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畑とお酒と天の魔女  作者: 絵狐
一章 畑とお酒と天の魔女
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第1話 魔女の名は?

 この世界には六星魔と呼ばれる者達がいる。


 竜の魔導師・光の魔導師・冥の魔導師・地の魔導師・空の魔導師・海の魔導師の六人だ。


 その力は絶大で一つ魔法を唱えれば空を断ち海を割り大地を切った。 


 その魔力は空より高い星に届くとまで言われた。


 人々は畏怖と敬意を込めて六人を六星魔と呼ぶようになった。


 人類の中で最高の魔導師と言われた六人だが一度だけ敗北を覚えた事がある。それもその六人が力を合わせ新天地を求める際に出会った一人の魔女だ。


 手を伸ばせば届く者と手を伸ばさずとも届く者……六星魔は前者だった。魔女と遭遇し敗北した六人はいくら強かろうとまだ世界の理にいる者だった。世界より遙かに高い所にある天には勝てるはずもなく何もできないまま負けた。


「我々が……赤子扱い……お前は何者だ」


「お前たち程度が魔導師を名乗るなら……」


 魔女は空より遙か高くえを指さし答える。


「我は天!天の魔女ゼオラ!」


 竜・光・冥・地・空・海でも届かない史上最強の魔導師……


 それを人々は天の魔女と呼んだ。



 ◆

 ◆◆

 ◆◆◆


「って話らしいぜ?」


 村の小さな酒場の主人が常連客であり少し変わり者の魔法使いの女にそう話しかける。


 女はあきれた様にジョッキに入れられた酒を飲み答える。


「その話聞いた事はあるけどさー。どっちも恥ずかしいわ!私の持論なんだけど魔法と魔術を極めた者を魔導師って呼ぶのよ。極めるってそんな簡単な事じゃないからね。それなら私は畑の魔女か?お野菜の魔導師か?何年畑耕してると思ってんねん!毎年、畑で新しい発見あるわ!」


 そう言って勢いよく酒を飲むので酒場の主人は自称畑の魔導師に酒をつぎ足す。


「そういや先生って何歳なんだ?俺が子供の頃から姿形が変わってない気がするが……まぁ魔法使いとかは長生きするし見た目が若いって聞くけどな」


 この世界では魔法を使う者は年の割に見た目が若い事がほとんどだ。寿命も長かったりもするがせいぜい長くても二百年あるかないか位の物であった。


「う~ん……たしか……今年で600飛んで21歳のはず……長生きしすぎて訳分からん」


 酔っ払いがいつも言うあれで酒場の店主もつまみを出しながら苦笑いする。


「そういや先生の名前もゼオラだったよな?もしかして本人とか?」


 隣で飲んでいた軽装に身を包んだ冒険者の男も店主と魔女の会話に入ってくる。


「私もゼオラだけども私はそんな恥ずかしい事言わない。と言うかこの広い世の中にゼオラ何人おんねんて話な訳で。この村にも二人くらいいる」


「確かにいるな。二件隣の子供がゼオラだったな。先生から名前もらったって親が言っていたな」


「あの子か。誰かと違って行儀良くて挨拶もしっかりできる子だったな」


 二人が笑いながら隣で行儀悪く酒を飲む自称六百歳の女をみる。


「おん?お前ら何笑とんねん。私も挨拶ぐらいできるわ。六百歳超えてる綺麗なお姉さんやぞ」


「六百歳はババァだろ……と言うか、そんだけ年をとってるならもっと上品に飲んでくれ……」


「誰がお婆ちゃんだ。ぶっ殺っすぞ。体が二十代前半だから魂もそれに引っ張られるから魂も二十代。まぁ逆に魂に引っ張られて体が変化する事もあるけれども……ゴクゴク……ぶはぁぁーーもう一杯!」


「ほー……魔法にも色々あるんだな~。と言うか先生よ。明日は村長に呼ばれたから村に来たんだろ?そんだけ飲んで大丈夫か?」


「いけるいける。回復魔法はほとんど使えんけど解毒薬ぐらいなら持ってるからいざとなったらそれ使う。と言うか村の畑の相談だから酔っててもいけんべ。私は畑!畑の魔女ゼオラ・ゼ・アーゼ!お野菜の魔導師でも可!」


「うん。もう酔ってるわ。あと……2~3杯くらい飲んだら沈むな。というか先生よ。村長の用事が終わったらまた寄ってくれるか?」


「おん?酒でもおごってくれるんか?」


「まぁ……飲むなら酒ぐらい出すが。また氷蔵庫と冷凍室の冷えが悪くてな少し見て欲しい。今日の飲み食い分が報酬でどうだ?」


 この村はかなり辺鄙な所にあり他の地域と交流はそんなにないのだが、村で取れる薬草や魔物から取れる物が貴重だったり森の奥深くに行くと、かなりの強さを持った魔物が出る為に商人や隣で一緒に飲み始めた冒険者などにはそこそこ人気のある村だった。


 商人なども取り引きがあるので都会などで売っている物を冷やしたりする最先端の物なども入って来たりはする。ただ修理したりできる人が村にはいないので森の奥からちょくちょく来る酒飲みに頼んで修理してもらう事がほとんどだった。


「それだったら今から見ようか?ああいう生活用の魔道具って魔術をいじくった物が多いから割と簡単に直るし」


「お?それを先生が言うか?数ヶ月前に飲んでる時に酒を冷やす魔道具を直しにいって全部凍らせたの忘れてないが?」


「……すま○こ!昨日の事の様に思い出せるわ。やっぱり酒は人類の友であり敵ね。次の日に頭痛くなるし」


「それは飲み過ぎだ」


 それからしばらく飲んだあと三杯目を飲みきった辺りで限界が来たようで酒飲みことゼオラは机の上で寝始めた。その光景を見ていつもの事だったが酒場の店主は大きなため息をつく。


「……いつも通り過ぎてため息しかでん」


 その言葉通り酒場の店主は大きくため息をついた後に寝ているゼオラを背負った。そして飲んでいる客達に寝かせてくると伝えてから二階の空いてる部屋のベッドに捨てて鍵をかけ部屋を後にした。


 こうでもしておかないとゼオラの場合は馬小屋で寝ていたり隣の犬と外で一緒に寝ていたりといった目撃例が後を絶たない為だった。


 飲んでいた客達に戻った事を伝え店主はカウンターに戻る。


「先生って見た目は抜群なのに色々ともったいないな。ほぼ冒険者専用の宿に泊まらせて大丈夫なのか?」


 先ほどの若い冒険者が店主に質問すると店主は笑いながら答える。いっつもあんな感じで下手をすればもっとひどいが村の人達は全員知っているし感謝もしているから村人で悪さをしようと考えるヤツはいないとの事。


「そうなんだ。俺はこの村に来るの三回目ぐらいだからなー」


「それに先生はかなり強いからな。見た目だけはいいからよく冒険者に連中に絡まれて返り討ちにしてるのは見るぞ。あとたまに肉が食いたくなったとか言って村のハンター共が束になっても勝てない鳥とか持ってくる」


「まじかよ……先生って森に詳しいのか?奥の方に住んでるとか言ってた気がしたが」


「歩いたらここから十日くらいかかるぞ。この辺は転移できんが……まぁ確かに遠かった。昔っからふらっと現れてフラフラっと帰るから森には詳しいぞ」


「あーだったら森の事聞いた方が良かったかな?明日から入ってみようと思ってたからな~」


「それだったら聞いてる。この村のハンターが聞いてたからな。奥にいくなら赤い木までにしとけだとよ。それより先だと魔物とか魔獣とかの縄張り争いの時期なんだとよ」


「……でた噂の赤い木。前の時も森に行ったがそんなのなかったぞ。緑と青は見つけたけど」


「て事は兄ちゃんは冒険者としては金級の実力って話だな。緑の木が銅。青い木が銀。赤い木が金。黄色い木が白・黒い木が見えてきたら黒だったかな?それで黒い森を抜けたら人外に片足突っ込んでるって先生が言ってたな」


「嘘くせー」


「俺もそう思うが自己責任だしな。進みたいと思ったら進めば良いし駄目だと思ったらやめたらいい。冒険者ってそんなもんだろ?」


「へいへい。見つけてもそこまでにしときますよー食料の加減もあるし」


「まぁたまには年寄りの話を聞いてバチが当たることもないだろ。それでまだ飲むのか?」


「酒となんか適当につまむ物を頼む。そんな朝早くから行かないしな」


「あいよ」


 男は酒を飲み他の冒険者や村人達と情報交換などをし夜も更けていった。   


 そしてようやく太陽も顔をだし朝を迎える。昨晩の飲み過ぎた先生と呼ばれる女、ゼオラも顔に朝日を浴びて眠い目をこすってようやく目覚める。


「……あったま痛。これ水もらわないと死ぬパターンだ」


 鈍器で頭の中を殴られた様な痛み……二日酔いの症状に悩まされながらゼオラは水をもらう為に部屋を出て一階へと下りていく。


 その一階に向かう道中ですれ違う者がゼオラを凝視する男は鼻の下を伸ばし女は顔を赤らめた。


 他人の視線が少し気にはなったが頭が痛くてそれどころではないゼオラは一階におりる。


 ここの酒場は部屋数は少ないが冒険者や商人用に宿としても経営している。昼は店主の妹さんと従業員が簡単な物を作る食堂として運営し夜は店主が酒場をするというような感じの場所だった。


 ゼオラは空いてるカウンターテーブルに座り、奥にいる妹さんに声をかける。


「おっお水ちょうだい……死ぬかもしれない」


 寝ている店主から先生が来ていると書き置きがあったのでそろそろ来るだろうと思っていた店主の妹が振り返る。そしてゼオラの姿を見て大きな声を上げて驚く。


「ちょっと!先生!服は!肌着しか着てないじゃないか!」


 二日酔いのゼオラに妹さんのキンキン声は下手な攻撃魔法よりも効果がありゼオラは頭を押さえてその場に倒れ込む。


「うぉぉぉぉ……死ぬ。落ち着けおかみ……先に水を……」


「駄目!いいから先に服を着てきな!私より年上かも知れないけど先生も女だろ!」


「ぐぉぉぉ…………見られて困る体はしてないから大丈夫…………」


「困るとか困らないの前に気安く人に見せるなって言ってんだよ!」


 ここで争っては死の危険があると判断したゼオラは色々と諦めた後に指をパチンと鳴らした。すると光がゼオラの体を包み込み、部屋のどっかその辺に置いてあった服を転移させ一歩も動かずに服を着る事に成功する。


 

 その光景を見ていた周りの者たちはその魔力操作の技術の高さに感心し、おぉっと歓声をあげた。


 ……ただまぁ二日酔いなので上に掛けているフードだけは裏返しになっていたのでそれだけは着替え直した。


「と言うわけでおかみ。水……」


「先生……すごい魔法使いなんだからもっとしゃんとしなよ」と奥さんは店主と同じように大きなため息をついた後にジョッキに水を入れてゼオラに差し出した。


 差し出された水をまずは一口飲んでから腰のベルトに付いている小さなポシェットから自分で作った丸薬を取り出し残りの水と一緒に飲み込んだ。


 するとその効果は絶大だった様でゾンビの様な顔色は命を取り戻し、頭に鳴り響く百人が一斉に鍋を叩く様な音はようやく大演奏をやめた。


「あー……死ぬかと思った」


「そう思うなら先生はもう少しお酒を控えなよ」


「ふふん。本人に治そうという気がないなら誰が何を言っても無駄よ」


「はいはい。それで村長の所に行くまではまだ時間あるんだろ?朝ご飯でも食べていくかい?」


「そうね……少しお腹も減ってるし何か作ってもらえる?メニューは女将にまかせる」

 

「あいよ」


 村長との約束の時間までまだ時間があったのでゼオラはおかみが作ってくれた卵料理を楽しんだ。  

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