達は店主に勝った事で満足し、また自分達のグループで騒ぎ始めたのでゼオラはまた店主に酒を入れてもらいつまみを食べ始める。
それからしばらくは酒を飲んだり歌を歌う酔っ払いを眺めたりしていたが……良い感じに酒が回りゼオラは盛大にため息をつき、どうしたんだ? と酒場の店主に心配される。
ため息の理由は天の魔女の事でどうして昔の私はあんな事を言ったのだろうと机に崩れ落ちぐちぐちと言い始めた。
「人生で一回だけ……真面目に一度だけ天の魔女と言っただけでどうしてこう何百年も残っているの?……泣きそう」
「まー……その人の何気ない一言で人生変わる事も多いしな。そこまで嫌なのか?」
「嫌。名前で呼ばれるならまだしも……はぁ……情けなんかかけずに殺しておけば良かったわ」
「物騒だな。そういやなんで殺さなかったんだ?先生は盗賊とか敵対する奴には容赦しないだろ?」
「才能じゃないけど見所あるなー。みたいな感じだったと思う。当時はだけど天上界に行ける魔導師ってほとんどいなかったからその加減かも」
「今でも行ったとか帰って来たって聞かないけどな」
「しかも気持ち悪い事に地の魔導師は私の肖像画描いて法農省に飾ってあるらしいわよ。初めてあった娘が私って分かるくらにはお上手なんですと」
「それは確かに気持ち悪いな……でも先生の肖像画ならほしいな酒場に飾るわ」
「えー……店主のオカズにされそうだから止めて」
「するかっ!!」
下品な下ネタを混ぜつ話ながらゼオラは考える。実際のところ天の魔女と言われるのはどうしようもないの事で天の魔女と行った者をぶっ殺した所で天の魔女様ご乱心と言われるだけの話になるのでこれはどうしようもない。言わせないと言うのは不可能な事だった。
聞くのが嫌なので変装して何処かにいった所で天の魔女がいなくなったと言われるだけで意味はなし。流れてしまっている噂を止める事などできる物ではなかった。
「う~ん……」
「悩んでるなー」
「空と地の魔導師は見たんだけどそこまでたいしたことはなかったら殺ろうと思えばいつでもやれるんだけど……殺した所でなのよね」
「まー……先生が天の魔女って聞いても村のみんなはやっぱりかで済む位には浸透してるからな」
「でも肖像画とか顔で判断できる物が残ってるのは消したい。乗り込んでいって潰すのも楽だけど元教え子がいるし……」
頭を抱えうーんと悩むゼオラを見て店主は思いつく。さっき話していたルギスの先輩に手伝ってもらうのはどうだろうかと。
「ん?どういうこと?」
「その先輩は地の魔導師をよく思ってないんだろ?だったら掃除する時でも何処かに運ぶ時にでも一言教えてもらえれば先生の魔法で見て、そこに魔法を飛ばして焼くとかすれば良いんじゃないか?屋内でも窓の近くぐらい通るだろ」
「…………」
「乗り込んで行くのは不味いが……流石にこの辺から帝国に魔法を飛ばして攻撃したとは誰も思わないだろ」
ガバッと立ち上がったゼオラは満足そうにそれよ! と大きな声を上げ店主の案を採用する事にした。
「さっそく明後日いって頼んでくるわ!」
「おっおう……。明日じゃないんだな」
「ルギスが昔食べさせたのが美味しかったとか言うから思いだしたら食べたくなったから幹いって蜂蜜とか取ってくるの」
「思い出したら食べたくなる物ってあるわな。蜂蜜とりに行くならはちみつ酒作りたいから俺の分も取ってきてくれ」
「仕方ないわね。店の前に樽でも置いといて。行く前にそれもっていくわ」
それからゼオラは肖像画の解決策が見つかったので酔い潰れるまで酒を飲んだ。そしてゼオラの標的になった人物は妹が予想より早く家に戻っていた事に驚いていた。
「あれ?シャリー帰ってくるの早くない?果ての村の方に魔獣狩りに行ってたんでしょ?」
「姉さん。ただいまです。……パーティー組んでる人の剣が壊れたってのもあるんだけど……ふっふっふ。姉さん驚きなさい」
勝ち誇った様に笑う妹に姉のリロリーは何言ってんだこいつという様な顔をする。
「あの伝説の天の魔女!ゼオラ様にお会いして帝国まで送ってもらったんですよ!」
確かに驚く事ではあった。妹もさっきまで一緒にご飯食べた人と知り合っていたとは変な縁だなと。
「姉さん……反応悪くないですか?天の魔女様ですよ?天の魔女」
「……それご本人の前で言わないようね。嫌がってたから」
「……あれ?姉さんも会ったんですか?」
「アーゼ様よね?お会いしたわよ。あなたの同級生のルギスの先生がアーゼ様だったのよ。あの時は本当にびっくりしたわ……あとさっきまで一緒にご飯食べてごちそうしてもらったし」
「どうして呼んでくれないんですか!」
姉を驚かそうとしたがそれ以上にシャリーが驚き夜も更けていった。