渾身の力で能力を放ってくるの
クロアはカフェを出て一人、協会の四つの柱である別館へと向かった。
……どういうことだろう?街中が静まり返っている。
人もほとんど見当たらないな。
いつもならこの辺りの道では、祭りなどの催しをやっていたりするのに……。
「……やあ、クロア君、元気だったか?」
「え?ロルドさん?どうしてここに?」
「ボスの命令でちょっとな」
「……おい、少年」
「レイさんもいたんですか……?あれ?まさか組織に」
「ちょっとした賭けに負けて仕方なくな……」
レイさんも組織の一員か。前はどこにも属さないとか言っていたのに。
「とにかくボスは君に急いで来てほしいとのことだ」
「ついに大神官と直接の交渉が始まるんですね?」
「そういうことだ。あ……今俺の能力をガードしたな?」
「すいません……」
「ついに俺を超えられてしまったか」
「とっさに防衛反応で」
「いや、むしろこれでいいんだ」
そうか……。もう俺の力はロルドさんを余裕で超えているのか。
「……ここで立ち止まっている時間はないぞ、ボスは少年をご所望のようだ」
「何で俺なんですかね……?」
「それは、あなたにしかできないことがあるからです」
クロアの背後から、突然小さな声が聞こえた。
「うわっ……びっくりした。えっと、どちら様?」
「とにかく急いでください」
「はい……」
水色の髪の人か……。
どこかで見たことがあるような気がするんだけど誰だっけな……?
「では私は用事がありますので、これで」
そう言い残すと、水色の髪の青年はフードを深く被り颯爽と去っていった。
風のように来て風のように去る……。まさかあの人が……?
「……いいか?まずはこのまま道なりに進んで協会の別館に入り、
内部にある赤い絨毯の道を進んでいけ」
「はい」
「そこを超えた先には、大きな庭園が広がっている。
そこからさらに奥へと進むんだ。迷ったら赤い絨毯を目印として進んでいけ。
進んだ先には虹色の扉がいくつかあり、そのどれかが本館への入り口になっているはずだ」
「なかなか凝ってますね。裏の入り口ってことですね?」
本館の正面からは入れない、大神官の隠し部屋か……。
これは、いよいよラスボス感出てきたな。
「そうだな。それが唯一大神官へと通じる道だ」
「なるほど」
「よし、わかったなら急いでくれ。
別館の奥では妹が待っているはずだから、正しい扉がどれか聞くといいだろう」
「青いお姉さんですね、わかりました」
クロアは急ぎ、別館へと向かった。
◇
クロアが別館に入ると、内部はもぬけの殻になっていた。
人は誰もいないのか……。おそらく組織がやったんだろうな。
街にも人がほとんどいなかったし……。
組織はついに大規模な行動に出たんだな。
……どうやらこれが目印の赤い絨毯らしい。
これを辿っていけば本館に通じる扉があるんだったな。
◇
クロアは目印通りに進み、やがて大きな庭園に着いた。
さらに奥のほうへ進むと、リンがその姿を現した。
「やあ、クロア。待ってたよ、元気してた?」
「リンさんはこんな時でも相変わらず元気なんですね……」
「むしろこんなときだからこそだよ?」
「しかし……ボスは何を考えているんでしょうかね。
俺じゃないとできないことって」
「わからないの?クロアにしかできないこと」
「うん……」
「そこは……妙に素直なんだね」
「いや、今は考えることがいっぱいで」
「今までしてきたことを一度じっくり考えてみて。
どうやってクロアの運命は紡がれてきたのか。
……考えたらさ、わかってくるんじゃないかな?何故クロアじゃなきゃだめなのか」
「わかりました……。少しだけ考えてみます」
「そうだよ。時間はまだあるんだからさ」
◇
クロアが考えている間、リンは隣でその姿を静かに見守っていた。
……そして数分後、二人の近くにあった虹色の扉が開いた。
「そろそろ時間ですよ。この先が大神官へと通じる道です」
「……メーティスさん」
「じっくりと考えて、何かわかりましたか?」
「今までのことを思い出してみたら、見えてきました。いろいろと……」
落ち着いて考えたら……。力が出てきて能力も冴えてきた気がする。
「……そうですか。それは良かったです。
何もわからないまま、いきなりこの先へ行っても意味がありません。
大神官が誰で、自分はどうするべきなのか……。
事前に考えておかなくては、いざという時に行動ができませんよ……?」
「なんだか初めて優しい言葉をもらった気がします」
「……はい?」
「今まで命令しかされなかったじゃないですか?」
「そうでしたか……?」
……メーティスさんの容姿はビアさんに似ている。
俺の予感から察するに、同じ家系の人物であると分かった。
……つまりそういうことなのだ。
「……行ってきます」
「では、頑張ってきてください」
「応援してるよー」
クロアは二人の声援を受けながら、大神官へと通じる道を開いた。
◇
それからクロアは豪華に装飾が施された道を進んだ。
ピカピカな道……。もう何とも思わないな。
俺はこの世界の異常に、すっかり慣れてしまったようだ……。
そしてクロアは、最深部へと辿り着いた。
◇
クロアが扉を開くと、二人の美少女が目の前に立っていた。
「……奇麗な姉妹が俺をお出迎えですか」
「……クロア、ずいぶんと言うようになったわね?」
「いや、何か自然と言葉が出たんですよね。不思議と」
「今までそんなキャラじゃなかったじゃない?
随分と変えられてしまったようね?」
「いやあ、ビアさんは変わってないなあ……。
……さて、これからどうするんです?」
……それにしても二人はとてもよく似ているな。
ボスが仮面を完全に外したということは……。
もう俺に素顔を見られてもいい。それだけの覚悟があるんだろうな……。
「……まずは来てくれてありがとうとお礼を言っておくわ。
でも……ここからはあなた一人で大神官に直接話しをしに行ってもらうわ」
「え……?それなら三人で行ったほうがいいのでは?」
「力が無ければ、大神官にいいようにされて終わりでしょうね。
私なんかは特にね」
……洗脳されるみたいなことか?……そこまで大神官の力は強力なのか?
ここまで来て、ボスと大神官の話し合いが見れないなんてな。
見ものだと思ったのに……。
「クロア!それ!」
「ん……?」
クロアがポケットに入れていた、ブラックオニキスが突然光を放ち砕け散った。
「びっくりした……。これはいったいどういうことですかね?」
「悪いことではないの。その石が最後の役目を果たした」
「確かに特に悪い感じはしませんね、むしろ力が漲ってくるみたいだ……」
「一番良い時期に壊れるようになっていたのね。さすがメーティスはやるわね」
◇
「さあ、そういうことだから、ここからはあなたの見せ場なのよ」
「本当に俺一人で?ボスの方が力は上なのでは……?」
「とにかくあなたがこれを持ち、大神官相手に渾身の力で能力を放ってくるの」
ボスは青い鳥の像をクロアに手渡した。
「そして大神官の能力を封じるのよ」
「え、本気で俺に……?」
青い鳥の像……ちっちゃ……手の平サイズじゃん。
想像していたサイズよりも遥かに小さいな。
「今までの怒りを力に変えるの」
「今までの怒り……?」
「あるでしょう?ここに来てからの生活。元の世界にいた時の生活。
その時の全ての怒りの感情を頭に思い描いてみて……」
「それらを全て、あの能力と拳に込めるのよ?」
「怒りの感情を能力に加える……?」
確かに過去にイラついていた場面を思い出すと……力が湧き出てくる気がする……?
「それって……もしかして?」
「黒と白の四つの能力は人の喜怒哀楽に対応しているの」
「つまり、こういうことね」
二人は能力についての説明をした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
白☆チェンジ(喜)⇔黒☆黒い炎(怒)
白☆未来予知(楽)⇔黒☆ガード(哀)
白☆ホワイトホール(哀)⇔黒☆ブラックホール(楽)
白☆シーズン(怒)⇔黒☆チェンジ(喜)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
◇
「なるほど、そういうことですか」
「だから、怒りの感情が能力そのものの力にプラスされるのよ」
「でも力に変換した分その感情は薄れていくの」
……確かに前に黒い炎を放った後にやけにすっきりした気がしたな。
無意識のうちに俺の内なる怒りを放っていたってわけか。
「でも……本当にいいんですね?
そんなことをしたらどうなるかわかりませんけど。
下手したらこの世界を丸ごと破壊しますよ?」
「それでもいいの」
「そう、それぐらいしないと大神官には太刀打ちできないのよ?」
二人で一斉に言われると何だか圧がすごいな、圧が……。
「二人とも全然わかってないんですね?
俺の今まで貯めてきた怒りの感情がどれ程のものか……」
「もちろん、私はそんなの知らないわよ?」
「きっとクロアの事だから、たくさんあるんでしょうね……」
「何だか……その反応は余計にイラつきますね」
「そう、その感情こそが大事なのよ」
「じゃあクロア、そういうことだから頑張ることね……」
「終わったら、私の能力で必ず元の世界に返してあげるからね?」
「例えうまくいかなくても……約束したのだから必ず返してあげるわよ」
「あの……俺の返事も聞かずに勝手に決めないでくれます?」
「そう、その調子よ。もっと怒りを、少しでも多く貯めるのよ?」
やれやれ……。