第12話 魔女の弟子?
ゼオラが呼ばれた方向を向くとどちらかと言うと黒に近い赤いショートヘアーでゼオラより少し若いか先ほど分かれたシャリーと同い年ぐらいの女性が元気よく手を振っていた。
「ひっさしぶりね。ルギス。何年ぶり?」
「三年ぐらい前におじいちゃんに会いに帰った時以来ですね。ゼオラ先生もお元気そうで何よりです」
「あーなんか一人暮らしさせるのアレだからって迎えに来た時よね。村長は今でも元気に村長やってるわ」
「お婆ちゃんのお墓もありますしおじちゃんは先生ラブですからね」
「この前、酒のもうって誘ったら断られたわよ」
ここにいても仕方ないので二人は簡単な挨拶が終わると世間話をしながら目的の場所に向かって歩き始める。
「ルギス。さっきの広場でよく私をすぐに見つけたわね?けっこう人いたのに」
「昔、先生から教えてもらった畑を上から見る魔法でさっきの広場を見たらすぐに見つかりましたよ。先生は目立つので」
苦笑いしながらルギスが周りを見ると自分達を中心に人が避ける様に道ができていた。その光景をみてゼオラは頭を抱えそうになるが無視して話を続ける。
「昔は使えなかったのに使える様になったのね。なかなか便利いいでしょ?」
「めっちゃ便利いいですよ!雨の日とか家の中から畑の様子見られますし暑い日寒い日以下同文!」
「畑を荒らされた時に考えて作った魔法だからねー」
「ここの畑でもたまに賊とか忍び込んで野菜盗んだりするヤツがいますけど……マジで殺してやろうと思いますからね」
ルギスは十歳ぐらいになる頃に両親の都合でコプス帝国に引っ越す事になった。子供の頃からゼオラになついており姉の様に慕っていたので何気ない話にも花が咲く。
昔話をしながら市場のある通りや商業地区を抜け東側にある門を抜けると、小麦を植えているであろう広大な畑が目の前に広がっていた。
「流石に国が管理してるとなると広くなるわね」
「確かに広いですけどこの辺の畑だけじゃ国を支えられないので試験的な農場ですね。農村の方に行くともっとはたけはたけしてますよ」
「へー。こっちで栽培方法を確立させたらよそでやるって感じ?」
「まさにそんな感じです」
あぜ道を通り進んでいくと畑のど真ん中にレンガで作られたであろう一軒家が建っていた。その建物はコプス帝国で働く農業魔法師が話し合いをしたり休憩したりするそんな建物だった。
よそ者の自分が勝手に入っても大丈夫かとゼオラが尋ねるとその建物を使っている人はあんまりいないし他の人も兵士とか呼んでとお茶を飲んだりしているので大丈夫との事だった。
お邪魔しますと声をかけてゼオラが中に入ると思いのほか広く光も差し込みなかなか住みやすそうな空間に建物は仕上がっていた。
ルギスに適当に座ってくださいねと言われたので帽子を壁に掛けてから年期の入った椅子に座った。
「すぐに畑を見てもらうのも味気ないのでお茶でも飲んでから行きましょう。特に急いでませんよね?」
「大丈夫よ。……そうそうお土産を持ってきたから先に渡しておくわ」
空間収納に手を突っ込んで買ってきたお土産を取り出しルギスに渡した。
ありがとうございますと受け取り早速食べましょうと言ってお茶と茶菓子の準備を始める。そして準備をしながら気になっていた事をゼオラに訪ねた。
「果ての村って転移できないはずでしたけど……それは先生だからって事で勝手に納得したからいいんですけど……どうして明らかに戦闘服着てるんですか?なんか魔力が可視化して放電してますし」
「どうしてって言われても……いっつも着てる服が全部破れてこれぐらいしかいつもの服に似たのが無かったのよ」
「あーいつもの白服ですね。あれって模様とかデザインはちょこちょこ変わってますけど形はほぼ一緒ですもんね。先生は美人さんなんですからもっとおしゃれしましょうよ」
「したらしたでらしくないとか似合わないとか言われるから嫌なのよ。それにほぼ毎日畑仕事するんだから着慣れた服が楽なのよ」
「ドレス着ましょうドレス!似合いますよ!」
「人の話を聞け……それでその話なんだけど畑を見終わったら生地とか売ってる店を教えてもらえない?新しい生地があるとか無いとか仕立屋さんに聞いたからそれで服作ってもらおうと思ってね」
分かりましたーと元気よく返事をし自分の分とゼオラの分、そしてもう一人の分と合計三つのコップなどを用意し先にゼオラと自分のコップに茶を注いだ。
「もう少ししたら先輩が戻ってくるので三つ出しました。それでですね生地ですけど母が生地とか服とか売ってる所で働いているのでそこに行ってみましょう」
「ルギスの両親に会うのも久しぶりね。大きな怪我となかった?」
「大丈夫ですよ。父は木工関係の所で働いていますけど先生には会わせません。鼻の下が伸びて母の機嫌が数日悪くなるので!」
「私に言われてもって話ね。用事もないし元気なら別にいいわよ」
ゼオラの買ってきた茶菓子を食べながら世間話をしているとただいまーと声がした後にルギスより少し下か同い年ぐらいの小柄な女性が戻って来た。
その娘が羽織っていたローブを壁にかけルギスがその娘におかえりーと返事をゼオラがお邪魔してますと声をかける。
ルギスがコップにお茶を入れ皿に茶菓子をいれる。その女性は持ってた道具などを丁寧に片付けてからようやくゼオラ達の方に振り返った。
「その人が……噂の先生って……………………ひっ!?」
その噂がどんな物かゼオラが聞こうとしたが、その女性はとんでもない者を見たようにその場で固まり少し震えていた。
「……ルギス。この人震えてるわよ」
「……リロちゃん先輩。どうしたんですか?まだ春先ですけどそんなに寒くなくないですか?」
「もっももももももしかして!てっ天の魔女様ですか!?」
その意味が分からずルギスはキョトンとしゼオラは大きくため息をついた後にまたかーっとテーブルに肘をつき手で顔を隠した。
…
……
………
そしてようやくルギスがリロちゃん先輩と呼んだ人物が落ち着いたのでゼオラに自己紹介を始めた。
「おっお目にかかれて光栄です天の魔女さま。私はリロリー・ボルケと農法省で働く農業魔法士です。ルギスとは先輩後輩と言った形になります」
その自己紹介にゼオラは顔を隠しルギスは笑いながら反論する。
「リロちゃん先輩……ゼオラ先生は天の魔女……ですけども、畑の魔導師か酒の魔女が似合ってますよ。間違っても怒られはしないですけども」
「あなたは少し黙ってて……それで天の魔女様はこの様な場所に何様ですか?」
「教え子に畑を見に来てって頼まれたのよ……」
「へっ?………………ルギス!!あなた!天の魔女様の弟子だったの!?」
「弟子というかちょっと魔法教えてもらっただけだからどっちか言うと生徒かな?」
「ルギス……天の魔女さまよ天の魔女さま!あなたも知っているでしょ!なんでそんな態度なのよ!天の魔女様よ!歴史にも名前が残っている生きた伝説よ!」
言われたくない黒歴史を連呼され、流石のゼオラの耐えきれなくなり二人にストップをかけてから自分が天の魔女だいう事を最近知った事などを詳しく説明しその二つ名で呼ばないで欲しいと懇願した。
「わっわかりました。ではアーゼ様と呼ばせて頂きます」
「アレ以外なら好きに呼んで……若気の至りで言っただけだから恥ずかしいのよ」
「そういうのってありますよね。私も学生の頃とか眼帯したり手に魔方陣書いたりして学校行ってましたから……いま思い出しても布団に顔突っ込んで叫びたくなりますし……」
「まさにそんな感じよ!泣きそうになるのよね……」
「分かります!!」
「そういえば初めてルギスを学校で見た時は……腕に包帯巻いてその上に鎖も巻いたりしてたわね。目隠ししてたし」
「ぐぁぁぁ!リロちゃん先輩やめろ!本当にやめろーーー!!」
その言葉はルギスに対して思った以上に効果があった様で、近くにあったソファーにダイブした後にしばらく足をバタバタさせ……そして動かなくなった。
心の傷をえぐられ動かなくなったルギスの復活にはしばらくかかりそうだったのでゼオラはリロリーに質問する。どうして自分が天の魔女だと思ったのか? 帝国の歴史にもっているとはどういう事か?
ゼオラの質問にリロリーは姿勢を正してから答えた。
天の魔女その髪は白き雲よりさらに白く、その魔女その服は白を集めたもの、その魔女その魔力を見る事はできないだが白き稲妻がその体を守るなり。
「誰が言い出したのそれ?初めて聞いたんだけど……」
「えっと……初代、地の魔導師様です」
流石は畑荒らし共ろくな事しないと大きくため息をつきそれだけでは自分が天の魔女だとは分からないのではとゼオラは抵抗する。
するとリロリーはコプス帝国には大きく分けて三つの組織があると言い出した。一つは軍隊。これは言わずとも知れた戦う為守る為の組織。もう一つは商業省。これは帝国で作ったり販売したりする物を管理する組織。そしてもう一つは自分達が働く法農省。ここは作物を作ったり果樹園を管理したり薬草を作ったりする様な所との事。
細かく分ければもっとあるがそのリロリー達が働く法農省の代表が地の魔導師であり。大昔に天井界に行く途中で魔女の畑を見た時に地上では育たない作物や薬草が実っているのに感動して作り上げた組織だ。
「枯らされたけどね!」
「すっすみません……」
「それで?」
「それでその後にアーゼ様と十日近く戦った話に続き……帝国に戻った地の魔導師様はアーゼ様の事が忘れられなかった様で肖像画をお描きになってそれが法農省に飾ってあります……私達の様なここで働く者がみれば一発でわかるかと……」
前に聞いた時よりも日数が伸びてるとか思ったがそんな事はどうでも良くて知らない間に自身の肖像画が飾れている事にゼオラはめまいを覚える。
「それって似てる?」
「はい。私が見ても一発で分かる程度には似ています。描かれている服装も今と同じですし……それに初代様は絵もたしなんでいたのでかなりのレベルですので……」
その事実に心が耐えきれなくなりゼオラはとうとう顔面から机にダイブした。
そんなゼオラをリロリーは心配し、復活したルギスは後ろに回り込み白く綺麗な髪を触り始めた。
「絵より先生の方が美人ですから大丈夫ですよ!」
「ありがと……立ち直るまで時間かかるから悪いけど少し待ってて……」
「はい。先生の髪を触っているので大丈夫です」
その癖なおらないわねとゼオラは苦笑しながらもリロリーから聞いた事実をどうしようかと頭痛が彼女を襲い始める。