黄占い師と黒い炎
◇
「はあ……。この塔……縦に結構広いんだな」
占いの塔には数十階に階層があり、それぞれの階に占い師がいるらしい。
だがどこの階も、相談をする予約でいっぱいになっていた。
「ここは……。もう最上階か?」
どうにか運勢を良くする方法はないものかな……。
「……おーい、そこのお客さん、ここで占っていかないかい?」
「うん?」
「今なら無料で占ってあげるよ」
声のしてくる方をよく見ると、変な格好の人がいた。
色んな絵柄が付いた、色とりどりの派手なスーツを着ている。
「それは本当ですか?」
……タダなのは少し怖いが、今は少しでも情報が欲しいところだ。
「占うならこっちに来て、ここに座ってくれ」
クロアは言われるがままに付いて行き、変な格好の人の目の前に座った。
相変わらずのカラフルな椅子とテーブルが目立っていた。
「……ああ名前は、ジョセフだ」
「クロアです」
そう言うとジョセフは、なにやらゴソゴソとし始めた。
大きなカバンから何かを取り出していった。
「早速だけど、すぐに占ってあげよう」
「今すぐに?一体どうやって?」
「そうだな、タロット占いにしよう」
「タロット占い?」
ジョセフは準備を進めながら、時折クロアを見て話した。
「知っているだろ?偶然のきらめき、卜術を」
「えっ?」
「知らないのかい?
どんなにひどい運勢を持っていようとも、一度占えば一時的にでも人を救える。
魔法のような存在、それが卜術さ」
卜術?そんなの聞いたことないけど……。
「例えば勝負事などがある時。
一時的にでも運勢を上げたい時に効果を発揮する。蛇国特有の占いさ」
よく見るとその胸には、黄色いバッジがひと際輝いていた。
黄占い師が蛇国特有の占いだったとは……
ジョセフは話しながらも、手際よく準備を済ませていた。
「さあ、この中から好きなカードを一つ選んでくれ」
テーブルにはカードがバラバラに並べられていた。
「はい……」
タロットカードってなんだか聞いたことあるな。
言われるがままに事が進んでるけど……。
無料だしやってみるしかないか。
「これだ!と思わなくて良いんだ。
むしろ何も思わないでくれ。偶然にすっ……と取る感じで頼むぞ」
「……わかりました」
どれでもない……どれでもない。
テーブルの上にごちゃ混ぜになったカード。
その上に手を翳し目を閉じて念じる。
無心。無心。無心。
手を上下左右に動かしながら、何も考えないで取る……。
「このカード……」
すっ……と手になじむカードだ。
クロアはカードを表に返して、テーブルの上に優しく置いた。
「あわわわ、あんた、これ」
ジョセフはとても驚いて、腰を抜かした。
「えっ……」
それは死神の正位置のカードだった。
クロアがカードをテーブルに置いた次の瞬間。そのカードが黒く光りだした。
眩い漆黒に光ったカードは……。
黒いオーラを身に纏い……。
瞬く間に黒い靄のようなものを次々と生み出し……。
白い辺り一面を、黒く塗り潰していく。
塔の内部の部屋中が全て闇色に染まると、
今度はその塔にまとわりつくように、
黒い炎が次第に勢いを増し、燃え盛っていく。
「なんて事だ……」
◇
塔にいる人々は、次々とその異変に気付いた。
すぐに脱出を図ろうと者、身を守ろうとする者。
どうにかして黒い靄を振り払おうとする者。
だがそんなことはお構いなしに……。
数十秒でその白い塔は、黒い塔に塗り替えられた。
クロアは完全に意識を失い、その場に倒れこんだ。
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颯爽と馬で大地を駆け抜けていく、ビアとロルドの二人。
その視線の先には、漆黒の塔を捉えていた。
「ビア様、始まったみたいです。予定よりだいぶ早い。どうするおつもりですか?」
青いローブを身に纏っているロルドは言った。
「思いの外、占いの知識の習得が早かったようね」
ビアの金色の透き通るような長髪が、風に揺れて靡く。
白く輝く衣装は、すさまじいオーラを醸し出していた。
「まさかこの数週間で、ここまで理解するとは思いませんでした」
「マグマが取れてしまったようね。また封印するしかないかしら?」
「俺は、あいつ好きですよ。単純でどこか抜けてるけど、意外と考えてる妙な奴だ」
「……そうなの。ところでクロアの誕生日は?」
「10月29日です。この俺が透視したので、間違いないです」
「そう……」
そう言うとビアは目を閉じ、瞑想を始めた。
ロルドはその様子を、固唾を呑んで見守った。
暫しの間瞑想をした後、ビアは口を開いた。
「他の方法もあるかもしれないわね」
「未来予知の結果はどうなったんですか?」
「わからない。でも少なくとも未来は変わっている」
「やはりあの少年は……危険ですか?」
「とにかく鎮めに行きましょう。話はそれから」
「はい、お供します」
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