その二
どうもー。ただ甘いだけの恋愛小説その二です。
といっても、今回はそこまで甘くはないかもしれません。字数少ないでしょ?
次回の物語の繋ぎの部分を書きたかったので、ドキドキ展開やイチャラブ展開は次回に持ち越しです。
でも、じゃあいいやとか言わずに最後まで読んでいただければ嬉しいです。
「修学旅行の三日目は一日自由行動になります。基本的に沖縄県内であればどこに行ってもらっても構いません。ただし条件が二つあります。午後六時までにホテルに戻っていること、そして二人以上のグループで行動することです。教員の目が全体には届かないので、単独行動は危険であると判断しました。協力していただけなければ来年以降自由行動が無くなる可能性もあります。後輩のためにもくれぐれもルールを守って楽しむように」
担任の先生の話が終わると、クラスのみんながそれぞれ仲のいい人とグループになって話し始めた。私も立ち上がって京子のもとへ行く。
「京子ー、歌純と三人で行こー」
「もちろん!どこ行く?」
「うーんとね、とりあえず、あの、ほら、御菓子御所?みたいな店あったじゃん。あれ行きたい」
「紅芋のタルト売ってるとこでしょ。行こ行こ。LINEで歌純に伝えよ」
ポケットからスマホを取り出してLINEを開く。
一番上にある私と京子と歌純のグループトークをタップする。
『修学旅行三人で回ろー』
『OK』
『どっか行きたいとこある?』
『首里城』
『あーいいね』
『あとは?』
『美ら海って行くっけ』
『たぶん初日に行くはず』
『じゃあ万座毛』
「なぁ、爪川。ちょっといいか」
LINEで話していると、突然柳橋くんに話しかけられた。柳橋くんの表情はいつもより少し硬い。急にどうしたのだろう。
「どうしたの?」
「……もしよかったらでいいんだが、自由行動一緒に行かないか」
「……え?」
「あ、いや、嫌ならそれで構わない。見た感じもうグループ決まってるみたいだしな」
そんな、嫌だなんて、そんな訳がない。絶対に、天と地がひっくり返ってもありえない。
「ぜ、全然嫌じゃない!むしろ一緒に行きたい!」
……あ。
「……本当か?いいのか?」
つい、感情に任せて口走ってしまった。
答えに困って隣で座っている京子の顔をちらりと見る。京子は小さく頷き口パクで「行け」と言った。
「うん……じゃあ……二人で……行こ?」
「ああ、わかった。良かった。ありがとう」
そういうと柳橋くんはスマホを取り出す。
「連絡先交換してなかったよな。交換しておこう」
「う、うん」
一年生のときから同じクラスだったにもかかわらず、実は柳橋くんとは連絡先を交換していなかった。理由は単に私が連絡先を聞く勇気がなかったからだ。
柳橋くんがスマホの画面にLINEのQRコードを映し出して私のほうに向けた。おそるおそるQRコードを読み取る。
画面に「楓真」という名前の連絡先が表示されている。「追加」ボタンを押してLINEを登録する。
「交換できたな」
「うん……」
まさか柳橋くんの方から連絡先を交換してくれるとは思わなかった。なんとも照れくさいが、とても嬉しい。
「じゃあ、また後で連絡する」
「うん、わかった」
柳橋くんは自分の席に戻っていった。
自分のスマホの中に夢にまで見た柳橋くんの連絡先がある。嬉しすぎる。スマホから目が離せない。
「何スマホ見てニヤニヤしてんだー」
京子の声で我に返る。
「あ、のさ、そういう訳で、二人とは別行動でいいかな……?」
京子はため息をつき、仕方ないとでも言うように頷いた。
「デート楽しんできな。私たちは二人でデートしてるから」
「で、デート……!」
デート、なのだろうか。そうなのか。それは……嬉しくて楽しみで緊張してちょっと恥ずかしくて、なんだかむず痒い。
手に握ったスマホが震える。
何かと思って見てみるとLINEの通知だった。
『というわけで、雛望は別行動です』
『え、なんで』
『雛望は柳橋くんとデートします』
『は?!』
『ごめんね、こっちが誘ったのに』
『やったじゃん!!え、すご!!なんで?!まじで?!こっちは大丈夫だから楽しんで!!』
『なんでかはうちが説明する』
『ほんとにありがとう』
二人にも了解してもらえたから、これで正式に柳橋くんと二人で自由行動に行ける。
そっか、デートか。人生初のデートになるのか。やばい、ニヤけがおさまらない。行く場所が一ヶ所も決まってないのにもう楽しみだ。まだ修学旅行は三週間も先なのか。長い。長すぎる。早く来て欲しい。今すぐにでも行きたい。修学旅行が、その三日目があまりにも待ち遠しい。これは楽しみすぎてしばらく寝不足になりそうだ。
翌日。放課後。
「今日部活?」
「今日は休みー」
「じゃあ一緒帰ろー」
ちょうど歌純の部活が休みだったようなので一緒に帰ることにした。
歌純とは住んでいる市が同じなので、途中までは道が同じなのだ。
昇降口を出て校内の桜並木を歩いていく。
色付いた葉が風に舞い、アスファルトにひらひらと落ちていく。
「うわーもう秋も終わりかー」
「だねー。早いねー」
歳をとるにつれて、一年が早く感じるようになってきた。高校に入学したのがまだ昨日のことのようなのに、もう修学旅行が近いのかと思うとなんだか寂しい気もする。
「てかさ、修学旅行で柳橋くんとデートするんでしょ?」
「で、デェト!?」
突然そんな話を振られると驚いてしまう。思わず変な声が出てしまった。
「ちょ、やば、何その声、ウケるんだけど」
「いや、そりゃあいきなりそんな話題が飛んできたら誰だってびっくりするでしょ」
「そう?雛望がうぶすぎるだけじゃない?」
「そうかなぁ……?」
なんの前フリもなしに「デートするんでしょ?」などと言われたら誰だって驚きそうなものだが。
「デートの場所は決まったの?」
「ううん、それはまだこれから。一応柳橋くんとLINEは交換したんだけど」
「うーわ、やってんなあ。もうLINE交換してんだ」
「そ、それは、その、柳橋くんと行き先について相談しないとだし……」
そのためには何かしらの連絡手段が欲しかった。だから、柳橋くんがLINEの交換を持ちかけてくれたのはただ嬉しいという感情とは別にとてもありがたかった。私から柳橋くんに頼む勇気はなかった。こう言っては身も蓋もないのだが、まさしく渡りに船の状況だったわけだ。
「まあ、理由は何であれ好きな人の連絡先をゲットできたんでしょ。しかも追加オプションでデートの約束までしてさ。よかったじゃん」
歌純が投げやりにそう言う。
「本当に良かったって思うならそんな吐き捨てるように言わないでよ」
「あはっ、ごめんごめん。だってさ、両思いって言っても普通そんなに順調に行くとは思わないじゃん。なんで?ほんとはもう付き合ってるの?」
「つっ、つきっ……!!」
想定外の言葉に急速に顔が熱くなる。
なんて言うことを言うのだろう、歌純は。そんな、柳橋くんと付き合っているだなんて、そんなこと。
「お、恐れ多い……」
「赤くなりすぎじゃない?どんだけ照れてんのよ」
そりゃ、照れないほうがおかしい。
「ちょっと、そろそろ、心が保たないかも……」
「えー、こんなんでパンクしそうになってんだったらデート中に死ぬんじゃないの?」
それは困る。せっかくのデートを最後まで満喫できないなんて悲しすぎる。いや、でも。
「そうは言ってもちょっとまだ心の準備がね……」
そろそろ本当に勘弁してほしい。
「もーしょーがないなー。今日はこれくらいにしてあげよう。三週間あるんだから、その間に心の準備しとくんだよ?ちゃんと彼とのデート楽しむんだよ」
「だからその呼び方は……!」
これくらいにしてあげよう、とか言いながらからかっているではないか。
「じゃ、そういうことで!また明日ねー」
「あ、ちょ、歌純!!」
こちらが追いかける間もなく、歌純は走って駅の方へと向かっていってしまった。
「まったく、もう……」
本当に、歌純は、もう。友だちになったときから思ってはいたが、改めて騒がしい子だと思う。まあそこが歌純のいいところなのだが。
それにしても。
こんな状態で、三週間で心の準備などできるのだろうか。だいぶ時間があると思っていたが時間は案外足りないかもしれない。というか、心の準備って言っても何をすればいいのだろうか。
ブーブー。
スカートのポケットの中のスマホが震えた。取り出してみると、画面には。
「柳橋くん……!」
どうしたのだろう。いや、どうしたもこうしたもなかった。修学旅行の行き先の相談だろう。ただそれだけのことなのに何を私は舞い上がっているのだろうか。
立ち止まって深呼吸をする。少し心臓の鼓動が落ち着いたところでLINEを開く。
『自由行動で行きたいところはあるか』
どう返せばいいのか。
……ひとまず行きたいところをそのまま伝えてみよう。
『御菓子御所、みたいな名前のお店あるじゃん。あれ行きたいかな。柳橋くんは?』
すぐに柳橋くんから返事が返ってくる。
『紅芋のタルトが売っている店だな?いいな、行こう』
『俺は首里城と波上宮に行きたい』
『首里城いいね。波上宮ってなに?』
『波の上ビーチって場所の近くにある神社だ』
『そこもいいね。私も行きたい』
『じゃあ、そこは決まりで。他にはあるか』
『ちょっと調べてみていい?』
『ああ。俺も調べてみる。またどこか見つかったら教えてくれ』
『わかった!ありがと!』
『ありがとう』
「ふぅ……」
スマホの画面を消す。まだ心臓が大きく脈打っている。こんなにもドキドキするなんて。自由行動の行き先を決めるだけの何の変哲もないLINEのはずなのに。
好きな人と会話するのは、どんな内容であってもこんなに楽しいものなのか。知らなかった。
柳橋くんとLINEを交換することができてよかった。なんだかいつでも柳橋くんとつながっていられるような気がする。
実際に近くにはいなくてもいつでも隣にいるような、そんな感覚だ。
それはとても嬉しいことで。とても幸せなことで。
これまでのままの生活だったらありえないことだった。
それを変えてくれたのは、ほかでもない柳橋くんである。
柳橋くんが同じクラスにいてくれたから。柳橋くんが私に話しかけてきてくれたから。
だからこそ私は今こうして愛おしいまでに幸せな時間を過ごすことができているのだ。
そのことを実感しながら見る夕暮れの空はいつもより赤みを帯びているような気がする。
吐いた息が茜色と赤橙色の空に昇って溶けていった。
読んでいただきありがとうございます!この作品では誤字・脱字報告、感想、レビュー等を募集しております。何かしら書いていただけると作者としてはかなり励みになります。お忙しいこととは思いますが、ぜひぜひお願い致します。
というわけで次回は修学旅行当日編の予定です!変わるかもしれませんが!