第11話 コプス帝国
ゼオラはその冒険者の方を向く一人は酒場で知っているが魔法使いと思われる女は初めて見る者だった。
「確か……ハゲイルだったわね。どうしたの?」
「ハゲじゃねーよ!ケイルだよ!……商人達が凄まじい魔導師がいたとか言ってびびってたから見に来たら先生だったって話。で、なんでそんな装備してるんだ?天上界にでも行くのか?」
「あんな危険地帯に用事もないのに行くような場所じゃないわよ。いっつも着てる服が破れたからこれ着てるだけって話」
「へー。それで何か買ってるみたいだけど何処か行くのか?」
「あなたは私の友達か!まぁいいけども……ちょっと用事で帝国にいくのよ。教え子って訳でもないけどお土産の一つでも持って行こうと思ってね」
茶菓子と茶葉の代金をツケで払い終わるとケイルが思いついた様に手を叩きゼオラに頼んだ。自分達も帝国に連れて行って欲しいと。
なぜと思って詳しい話を聞くと元よりこの二人はコプス帝国を拠点に活動する冒険者で力試しとしてこの村に来ていたとの事。自慢の剣もみじん切りにされたので一度戻って装備を整えたいと話した。
「えぇぇーと思ったけど……まぁ酒も飲んだ仲だしいいか」
「言ってはみたが……酒を一緒に飲んだだけで送ってもらえるとは思ってなかった」
「ついでだし別にいいわよ。と言うか……その子めっちゃ震えてるけど大丈夫なの?」
ゼオラがその方向に目を向けるとケイルと同じパーティーの魔法使いが生まれたての子鹿うようにプルプルと震えていた。
「なに震えてるんだ?寒くはないだろ……」
「ちっ違います!魔法使い、魔術師からしたら魔導師様はくっ雲の上の存在で……その雲より高い天の魔女様が……めっめめめ目の前に……」
でた! また天の魔女……と思い恥ずかしさのあまり顔を覆ってゼオラはケイルに文句を言う。
「ケイル……酒の席ではいいけど……シラフの時は止めてって言わなかった?」
「ん?俺は一言も言ってないぞ。面白い魔導師がいるとは言ったけど」
「じゃあ何処をどう見たら私が天の魔女っに見えるのよ……」
店の店主を含めて三人の視線がゼオラの身体を上から下まで何度も往復させ同じタイミングで声にだす。どこからどう見てもと……
「……腹立つから服脱いで肌着で帝国いって痴女の魔女か魔導師で名前を売り直してやろうかしら」
「捕まるから止めとけ……」
「さっ流石にそれは……」
「ぐぬぬ……まぁいいわ。さてとそろそろ飛ぶけどこの村に忘れ物ってないの?」
そう聞いてゼオラは目をつむった。ケイルもその仲間の魔法使いも無いと答えるとまた質問をする。北の方角にある門に飛ぶか南にある門に飛ぶか質問すると北の方は主に貴族達が住む場所になるので込んではいるが南の方がマシと答えた。
「じゃあ……急に出ても向こうの人もびっくりするだろうから少し離れた所にでるわ。人が切れるタイミング見てるからちょっと待ってね」
何が見えてるんだ? とケイルが質問する前にゼオラが店の店主に礼を言った声が聞こえた後に世界が切り替わる。
「よしっと。ちょうど人が切れてる所に飛んだから歩くわよ」
「いっいつ転移したのかぜんぜんわからねー……先生ってマジですごいんだな」
「えっ?えっえ??ええぇぇぇ!?」
「はい。ありがと。こんな感じに魔法を使えたら天上界でも冥道界でも戦っていけるから頑張りなさい」
そう言って少し離れた場所に見える大きな門に向かってゼオラは歩き始めたので二人は慌てて後を追った。
そしてしばらく歩くとその大きな門で検問している様で渋滞が発生していたので特に急ぐ事もないので三人は列に並んだ。
ただ本人は全然気にしていないがフル装備のゼオラはとても目立つ様で前後にいる人達やすれ違う人達に変な目で見られていた。
そんな中でゼオラの雰囲気にようやく慣れたのか、ケイルとパーティーを組んでいる魔法使いが意を決してゼオラに話しかける。
「まっ魔女様……おっお目にかかれて光栄です。私はシャリー・ボルケといいケイルとはパーティーを組んでいる魔法使いです……」
「私はゼオラ・ゼ・アーゼよ。果ての村の相談役もしくは畑の魔女か魔導師って事にしといて……アレは黒歴史だから飲んでる時は良いけど……シラフの時は本当に止めてね。ゼオラでもアーゼでも好きに呼んでくれれば良いわ。村の人とかケイルは先生って呼んでるわね」
「わっ分かりました」
ケイルやシャリーと世間話をしながら並んでいるとようやくゼオラ達の番がやってきた。
ただゼオラ達の前に並んでいた人達とはすこしかってが違い門を守る兵士達は隊列を組みこの門を任されているであろう者がゼオラ達の対応を始める。
「こっ高名な魔導師殿と思われるが……このたびは……コプス帝国に何様であられるか?……私はこの門を国より預かっている兵士長でございます」
他との違いにゼオラは軽くめまいを覚えケイルは吹き出しシャリーはあわあわと慌て始める。
「高名というか無名よ無名」
「むっ無名ですか?」
そんなやり取りをみてケイルとシャリーは軽く呆れる。
「先生が無名ってどうよ……」
「アーゼ様……が無名だとこの世の全ての魔を扱う者は名無しになりますね」
「外野はだまっとれ!……この二人はコプスの出らしいから先に受け付けしてくれる?私は観光じゃなくて知り合いに会いに来ただけだから……通行料はいくら」
「分かりました。では先にそのお二方からですね……そのお知り合いと言うのはこのコプス帝国を守る。地の魔導師グライ・ロキアス様の事でしょうか?……そうであるならばすぐに連絡をお入れしますが……」
ここにも六星魔こと畑荒らし六人衆がいるのかとゼオラは軽くめまいを覚え倒れそうになるがなんとか踏みとどまった。そして兵士達は言われた通りに先にケイル達の冒険者プレートを確認し通行の許可を出した。
ゼオラも嘘くさいが街にいる知り合いに来たという事にしてもらい銀貨三枚の通行料を払おうとするが……
「ケイルかシャリー……悪いけどお金貸して!」
「先生……どうしたんだ?」
「村だと基本的にツケで飲んだり買い物するからお金を持つ感覚を忘れてた……この前、王国いって串焼き買って使い切った」
「……先生。たまには村の外にでた方がいいぞ」
「出る時は村長とか村人とか言ってくれるから村で換金してから行ってる……」
シャリーが慌てながら少し待ってくださいねと言ってから門兵達にお金を払い無事にゼオラは帝国に入る事ができた。
門を通り街に入る三人をみて兵士が兵士長に話しかける。
「どうします?すぐに王宮へ通達しますか?」
「いや……止めておこう。魔力を感じさせない魔導師が魔力を可視化させていた。そんな芸当をできる者は私は見たことが無い。そんな者が無名というはまずあり得ない……名を隠したいか本当に休暇で知り合いに会いに来たのだろう」
「なるほど……」
「何かあればすぐに動けるし今は見守る事にしよう。『魔導師よ心穏やかであれ』帝国に伝わる古い戒めだ。」
「休みの日にうるさくされたら腹立ちますもんね」
「まぁそういう事だ。天の魔女も動き出したと聞く……もしかしたら今の人がそうかも知れぬな」
◆◆◆
「俺、ここに入る時にあれだけ丁寧に対応されたの人生で初めてだな」
「私も……」
王国とは少し違う街並みを歩き、六人の魔導師が天に杖を掲げる噴水がある中央の通りで三人はいた。
「俺たちは一旦、冒険者ギルドに行くが先生はどうするんだ?……って言うか先から何探してるんだ?」
ケイルがいう様に門を通ってからゼオラは空間に腕を突っ込み何かを探していた。
「シャリーにお金借りたままだと悪いから代わりになるもの渡しておこうと思ってね」
「アーゼ様……通行料ぐらい良いですよ」
「よい冒険者の心得その一。お金の管理はしっかりしましょう。銅貨一枚銀貨一枚で救われる命は普通にある。よっぽど時はつぶてとしても使えるからね」
「……まじか。じゃあその二は?」
「いま考えたから知らん……高すぎても駄目だしちょうど良いのがない」
「先生よ……高い分にはいくらでもいいぞ?」
「おん?……昔の価値になるけど帝国で簡単に豪邸が建つぐらいの価値だった魔石出してやろうか?まだそこそこの値にはなるとおもうけど?」
「……すまん。いろんな所から目つけられそうだから止めとく」
分かればよろしいとゼオラが頷くとようやくお眼鏡にかなう物が見つかりそれを手に取りシャリーに手渡した。
「これは?毛皮に見えますが……」
シャリーがいう様にそれは魔獣の毛皮だった。ただそれは何処を見ても切った様な後は無く中にあった肉などはどうなったという様な綺麗な物だった。
「村のガキンチョ共がぬいぐるみ欲しいとか言い出したから魔法で肉とか骨とかだけ綺麗に消した皮。それに綿入れて目とか塞いだらできあがり。それを売ったらたぶん最低でも借りた分ぐらいにはなると思う」
「へぇー綺麗な毛並みですね。ウサギの魔獣ですか?」
「私が住んでる辺でよく見かける奴。なかなか美味しいわよ」
「わかりました。ありがとうございます。私もぬいぐるみとか好きなので綿入れて飾ろうと思います」
「まぁその辺は貴方の物だから好きにしてよっぽどお金が良かったってなったら果ての街に来てくれればちゃんとお金で返すわ」
「こっこれで十分ですよ……」
それから少し話をした後にダラダラとここで話す事も無いのでケイルが切り上げる。
「俺たちはそろそろ行くが先生はここで待ってるのか?。俺たちは行くけど元気でな!また果ての村に行くからその時は飲もう」
「待ち合わせといえばこの辺って村長が昔言ってたし適当に待ってるわ。まぁ死なない程度に頑張りなさい」
「はい。アーゼ様もお元気で。では失礼します」
二人はゼオラと別れた後に冒険者ギルドとは違う方向に向かっていた。
「あれ?ケイル何処に行くの?」
「さっきの毛皮を売りに行く。先生が住んでる所にいるウサギだろ?絶対に高い!そして俺の剣を買う!」
「嫌だよ!私がもらったんだよ!綿入れてぬいぐるみにするの!毛触り気持ちいいし!」
「ぬいぐるみで魔獣が倒せるか!ささっと装備そろえてまた果ての村に行くんだよ!」
「だっだから駄目だって!」
この後、ケイル達のパーティーが解散寸前までいった事などゼオラはつゆ知らず、自分が座っているベンチの周りに全く人がいないのを不思議に思っているとようやく目的の人物が姿を現した。
「アーゼ先生!ご無沙汰してます!」