4 指名依頼
詠唱は敵に悟られないように密かに呟くようにそれが基本らしい、だから対峙した相手でも聞く事は出来ない、魔法陣は魔法の書のなかにある形を記憶し発動するのだから見える訳がない、ギルドの書庫で調べて分かった事だが、それを知った時に冷や汗がどっと出る思いだった、という事は聞こえて見える事は俺の生まれ持ったスキルなのか、物心ついた頃から聞こえたし見えた、人に話した事は無かったのは本能がそうさせたのかもしれない、これは他人には絶対知られてはならない秘密にしなければ、知る事が出来て良かったそう思うと再び冷や汗が出た、生活費程度の魔物を狩りながら魔法の研究修行を続けていた、種類を増やすのではなく今記憶にある魔法を使う為の訓練が主だが、詠唱と魔方陣をオリジナル化して使うのだが、強力な魔法になるに連れ多くの魔力を消費する筈が、オリジナル化すると少量の魔力で強力な魔法になってしまい、制御が難しくなってしまう、多量の魔力を少量にして威力を押さえるなら何とか出来るだろうが、少量の魔力をさらに少量に抑えるのは難しい、修行によって何とか出来る様になったが、武器による敵は剣で何とかなるが魔法を使う敵の場合、俺が魔法を使えば間違って殺してしまう危険がある、あくまでも想定した話で実践したわけではないが心配だ、何とか良い方法はないか研究している時偶然ある事に気が付いた、幾つもの魔方陣を記憶の中で調べて行くうちに、魔法陣には全て中心に核となる場所がある事に気が付いたのだ、だからどうしたという話だがある魔方陣を整えている時、誤って中心にある核を傷つけてしまったのだ、すると魔方陣が消滅してしまった
「これは、ひょっとして」
魔方陣を出現させて幾つか試してみると、核の部分が少しでも傷ついた魔方陣はすべて消滅してしまった、消滅しても詠唱を唱えイメージによって再出現は可能だが、使おうとした場面で消滅したら再度詠唱して出現させる間に、魔物であったら襲われて終わりだし敵であったらやられてしまう、これは凄い武器になる大発見だった、俺は魔方陣が見える敵が魔方陣を発現させたらそれを消滅させればいいのだ、術者本人を傷つける事無く相手を無力化する事が出来る、俺は嬉しくてその場でじっとしていられなくて走り回ってしまったが、俺一人だけの秘密だから誰にも話せない、誰とも喜びを分かち合う事が出来ないのは少し寂しかった
魔法を熟知していくうちに魔法を複数重ねる事が出来る様にもなった、光魔法に雷魔法を加えて光線にして飛ばし相手を痺らせるとか、光魔法に熱を加え所謂ビーム光線、重力魔法と風魔法でそれを飛ぶ、複合させる事によってさまざまな魔法が創造できた、俺は有頂天になったがこの喜びは全て隠さなければならない事ばかりだった
魔法の研究と修行の面白さにギルドに顔を出すのは久しぶりだった、修行として倒した魔物は当然時空魔法の異次元空間に収納してあり、一部を事前に袋に入れて持ってきた
「買取お願いします」
「久しぶりじゃない、間に合って良かった、ギルド長が部屋に来てくれって」
「俺は来なかった事にならないかなぁ」
「そうは行かないわよ、ギルド長が困っているようだから力を貸してあげてよ」
「俺なんかに頼むよりもっと腕利きがいっぱいいるだろう」
「アローじゃなきゃダメ見たいよ」
「そうなのか、それはきっとロクな話じゃないな」
「そうでもないかもよ」
「知っているのか、教えろ」
「教えない、口止めされてるから」
「良いじゃないか、おしえて」
「駄目」
「ケチ」
受付嬢とはだいぶ親しくなっているが、あまり親しそうにすると周りの冒険者の視線が刺さる感じで痛みさえ感じそうだ、男の嫉妬はみっともないと思うが受付嬢は皆のアイドル、独り占めしてはいけないという事らしい、仕方なくギルド長室に向かった
「おお、来たか」
「来てくれって言うから来たけど」
「まぁ、そう不機嫌な顔をするな」
「どうせロクな話じゃないと分かっているから」
「悪い話じゃないぞ、領主様からの指名で護衛の仕事を頼みたい」
「やっぱり悪い話じゃないですか、俺は貴族には関わりたくない」
「何でだよ、報酬も良いし良い話じゃないか」
「報酬はどうでも良い、貴族と関わるとろくなことにならない、と言うより面倒で疲れる」
「そこを何とか、今回だけだ頼む」
「嫌です」
「日頃お世話になっていて断れないんだ」
「俺じゃなく他に腕利きがゴロゴロしてるじゃない」
「お前を御指名だから他の奴じゃ駄目なんだ、俺ではなく支部の仲間の為だと思って受けてくれないか、領主様にはいろいろと世話になっているんだ、この支部は」
痛い処を付いて来た、拠点を変える事は考えた事も無いし、支部の為と言われては
「分かった、今回だけだからね」
「受けてくれるか、助かる、ありがとう、出発は三日後の早朝だ、頼む」
ギルド長の嬉しそうな顔を見ると何も言えなかった、買取の金を受け取ってギルドを出た