第13話 畑の事
自分の肖像画が自分の知らない所で飾られている事に恐怖を覚えたので畑を見るの少し待ってもらってリロリーに提案する。
「ねぇ。リロリー」
「はっはい」
「法農省の警備ってどんなもん?強さの一番上は地の魔導師なのよね?」
ゼオラの質問の意味は理解できなかったのでリロリーは自身が働いている建物を思い出してから答える。
「そうですね。軍に比べれば無いような物ですね。定期的に学生達に解放して農業の事など知ってもらう様にしていますし……一番上は確かに地の魔導師と言う形にはなっていますがアーゼ様が知っている方では無いと思います。その血族が地の魔導師を継ぐので現在は三代目になっています…………というかルギスに好き勝手に触っていますがいいんですか?」
「この子は昔から私の髪が好きなのよ……赤ちゃんの時も母親に抱かれたまま私の髪ひっぱるわ。五歳ぐらい時も村で見かけたら走ってきてひっぱるわ……引き剥がそうとすると泣くわで……引っ越しするまでずっとそんなんだったわよ」
「ごっご愁傷さまです……」
櫛で髪をとかしながら三つ編みを作ったりポニーテールにしたりと話には参加せず気の済むまでルギスはゼオラの髪で遊んでいた。そんなルギスを無視して二人は話を続ける。
「って事は全体的に見ても……そこまで強固な感じはしないわね」
「……嫌な予感しかしないんですが?」
「法農省ごと破壊してやろうと思ったけど貴女達が働いてるからそれは止めておくわ……取りあえず今から乗り込んでその下手くそな肖像画が焼いてから地の魔導師をぶっ飛ばす!」
ゼオラのやる気に次はリロリーが目眩を覚えその場で気を失いそうになる。ただここで気を失うと起きた時に見える世界は確実に違う景色になっているのが見えたのでなんとか踏みとどまった。
「やっやめてくださいアーゼ様……もっと他にできる事はあると思います。正体を隠すとか……」
「ゼオラ先生は天の魔女と言われるのが嫌なんですよね?どうして隠したりしないんですか?」
「ん?嫌なのは嫌だけど……自分で言った事の責任ぐらいは自分でとろうと思ってね。嘘ついて毎回違う違うって言うのもおかしな話でしょ?それに嘘を続けるってなると嘘に嘘を重ねるから気分的に嫌なのよね」
「なんかゼオラ先生って感じですね」
「どういう意味よ。しかし真面目にどうしようかしら……勝手に肖像画描かれて腹立つのは腹立つのよね。地の畑荒らしもムカつくし……」
「先生が本気で帝国に喧嘩売るなら止められませんので諦めますけど……それこそ天の魔女が動き出した!みたいな感じになりませんか?…………できれば止めてもらえればと私は思います」
すこしだけ声に恐怖が混じった音にゼオラは大きくため息をついた後に色々と諦める事にした。そしてもう一度、大きなため息をついた後に当初の予定どおりにルギスが言っていた畑を三人で見に行く事にする。
「ある意味……帝国を救ったので勲章とかボーナスとかでても良いような気はしません?」
「ルギス……あなたね」
「未然に防いだのって見てる人がいないから評価されないわよ。歴史に残ってる英雄の話とかは氷山の一角。残ってない所で助けまくったりしてるわ。何か欲しいならリロちゃん先輩におごってもらいなさい」
「じゃあ……リロちゃん先輩。机とか買い換えたいので一式お願いします」
「アーゼ様。帝国に喧嘩売るときはこいつの家からお願いします」
「りょーかい」
そんな話をしながら進んで行くと他の農業魔法師達が遠くで作業しているのが見えた。数人がかりで詠唱を開始し作物が実っている畑ごと巨大な泥人形として召喚し動かし初めていた。
初めて見る光景に光景に興味がでたゼオラはその事を二人に尋ねる。
それは簡単に言えば土の入れ替えという事だった。次に植える物をあの辺りで植えたいという話になったのでゴーレムとして召喚し別の場所へ畑ごと写し他の場所から土を持ってきて別の物を植えるという感じだった。
なるほどと言ってその光景を見ていると他の所から同じぐらいの大きさのゴーレムが現れ先ほどの場所で沈み込んでいきすぐに畑ができあがった。
「どこでも土人形つかって畑を作るわね。まぁー楽だしね」
「考案者は方はかなり昔に果ての村で白い魔女に聞いたって本に書いてありましたよ。もしかしてアーゼ様ですか?」
「……大昔に畑の相談にきた魔法使いに言った様な気もする」
「それから発展させて帝国独自の技術になったと習いました。野菜や果物だけですが鮮度を保ったまま運べるのも強みですね」
そしてようやく目的の畑にたどり着くとルギスがアイテムバッグの中から四角い石版の様な物を取り出す。その石版に魔力を流すを半透明な板の様な物が中に表示され中には数値などが書かれピコピコと音を立てて動いていた。
「ねぇねぇルギス。そのピコピコはなに?」
「ピコピコって……お婆ちゃんじゃないんですから」
「誰がお婆ちゃんよ」
「これは魔導タブレットと言って国から支給されている物ですね。今は畑の魔力値を測定するのに使っています」
ルギスが畑の方を指さすと四角く囲う様に四つのポールが突き刺さっており、その囲われた中の魔力値などを数値化して可視化しているとの事だった。
「私が……村から出ない間に世の中が進歩してる……」
「私も帝国に引っ越ししてびっくりしましたよ。文明の差に」
「文明いうな。で?この目の前の畑が問題なのよね?」
「はい。他の畑の数十倍ほど保有魔力が高いんですよ……ここまで高いと何植えても魔物化しそうなので植えられないんですよ」
なるほどねーと言いながらゼオラは土を手に取って少しだけ口に含みすぐにベッっと吐き出した。
「なんでこんなに魔力溜まってるのよ?ここまで行くと毒に近いわよ……」
二人に話を聞くと数ヶ月ほど前に大きな演習がありその時に魔導砲の弾がミスでこちらに流れて来てここに着弾したとの事だった。
ルギスもリロリーも畑に溜まった魔力の抜き方は知っているがその通りにやってもその時は減少するが、数日経てば元に戻り原因が不明でお手上げ状態という感じだった。
「上司や他の人にも相談したんですが……皆さん自分の仕事で手がいっぱいの様で」
「働き出すとどう味方を蹴落とすか?を考える様になるって前に村で飲んでた商人が言ってたわよ」
「おいおい……マジかよ」
少し腕を組んで考えた後にゼオラは手を畑の中に突っ込んでから何かを探し始める。そしてようやく何かを見つけたようでつまみ上げさっと土を流しルギスに投げて渡した。
それはゼオラの小指よりさらに小さく光を反射してほんのり光ってる小さな石だった。
「ゼオラ先生。これは?」
「魔石の欠片。それが原因ね。砲弾が着弾した時に畑に散らばったんでしょ。細かく砕けてるとはいえ魔石だから魔力を放出してるのよ。だから一時的に魔力を減らす様な事をしても元に戻るって話」
自分達では見つかれなかった原因をゼオラがすぐに発見した事に二人は素直に関心し驚きの声を上げ、しばらくその小さな魔石を興味深く観察した。
「それでゼオラ先生。解決案はどうすればいいんですか?」
「それはね。この畑からルギスがスコップかなんかで全部取り出せばいいのよ。簡単でしょ?」
楽勝ですね! と言った後にアイテムバッグから移植ごてを取り出しルギスは畑を掘り始めた。
そしてしばらく掘った後に持っていた移植ごてをバシッと地面に叩きつける。
「先生も先輩も止めてくださいよ!いつまでやらせるんですか!」
「放っておいたらいつまでやるか気になるでしょ?」
「確かに……」
「先生が変わって無くて安心しました。それで実際の所どうしましょう?流石に畑が広いので全部の魔石は拾えないと思うんですけど……」
「手っ取り早いのは植物系の魔物を植えて倒す事が一番速いし楽。連中は大きくなる時に土から魔力とか取り込むし魔石があればそれも取り込んで強くなるからね」
ゼオラの提案にルギスとリロリーは少し難しそうな顔をした後に危なくないですか? と質問する。
「まぁ魔物だからしゃーない。あと知り合いに魔物使いとかいない?生まれたてだとテイムしやすいから懐けば畑の防衛に使えるわよ?」
「軍や商業省にはいると聞きますが法農省にも知り合いにもいませんね」
「残念。アルラウネとか植えたらいい話し相手になってくれるわよ」
「アーゼ様……上級の冒険者でも苦戦が必須と言われる魔物をその辺の畑に植えようとしないでください……」
「そういえば村にいた時は魔獣の話をよく聞きましたけど魔獣と魔物の違いって何かあるんですか?」
「ん?特にないわよ強いていえば獣の形をしてたら魔獣でスライムとかアルラウネとか軟体系とか植物系は魔物って感じね。どっちも人にとって害だからどっちでもいいと思うけどね。後は人に害があれば魔獣で利益があれば聖獣って感じ」
「なるほど。お野菜コーナーにキノコがあるのと発酵食品と腐った物の違い見たいな物ですね」
「違うような気もするけど似たようなものかしら?」
「アーゼ様……ルギスを甘やかしては駄目です」
それから三人で話し合いささっと魔物を植えてゼオラが倒すのが一番早いという結論になった。植える魔物の候補にトレントという大型の魔物も上がったが流石に目立つので、目立たずサクッと倒して魔石を回収できる物がリクエストされた。
「そんなのっています?」
「二人じゃ手に負えないのがいるから危ないと思ったけど私が倒すしいいか。原因が分かったら布買いに行きたいし」
植える物を決め流石に魔物の種までは持ってきていないので空間と空間を繋ぎ家に保管してる場所から握りこぶしより少し小さな種を取り出した。
二人がその魔物ついて聞こうとする前にさっきルギスが叩きつけた移植ごてを拾い穴を掘ってさっさとそれを植えてしまった。
ルギスは仕事が速いですねと笑いリロリーは嫌な予感が覚えるとすぐに畑が隆起し始める。そしてゼオラが種を植えた場所からいかにも毒々しい色をした芽が出た。
そして一気に花開き地中に張り巡らされた根も収縮し始め、土が盛り上がりが起き上がる様に人の形をしたとても気味の悪い魔物がその場に出現した。
誤字脱字報告ありがとうございます