第16話 買い物
買い取り店員の態度にゼオラは軽く目眩を覚えるが無視して話を続ける。
「あのね……言い方は悪いかも知れないけど無名でも高名でも関係ないでしょ?買い取ってもらえるの?」
「そっそうですね。まんだらけの魔石はミラージュラビットの魔石はこの辺りでは珍しく高位の冒険者の方がたまに持ってくるぐらいだったので……申し訳ありません」
「怒ってる訳ではないの……軽く頭痛がしただけよ…………」
次からは街で素材は絶対に売らないと心に決め村に商人が来たら適当に毛皮とか売ってお金を作っておこうと考えていると買い取り価格が決まった。
「合計で金貨百枚でもしくは白貨十枚でどうでしょうか?ミラージュラビットの魔石が一つ金貨十枚で曼陀羅華の魔石が金貨五十枚になります」
さきほど魔石の価格を見ていたのでだいたいそんなものだろうと考えていると後ろから金貨百枚百枚!? とか私の給料五ヶ月分ぐらいという声が聞こえてきた。
「リロちゃん先輩。……魔石選んだ方が良くなかったですか?まんだらけの魔石だけで金貨五十枚ですよ?」
「あなたね……というか素材の方もいくらになるか気になって仕方ないんだけど」
「魔石の方が絶対に高いですよ!」
そしてルギスが流石は天の魔女……と言いそうになった所でリロリーがその口を塞ぎゼオラは大きくため息をついた。
「はぁ…………悪いけどそれで買い取ってもらえる。白硬貨だと小物が買いにくいから金貨でお願いできる?」
「わっ分かりました。少々お待ちください」
店員は魔石を持って奥へと入っていきすぐに金貨をトレイにのせて持ってきた。ゼオラも礼を言って受け取りすぐに店を出る事にする。
三人が出て行った方を店員は見つめ奥から出てきたこの店の主人であろう人に話しかける。
「街で天の魔女を見たという人達がいましたが……もしかして今の人がそうなんでしょうか?」
「違うかも知れないが……たぶんそうだろう。まんだらけにしろミラージュラビットにしてもこの辺りに住む魔物ではないからな」
「頭痛がすると言っていましたので地の魔導師様に相談でも来たんでしょうか?」
「さぁな。私達一般人にはわからないな」
…
……
………
「さてと……学ばない生徒がいるんだけど……リロちゃん先輩はどう思う?」
「正直……やっちまった方が良いと思います。こいつは放っておくとつけあがるので。私が呼ばれてるリロちゃん先輩とか言うのも放っておいて定着したので」
「ちゃんと学んでますよ!リロちゃん先輩って可愛いじゃないですか!」
ゼオラは腕を組んで歩き少し考える。
「リロリー……なんか良い方法ない?」
「そうですね……生地を買いに行った所にルギスの母親がいるので学生時代の恥ずかしい過去を聞くのも良いかもしれません」
「なるほど……あなたなかなかやるわね」
「ありがとうございます」
「ゼオラ先生!本当にすみません!もう言いません!」
ものすごい勢いで頭を下げるルギスに次はないとゼオラは警告するそしてしばらく会話を楽しみながら街を歩くとようやく目的の店が現れた。
先にその店にルギスが入り先生が来た! と大きな声で誰かと話し始めたのでゼオラもリロリーも苦笑しながら後に続いた。
中に入るとルギスとルギスによく似た女性が立っておりゼオラを見ると丁寧に挨拶をする。
「アーゼ先生。お久しぶりです。お元気そうで何よりで」
「あなたも久しぶりね。とても立派な女性になったじゃない」
「立派ですか?」
「ルギスをここまで育てたなら十分に立派よ」
「……すみません。またこの子が何かしでかした様で……」
「お母さん!何もしてないよ!」
何もしていない事はないと笑いルギスに頼まれて畑をみた事と新しい生地があるとかなんとかでここに来た事を伝える。すると何種類かあるという話になったのでゼオラはその生地を触らせてもらう事にした。
「へぇー……なかなか良い肌触りね」
「服にするならその生地が良いと思いますよ。色も白なので……というか先生。たまには白い服以外きたらどうですか?いろんな生地ありますよ?」
「最近周りが騒がしいから違う服とか作ってもらった方がいいかも知れないわね……じゃあ今出してくれてる?あと生地はぜんぶ一巻きほどもらえる?」
「えっ?……全部ですか?」
「村の仕立屋さんに置いとけばツケの分も払えるでしょ」
「あーそれで村の仕立屋ってやたらと生地とかが多かったのってそういう事でしたか。長年の謎がとけましたよ」
「謎って言うほどの事もないでしょ。村に来た商人から私が買って……みたいな感じね」
すこし待ってくださいねと言ってルギスの母親は奥へと入って言った。待ってる間にルギスやリロリー達と店の中を見ていると様々な服や裁縫道具なども置かれていた。
その中でゼオラが興味を持ったのが魔石を動力として動く魔導ミシンの新型だった。
村の仕立屋にある物は博物館にでもありそうなペダル式のミシンとかなり型落ちの古い物だったので新しく最適化された物が新鮮だった。
「これ面白そうね」
「村の仕立屋が使ってるのはペダル式でしたっけ?」
「古い型の魔導ミシンはあるわね。私が改造しまくったせいでペダル式の方が使いやすいとは言ってたわ」
「先生ってたまにわけわからんこと言いますよね」
興味深く新製品のミシンを眺めているとようやく全ての生地をもってこられた様でついでにそのミシンも買うかい?と冗談半分でルギスの母親は言った。
自分の服もはやく直して欲しいし新しいミシンの性能も少し気になるのでそのミシンも買う事に決めた。
「……冗談半分で言ったんだけどね」
「いいのよ。仕立屋さんがいらないって言ったら私がバラして構造を見てみるからね。全部でいくら?」
「ちょっとまってくださいね」
ルギスの母親は計算を始める。全ての物の値段が出ると金貨五十枚となったのでゼオラは一括でそれを支払い全ての物を空間に収納した。
そしてミシンの簡単な説明書をつけてもらい帝国でやる事は全て完了した。
やる事も全部やったので帰ろうとするとルギスから待ったがかかる。
「先生!このまま帰ると味気ないのでリロちゃん先輩と三人でご飯食べにいきましょう!先生お酒好きでしょう!」
「えぇー……と言うかリロリーの意見も聞きなさいよ。そして母親も誘いなさいよ」
「お母さんはお父さんとご飯食べますし!リロちゃん先輩に拒否権はないですよ。先生に面と向かって嫌とは絶対に言いませんから無視でおk!」
「じゃあ……あなたと行くのが嫌だから止めとくはどうかしら?」
「それは私がガチ泣きするので止めてください!」
わざとらしい仕草で泣き真似をするルギスを無視してリロリーに確認を取り母親に了承を得てから……たまには良いかと自分を納得させ三人で夕食に行く事になった。
「リロリーも忙しいだろうになんかごめんね」
「いえ。元からルギスと夕食に行くつもりだったので大丈夫です」
「なるほどね。だったら……ルギスに奢らせるから高い所いきましょうか」
「それいいですね。行ってみたい所があったのでそこにしましょう」
「奢りますけど……高い所はやめてください!」
夕方になった帝都はさらに人が増えすごい熱気に包まれていた。その人が増えた時間を狙い露店で販売する者達も現れ人が人を呼ぶ程に人が増えていった。
そんな窮屈な商業地区を少し進むと少し人の流れが変わり始める。一般人から腰に剣をぶら下げた者、杖を持っているもの弓を担いでいる者と武装した人になっていく。
リロリーが向かっている店は冒険者ギルドがある場所を抜けていくと近いとの事なのでこの道を通ったとの事。そして少し古びていたが風格のある建物、冒険者ギルドが見えて来たのでルギスは思い出しリロリーに質問する。
「そういえば……豚とか鶏とか消えたやつって冒険者に頼むんですか?」
「たのまないわよ。ロキアス様が来た時にも言ったけど柵が壊れてたたし逃げたんでしょ。ラットマンとかピッグマンが出たなら足跡の一つも残ってるけどなかったしね。たぶん大丈夫でしょ」
「だったら大丈夫ですね」
自分達で判断して答えを出したなら余計な事は言わないつもりだが……流石に元とは言え教え子とその友人に何かあっては目覚めが悪いので余計なお世話だとも思いつつゼオラは意見を述べる。
「確証がないなら本職に頼んでおきなさい。ラットマンといえど上位の個体になると足跡ぐらい消して帰るし、足跡が残らない魔獣とか魔物なんていくらでもいるわよ」
「えっ……かなり丁寧に調べましたけど……それでも分からない物ですか?」
「逆で考えたらわかるわね。冒険者の人達が畑の良し悪し、作物の良し悪しを見分けられると思う?見分けられる人もいるだろうけど全員がそうではないわよね?確証がないならその人が得意な畑はまかしとけってね。余計なお世話かもしれないけどね」
「あれですね。素人はだまっとれ!みたいな感じですね」
「違うでしょ……冒険者の人も魔物を探すのが本職の人もいるから心配なら頼む方が気分的に楽よ。家畜も法農省関係でしょ?お金は国から出るんだから頼んだ方がいいでしょ」
ゼオラの話を聞いてリロリーは少し思う所があった。柵は壊れていたが壊れ方が少しだけおかしかった事だ。家畜が壊したにしては少し、いやかなりの力が加わった様な壊れ方をしていたからだ。
その時はこんな物かと思っていたが改めて考え直すと少しおかしい様に感じられた。
「うーん……嫌いな奴にネチネチ言われても殺意増し増しになるので少し待って頂けますか?冒険者ギルドに行って依頼して来ようと思います」
「それが良いと思うわ。ついて行きましょうか?今の冒険者ギルドも気になるし」
「いやー……先生は私と一緒に待ちましょう。絶対に目立ちますし喧嘩しますし」
「私はその辺の酔っ払いか!」
喧嘩するのは想像できなかったが目立つのは確実に想像できたのでリロリーは二人に待ってもらい冒険者ギルドへと向かった。
「しっかりした先輩がいて良かったじゃない」
「確かにしっかりしてますけど……リロちゃん先輩は絶対に闇を抱えていますよ。ロキアス様とか殺意増し増しで見てますし……」
「あのね。人は誰でも二面性があるもの。しっかりした先輩のリロリーがいれば誰かを殺したいって思うリロリーもいる。それは別々にはならなくて両立する物。仮に片方しか見えない人がいたら逃げなさい」
「どうしてです?」
「とんでもない嘘つきか人に紛れてる何か?だから」
「…………色々あるんですね」
「色々あるわよー。何年生きてると思ってるのよ」
「……一万年?」
一回泣かすとゼオラが心に決めようとした瞬間にリロリーが走って戻って来たのでルギスはそれを察知してかリロリーの帰還を喜んだ。
「お待たせしました。何事もなければそれでいいのででは行きましょう」
「リロリー。悪いけどかなり高いお店でお願い。一回この娘は痛い目みないと駄目みたい」
「また変な事行ったんですね……わかりました。方向的にも良いのがありますのでお任せください」
「ごめんなさい!勘弁してください!」
それから帝国で一~二を争う程の店をリロリーは紹介し有無を言わさずゼオラもそこに入ったのでルギスに拒否する権利はなかった。
結局はゼオラが奢ったのだが値段を気にするあまりルギスは食事を楽しめなかったとかなんとか……
「もっと食べておけば良かった!」
「アーゼ様……明日からこいつをしごいておきますので……それと今日はありがとうございました」
「どういたしまして。ええ、きつめにお願いするわ……」