第14話 畑の魔物
出現した魔物はゼオラの背丈の倍ほどもあり体に巻き付くツタが筋肉の様になており所々にとげが生えた姿をしていた。
特徴的なのはその頭部で頭の代わりに紫の大きな毒々しい花が咲いていた。
そんな魔物をみてルギスは一番離れた所から少し大きな声で話しかける。
「我は天!天の魔女の一番弟子ルギス!ルギス・フォーリア!この魔力の輝きを恐れぬならかかって来なさい!」
「……いつの間にあそこまで逃げたのよ」
「ほんとですね……それでアーゼ様。この魔物は?私は初めて見る魔物です。……動かないんですか?」
「ん?大丈夫とは思ったけど危ないから空間を固定して動けなくしといたから触らなければ大丈夫よ。名前はまんだらけって名前。幹の日当たりの良い所にいっぱい咲いてるわ。他の地域でも見た事はあるわね」
リロリーが幹って何の事だろうと考えまんだらけと呼ばれたモンスターを観察しようとするとゼオラが指をパチンと鳴らした。
するとまんだらけの首、腕、足と言った部分に一本の筋が入り叫び声もなくその場に崩れ落ちた。
「はい。お仕事終了。でっこの魔物は魔石以外はぜんぶ薬になるから見つけたら絶対に狩りなさい。この顔にある目みたいなのは実で美味しいしね」
そう言ってから顔? 花? であろう部分から実を取り出し胴体から魔石であろう石も取り出した。そして切った手足を縄で縛った後に指をまたパチンとならしまんだらけの体の水分を飛ばした。
その光景を近くで見ていたリロリーだったが……ゼオラが何をしたのかは全く理解できなかった。空間を固定も意味が不明だったがまんだらけとか言う魔物もいつ倒されのかさえも本当に分からなかった。
リロリー自身、コプス帝国の軍に比べればたいした事はないがそれでも国に仕える組織で働くエリート的な立ち位置で魔法に関しても戦闘ではあまり使わないにしろ毎日畑仕事で使い練度もかなりのもので冒険者をやっている妹と比べても負けない自信はあった。
そんなリロリーだったがゼオラがつかった魔法は本当に分からなかった。魔法や魔術なら誰が使っても多少の魔力の流れは発生する。火の魔法なら火が出るし水の魔法なら水が出る。それが普通だ。
「ゼオラ先生は相変わらず何やってるかわけわかめですね」
「あなたが見て分かるぐらいの魔法ならここまで偉そうに生きてないわよ」
「じゃあ……もう少し慎ましく生きてください」
そんな凄まじい魔導師を前にしてうちの後輩は何を言っているのだろうとリロリーは思った。比べるのは失礼な話だが……帝国にいる地の魔導師より目の前に白い魔女の方が格上だ明らかに桁が違う。
そんな魔導師相手に友達の相手をする様に話す後輩は馬鹿なのか頭がおかしいのか……
「ルギス……貴女って馬鹿なの?」
「え?……リロちゃん先輩……いきなり喧嘩売ってます?」
「あなたも帝国で働く魔法使いの端くれで今のアーゼ様の技というか魔法を見てなんとも思わないの?もう少しこう畏まるとか尊敬するとか他に色々あるでしょ……なんでそう友達感覚なのよ」
「なんでといわれても……先生も昔からこんな感じですし?あっ、でも尊敬はしてますよ。超美人さんですし魔法は頭おかしいぐらい強いですし子供の頃に助けて貰いましたし」
「そんな事あったわね……私に会いたくなって一人で森に入って魔獣に食べられそうになってたわね。懐かしい」
「やっぱり馬鹿じゃないの……」
「よぉし!その喧嘩買いましょう!」
「いいわよ。かかって来なさい。確か……魔法学校の黒い風……ブラックウィンドのルギスだっけ?」
ゼオラが何それ? と笑っているとルギスには効果は絶大だった様でその場でうずくまりリロリーに許しを請うた。
「私に喧嘩を売ろうなんて三年ぐらい速いわよ」
「なんか地味に現実的な数字ね」
「この子はちょっとアホの子ですけど……持って生まれた才能の魔力も私より遙かに上なので経験だけ足りたら全然抜かれるなと……しかも軍に方から声をかけられるほどですし」
耳まで真っ赤にしその場でしゃがんで顔を隠すルギスを見ていると全くそんな感じに見えないなと笑いながらいつの間にか洗って綺麗になったまんだらけの実をむいてゼオラは食べていた。
そしてそれを細かく切り分けてリロリーに食べる? と尋ねた。
「失礼かと思いますが……普通の魔法使いが食べても大丈夫なんですか?」
「死んだら毒も抜けるから大丈夫よ。天然物に比べて味は落ちてるけど美味しいわよ。ルギスも昔食べてたしね。食感は桃に似てるかな?」
となりでくたばっている後輩が食べたなら大丈夫かとおもい恐る恐るではあったが切り分けられた実を手に取りリロリーは口に運んだ。
その瞬間、食べた事ない柔らかい食感と少しだけ酸味のきいた甘い食感が口の中に広がり思わず声が出る。
「うわっ……美味しい」
「でしょ?人によったら養殖の方が美味しいって言う人がいるかもね」
「もう一つもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ」
このままでは先輩にぜんぶ食べられそうだったのでルギスも気合いを入れてなんとか復活しその実の味を楽しんだ。
「これあれですね。むかしゼオラ先生が蜂蜜つけて食べさせてくれた実ですね。私が魔物に食べられそうになった後に家に連れて行ってくれて」
「そうそう。よく覚えてるわね」
「甘味が少なかったって言うのもありますけど……流石にあれだけ美味しい物は忘れられませんよ。僻地から街に来ましたけどその実もあの蜂蜜もまだ食べた事ないですもん」
「僻地いうな僻地。さてと……畑の保有魔力は無くなってると思うからそれを確認して」
分かりましたとルギスが返事をしタブレットを取り出して操作すると先ほどまで高かった土地の魔力は一気に減り近くの畑と変わらない様になっていた。
それでリギスからの相談事は終わったので生地を買いに行こうと思ったがルギスもリロリーもまだ仕事中だったので終わるまで先程の小屋で待つ事になった。
「ゼオラ先生すみません。人も来ないですし皆好き勝手に仕事してるので生地を買いに行っても良いと思うんですけど……」
「お給金もらってるならもらってる分だけはしっかり仕事しなさい。待つのは良いけまんだらけの素材はどうする?種は私のだけど育つ為の養分とか魔力って国の物でしょ?」
「うーん……かも知れませんけど、伝説の天の魔女様!に来てもらって問題を解決したって報告書に書くわけにも行かないので……リロちゃん先輩どう思います?」
「おん?まだそれ言うか?人が嫌がる事を言っては駄目だと習わなかったの?魔法学校の……いえ法農省の黒い風」
「こら……アーゼ様がそれ言うなって言ってるのに言うのやめなさいよ。ブラックウィンドのルギス」
二人の口撃はまたルギスの心に効果は絶大だった様で先程と同じようにソファーにダイブした後に足をバタバタと動かし始めたのでリロリーはそれを無視してゼオラと話し始める。
「解決して頂いたお代も出せませんのでアーゼ様がお持ち頂くのが良いと思いますが……」
「あのね……種植えて魔物倒したぐらいで何言ってんのよって話にもなるけど、貴女の言う事もわかるのよね……じゃあこうしましょう。昔の価値になるけど魔石と体の値段ってだいたい一緒なのよ。好きな方を選びなさい」
「最近魔石の需要が多くて軒並み値上がりしてます……体の方はどう使えば良いのでしょうか?初めて見る魔物なので」
「へー。色々あるのね。一番楽なのは粉末にして回復薬に入れたりする事ね。大昔はこいつ捕まえて回復薬作ったりしたこともあったからかなり優秀な素材よ。毒消しでも麻痺治しでもいけるわね。効果を上昇させてくれるわ。あとは……細かく切って袋にれて入浴剤でもいいわね」
「危険な事ってあります?」
「万能薬の材料にも使われるぐらいだから特に無いわね。しいて言えば入浴剤にしたカスを畑に捨てると保有魔力が少しあがるくらいね」
リロリーは少し考えた後に体の方をもらう事にした。入浴剤とと言うのにも興味があったが回復薬の効能があがったりするのであれば畑を荒らす害獣退治の時に役に立ったり、妹が冒険者をしているので少しでも役に立てばと思ってのことだった。
「じゃあ……すみませんが体の方でお願いできますか?妹が冒険者をしているので少しでも役に立てば思うので…………ルギスもそれでいい?」
「…………私は記憶を消す薬が欲しい」
「あなたね……そんな都合の良い物あるわけ無いでしょ」
「ん?普通にあるわよ?」
「じゃあ!それください!飲んで過去の記憶を消します!」
「別に良いけど……私の経験上それを飲んだ人は同じ事繰り返すわよ?今の歳で若い時にやってた事を繰り返すときつくない?いいなら作ってあげるけど」
そう言われて二人は学生時代のルギスを思い出し今の姿を重なり合わせる。ルギスはまた何も言わずにソファーに倒れ込みリロリーも無いなと一人頷いた。
そして後輩が動かなくなったのでリロリーが報告書をまとめゼオラがまんだらけを粉末にしたり入浴剤にする用に細かく切り始める。
すこし時間がたった後にリロリーが作業しながら気になってた事をゼオラに質問する。
「アーゼ様。少し伺いたいのですが……」
「ん?そこまでかしこまらなくて良いけどね。どうしたの?」
「アーゼ様が魔法を使う時や今でもですけど全く魔力を感じないのはどうしてでしょうか?魔力が高ければ高いほど力ある魔導師と聞きます。高位の魔法使いであればあるほど私達ですら感じられる程に魔力が濃いので……何か理由があるのかと思いまして」
「魔力の大小の違いが、戦力の決定的差ではないということよ」
「い……意味が分かりません」
「まぁ。それは冗談だけどね。私が行ってた所……天上界と冥道界にいくとね魔力の流れっていうか動きを読んで行動するやばい魔物がいっぱいいたのよ。だから隠さないと見えない所から撃たれたりするしね」
「その二つはおとぎ話でしか聞いた事はありませんが凄まじそうな所ですね……」
「まぁね。あとは……魔力を見せると簡単に動きを読まれることかな……こっちに来てる人の動きとか分かるしね。偉い感じの人が来てるから一旦戻るから適当に話をあわせといて。この感じだと魔導師かな?」
えっえっ? とリロリーが数回瞬きをすると机の上にあった物を含めてゼオラは消えていた。
慣れないと驚きますよねとルギスが笑っているとドアをノックされ誰かが入ってた来た。
それはリロリーと同級生でありながらこのコプス帝国の魔法使いの頂点に立つ地の魔導師、ガイア・ロキアスだった。