第15話 地の魔導師
護衛を引き連れて建物に入ってきた地の魔導師は少し異常が無いかを確認してから目の前にいたリロリーに質問する。
「リロリー……いえ、ボルケ。街で白い女……天の魔女らしき者を見たと言う話が流れているけど貴女達は何か知らない?」
「そうなんですか?私は家畜が数頭消えたと報告があったのでそれの確認に行って先ほど戻ってきた所なので分かりません」
「そう……家畜が消えた原因は分かった?」
「柵が壊れていたので逃げただけかと思います。食用の角豚と鶏だったので」
わかったわと頷き今度は座っているルギスに話かける。
「フォーリア。軍……魔法兵団、魔術砲団のから熱烈なアプローチが来ています」
「私を勧誘する気があるのなら本人が来なさいとお伝えください」
地の魔導師は大きくため息をついた後に、あなたが自身を勧誘したければ私を通しなさいと言ったのよと肩を落とした。
「人の考えなんて変わるものですから仕方ありませんよ」
「そう伝えておきます。では質問をかえますが軍に行かず法農省にいる理由はどうしてでしょうか?戦いが嫌というなら研究開発といった部門もあります。お給金も軍の方が上です。あなたには魔法の才能がありますそれを生かす道を選んでも良いのでは?」
「遠慮します。畑もしくは土いじりが好きなので。私の先生もくっそ強いですが畑とお酒がメインで戦いは二の次なので」
ルギスにこれ以上いった所で時間の無駄と判断し地の魔導師は話題をかえる。
「あとは……あの保有魔力が多い畑はどうなりましたか?駄目そうなら土ごと入れ替える様になるけど?」
「あーそれならもう大丈夫ですよ。私の先生に聞いたら土の中に砲弾に入ってた魔石が散らばって魔力をあふれていたようなので。だいたいは取り除いたと思うのでしばらくは様子見って所です。もし駄目ならお願いします」
「分かりました。では私の方から言うことはありませんね……天の魔女ですが……噂ではジウロ王国で空の魔導師ソルニー・スライと戦ったと聞きます。どう動くかは分かりませんが……最悪の場合は戦いになるかもしれません。覚えておいてください」
真面目な顔で忠告する地の魔導師をみてルギスはぶふっといきなり吹き出す。
「……どうかしましたか?」
「いっいえ。少し気管がつまってしまって……申し訳ありません」
「そうですか……」
それ以上話す事は無かったようで地の魔導師ガイア・ロキアスはその場から去って行った。
そしてルギスもリロリーも大きく息を吐き出した。
「あの程度の用事なら来なくてもいいのに……鬱陶しい」
「リロちゃん先輩はほんとロキアス様嫌いですね」
「友達でも無いのに馴れ馴れしい奴って嫌いなのよ。何様って思うのよね……」
「地の魔導師様では?」
リロリーは地の魔導師が帰った扉を眺めているとルギスが小さく驚く声が聞こえたので振り返るといつの間にかゼオラが戻って来ていた。
「うおぅ!びっくりした!」
「今の人が地の魔導師様?」
「はい……三代目の地の魔導師になります」
「なるほどねー。世代交代に失敗した感じかな?私が見えないぐらい力を隠してるなら別だけど……横の護衛の方が強いわね」
私には関係ないけどと付け足して家に戻った時に粉末にした物を小瓶にいれ刻んだ物を袋に入れてそれを二人分に分けルギスとリロリーに手渡した。
「粉末の方はスプーン一杯くらい回復役に入れるぐらいでおk。多くても回復量が増すわけじゃ無いから入れすぎると少し勿体ない。入浴剤の方は一回につき一パックって感じ。何十人も家族がいないなら一つ入れれば全員入れる。何日も使える訳じゃないからね」
「あっありがとうございます」
地の魔導師との対応の違いにルギスは笑い先ほどリロリーが言っていた台詞をはく。
「そうそう!ゼオラ先生。リロちゃん先輩が言ってましたよ!友達でも無いのに馴れ馴れしい奴って嫌いなのよ。何様って!」
「あっああああんたは何言ってんのよ!っ違うんです!アーゼ様!」
慌てるリロリーを見ながらクスクスとゼオラは笑い言った。先ほどの話に戻る訳ではないけど魔力をみればある程度の感情も見えてくると。
「そうなんですか?」
「だから魔力を見せるなって話。リロちゃん先輩の感じだと私に対しては敵意はなくて恐れとか畏怖しつつこの人すげーなって感じかな?まぁ基本的には戸惑ってる感じね」
ゼオラの言っていた事は当たっていた様子で目大きくしてリロリーは驚く。
「分かる物なんですね……ではルギスだとどうなんですか?」
「聞かなくても分かるでしょ?」
「あー……馬鹿にしてますね」
「そういうこと」
「してませんよ!」
「嫌いと思うぐらいは良いけど敵意は向けない様にね。まぁ……大人になるとあなた嫌い!って感情からこいつ死ね!に変わる事は多いから難しいけどね」
誰に言ったのかは分からなかったがゼオラはそれ以上は何も言わずに椅子に座りルギスもようやく黒歴史から復活した様で報告書の制作を手伝い始めた。
そしてしばらくたった後にルギスが地の魔導師が言った事を思い出し質問する。
「そういえば……地の魔導師様ことガイア・ロキアス様が言ってましたけど……先生、動き出したんですか?」
「あのね……冬眠から目覚めた熊じゃないんだから」
「先生は白いので白熊ですね」
「がおーーーーー!」
ルギスとじゃれあった後にゼオラは簡単にだが二人に説明する。ジウロ王国から第三王女であるクリエスがやって来た事。力を貸して欲しいと言って来た事。空の魔導師に攻撃された事。ちゃんと断った事等など……
ルギスは笑いながら聞いていたがリロリーからすれば全く笑える話ではなかった。隣の国の話ではあるが……戦争になればまったく無関係という訳にはいかないからだ。
「ルギス……大事な話で笑える要素がないと思うけど?」
「え?遠すぎて実感が湧かないので笑い話では?王女様とか言われても見た事もないですし」
「距離はあるけど隣国よ!この娘は……」
「まぁ……大丈夫ですよ。よっぽど戦いになったら私が先生を召喚しますから!」
「えっ!?来てくれるんですか?アーゼ様が?」
「行くわけないでしょ。なんで戦争のお手伝いしないと駄目なのよ。というか私が行ったらただの虐殺になるからそれは戦争ではないわよ」
「戦争に大義もへったくれもないので先生がサクッと終わらせればいいのでは?」
「……アーゼ様。こいつ殴った方が良くないですか?」
「私もそう思う」
「駄目です!」
リロリーがルギスの頭を殴ったあたりでちょうど就業の時間も終わり、書き終えた報告書も転送用のアイテムボックスに収納し二人は本日の就業を終えた。
ようやくゼオラの目的の新製品の生地を買いに行く事になるがルギスとリロリーの二人から少し待ったがかかる。それは地の魔導師様が言っていた様に天の魔女が目撃されている事だ。
嫌いな人間に嘘をつく分にはいいが一緒にいる所を見られたら流石に言い逃れはできないからだ。
「という訳で。先生はその帽子とか脱いで私のフードを貸しますのでそれ来てください」
「貸してくれるのはありがたいけど……でっかい魔方陣とか内側に目がたくさん描かれている様なフードじゃないでしょうね!」
「ごふっ!……大丈夫ですよ!子供ではないので普通のフードです!……リロちゃん先輩は先に言っておきますが余計なこと言わないでくださいよ!」
先に言われてはルギスが学生時代に使っていた黒いマントは背中に大きな魔方陣が描かれていた事をゼオラに伝える事ができなくなってしまった。
その事を伝えたいと考えているとゼオラがルギスからフードを受け取り帽子や手袋を空間収納にしまってから羽織り……すぐに脱いだ。
「リロちゃん先輩……なんでも良いけど羽織る物持ってない…………」
「先生!何が気に入らないんですか!」
「何でこんなに裾がボロボロなのよ!」
「格好いい……じゃなくて大事に使ってるんですよ!それが帝国のおしゃれの最先端なんです!」
「待ってる時に魔法使いとかみてたけどそんな格好している奴は一人もいなかったわよ!」
「大事に使ってないでしょ……そのフード買った次の日にはさみで切ってたわよね……私のだとサイズが小さいので備品の帽子のマントで良いですか?」
「悪いけど今日だけかしてくれる?」
「分かりました」
ルギスが何やら文句を言っていたがゼオラは無視してリロリーから備品のマントと帽子を借りた。そして建物に鍵をかけて三人は街の方に向かって行く。
ルギスに案内された道を通り東の門を抜けて三人は話ながら街の中を歩く。ゼオラが本気装備から姿を隠す姿になったのもあり少し街は込んでいる様に感じた。
「それで先生。先に換金したいと言ってたので買取屋さんに行きますか?」
「そう思ってたんだけど……さっきリロちゃん先輩が魔石が値上がりしてるって言ってたから先に魔石の値段を知りたいからそういうのが売ってるお店を教えてくれる?だいたいで良いから相場が知りたいのよ」
「あー買いたたかれたら嫌ですもんね」
「それもあるんだけど…………私が持ってる魔石って近所の森とか幹産の物が多いから……こっこの魔石は!あの魔物の!ふあぁぁぁぁ!みたいなノリになるのが嫌なのよ」
「あー……果て村に初めてくる商人さん定番ですね。それが嫌で先生は商人に売らなくなったんですよね?」
「大げさに言うから物珍しさに他の人もぞろぞろと集まって来て恥ずかしいのよ」
リロリー達がよくいく魔石を扱う店もあったがそこだと最悪、ゼオラの事が伝わる恐れがあったので少し離れた場所にある店へと向かった。
その店はゼオラが想像して以上に広く中は魔石を専門に扱ってる様で買い取りなどもしている店だった。
「なんか私が知ってる魔石の価格より値段が上がりまくってる」
「先生それって何年ぐらい前の話ですか?」
「百年前に帝国に来た記憶はあるわね。商人に売った時はもっと安かったと思うけど……」
「買い叩かれたのもあるでしょうけど果ての村ですからねー。護衛とかの事考えるとあまり儲けも出ないんでしょうね。いくらで販売してるかは気になる所ですけども」
「あと、魔石を使って色々な物を動かすので魔石の需要はとても多いんですよ。私達が使っていた魔導タブレットなども加工した魔石で動いていますので」
その話を聞いて大昔でも値段が高かったドラゴンとかその辺りの魔石は絶対に出すのを止めようとゼオラは心に誓い買い取りをやっている受付へと向かった。
「こんにちは。魔石の買い取りを頼めるかしら?」
「いらっしゃいませ。わかりました。鑑定した後に値段を出しますのでお持ちの魔石を出してもらえますか?」
分かったわ返事をして先ほどのまんだらけの魔石と家の近くによくいるウサギの魔石をいくつか取り出し机の上に並べた。
流石にこれ以上やすいと思われる魔石をゼオラは持ち合わせていないので毛皮や薬草を売りにいった方が良かったかな? と考えていると魔石をのせたテーブルが少し光った後に魔石も光を放ち始める。
そして魔導タブレットと同じように半透明の板が店員さんの目の前に現れそこに書かれた文字を読みとても驚く。
「あっあの……高名な魔導師様、もしくは高位の冒険者の方でしょうか?」
「はい?」