反乱
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「大きな運命が見事に捻じれてしまいましたね」
「こうなってはもう私たちの力でも……無理かもしれないですね」
「どういうことですか?せっかく久しぶりに三人が集まったというのに」
「つまり……こういうことです」
序列3位の神官は、胸に付けていた白く輝くバッジを強く地面に叩きつけた。
バンっという衝撃音が、辺り一帯に木霊した。
「……この静かな場所でそのような行為は、結構響きますよ?」
「……なんてことを」
そして序列3位の神官はその場から立ち去って行った。
◇
「序列3位の神官はついに協会を捨てましたか……。
最後までよくわからない人でしたね。
もはやこうなってしまったら、この序列という制度そのものも、あまり意味をなさないようですね」
「……そうみたいですね。それであなたはどうなのですか?」
「はい?」
「私にはわかりますよ?
少しずつ滅びに向かってきた運命を一緒に見てきたのですから」
「……そうですね。大神官がこうお望みならば仕方ないでしょう。
全てを手にしたものが、全てを壊したくなるのもわかる気がします」
「そうですか。私にはわかりませんね」
「人間、全ての事に満足してしまったら、逆につまらなくなるんじゃないですか?
最初は気持ちが良くても……。目標も願いも欲望も全て瞬時に叶ってしまうんですよ?
全てが自分の思い通りに動く。でもいつからかそれがマンネリ化してしまう。
そう考えてみたら……おかしくはないでしょう?」
「そういうことですか。私はそんなことを一度でも思ったことはありませんね。
死ぬまで自分の思い通りに生きたい」
「考え方の違いですね。絶対に相容れない相性は存在するという宿命ですね」
「そうですね、それはわかる気がします」
「……例えばクロアの影響を受けたのかもしれませんね。
いや、それすらも操っていたんでしたっけ?」
「それを結局楽しんでいたのでしょうか?犯罪ではないとしても……」
「それを思いだしたらキリが無いですよ。
それに能力のお陰で犯罪は抑えられているじゃないですか……?」
◇
◇
「サラ様……」
庭園に、遠くから女性の小さな声が聞こえてきた。
「おや、どうやらお客人が来たようですよ?」
「そうみたいですね」
「たまには大きな運命より、小さな運命に気をかけてみてはいかがですか?」
「そうですね。もうこのままでは協会が崩壊するのも時間の問題でしょう。
……最後に教えてもらえますか?あなたの能力で大神官の居場所を」
「…………もうこの街まで来ています」
「そう……さようならミゲル……」
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「ついに今日が……。その時がようやく、来たのね……」
「ボス、準備はできています」
「神官達が少ない時間帯に、直接忍び込むのですね?」
「私も用意はできてますよ?」
「じゃあついに大神官のいる場所へと出向くわけだな?
これでようやく本当の正体が……」
「……ところでクロアはうまくやっているかしら?」
「問題ないみたいですよ。無事に神官アメルから情報を手に入れたみたいです」
「世界各地の今の状況は?」
「問題ないです。
各国にある黒い扉で、運勢が悪くなった人物を問題なく感知できています」
「じゃあ……何でもいいの。何か特別、今日から変わったことはない?」
「……それなら今日の朝、私の今日の運勢が大きく変わりましたよ?
今までに見たことも聞いたこともない運勢でびっくりしました」
「ふふ……相変わらず、アイさんは面白いことを言うのね?」
「……そうですかね?」
「ではこれから……。アイ、ロルド、メーティス、ミゲル……そして新たな仲間レイ。
今日は最高のショーをみんなで楽しみましょう」
……そして組織のリーダーは5人の側近を引き連れて……。
大神官の座するとされる、明国の中心、協会の総本山へ向けて歩みだした。
◇
難なく協会の別館に辿り着いた組織の六人は、入口に待ち構えた神官達と相対していた。
「今ここが手薄だとよくわかりましたね?
徹底的に未来予知は封じていたのですけどね」
「なるほど、だからこんなにも苦労させられたのね。
それにしてもみんなガードがお堅かったわ」
「抵抗しなければ、何も危害は加えませんよ?」
「そりゃあもちろん精一杯の抵抗はさせてもらいますが。
協会が絶対正義、組織は悪ですからね。
最初に制度を作った方が勝つのは、歴史から見ても当たり前ですから」
「なるほど、そういう考え方もあるわけか……」
「こんなところで立ち話をしている状況ではないのではないですか?
時間が経てば、この街に集まってきている全国の神官がここに来てしまいますよ?」
「確かにそうかもしれないわね。でもこちらの準備は万端よ?
その言葉はそちらに返す必要があるのではなくて?」
「ほう……。いったいどういう策を講じてきたのですかね?」
「それはすぐ近くの未来でわかることでしょう」
◇
その日、組織による協会に向けての大規模な反乱が世界各地で起きた。
組織の者は世界中の人々に、協会の是非を問いただした。
それからたった数時間で、協会の者は続々と淘汰されていった。
もちろんこれは武器を使っての実力行使ではない。
それは能力、策略、知恵、情を巧みに使った……。
組織の、今までを含む全ての作戦の総合的な結果である。
そして組織のリーダーは……。
大神官へと繋がる虹色の大きな扉を目の前にして、ある命令を側近たちに伝えた。
「クロアを呼んできて」